南極半島の観光クルーズに参加して

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シリーズ「極地の観光」第1回

国立極地研究所  佐藤 夏雄

南極半島の観光クルーズ 講師として参加してきましたので、その概略を報告します。クォーク・エクスペディションズ社が運行する耐氷観光船「オーシャン・ダイヤモンド号」を読売旅 行がチャーターしての10日間の船旅です。日程は2015年1月21日午後にアルゼンチン南端のウシュアイア港を出航し、1月31日早朝に帰港する便で す。日本人の乗船者は、観光客が121名、旅行社側の同行スタッフ10名、講師2名、和食シェフ2名です。観光船には船の運行や乗客サービスのスタッフの 他に、極地観光クルーズ特有のエクスペディション・スタッフ(探検スタッフ)21名が乗船しており、極地の専門家としての講義、上陸案内、ゾディアック・ ボート操縦、医師などの役割を担っています。 美しい山々に囲まれたウシュアイア港を出港してから南極半島に到着するまでの船内行事として、 まずは、これからの船内生活の過ごし方や今後の予定などの説明会、防寒服と防寒長靴の配付、などがありました。そして翌日からは、それぞれの専門分野の講 師やエクスペディション・スタッフによる講義が午前の部と午後の部で行われました。ドレーク海峡は幸いにも余り揺れることなく通過し、1日半後の23日昼 頃には、当初計画よりも早く、最初の上陸地のアイチョー諸島沖に到着し、南極半島の観光が始まりました。 観光の基本プランは、24日から 27日までの4日間の午前と午後のそれぞれの3時間、観光スポットでのグループ行動です。南極へ同時に上陸できる人数は南極条約で制限されていることか ら、グループは南極大陸への上陸コースとゾディアック・ボートでの遊覧コースの二手に分かれて船を出発します。このグループは途中でコースが入れ替わり、 南極の自然や生き物を楽しむように計画されています。実際に上陸する地点や航行ルートは、到着時点での天候や海氷状況によって、適地を求めて決められま す。今回の航海ルートと観光の様子の写真をここでは示しました。 観光の目玉は、南極ならではの、氷河や海氷などの雄大な景色を眺めるととも に、ゼンツーペンギン、ヒゲペンギン、アデリーペンギンのルッカリー訪問です。さらに、南極観測隊(JARE)では経験できないイベントとして、ゾディ アック・ボートからのクジラ見学があります。この時期はクジラの餌である南極オキアミが大量に繁殖することから、多くのクジラがこの地域に集まって来てい ます。エクスペディション・スタッフはクジラを求めてボートを巧みに操ります。我々はクジラがいつ何処に現れるのかドキドキ・ワクワクしながら周囲を見回 し、出たらすぐにカメラを向ける。このような体験はこれまでにしたことが無く、私にとっては特別に興味深かったです 南極半島には基地が多くありますが、ゼンツーペンギンのルッカリーに囲まれた英国基地のポートロックロイでは土産品店でハガキの投函ができます。アルゼンチンのブラウン基地にも立寄り、見晴らしの良い丘に登って氷河や氷山などを眺めるハイキングも楽しめました。 南極での観光に際しては、下船時に着用する衣服やザックなどの掃除、ゴム長靴の消毒液洗浄、ペンギンやアザラシへの近接禁止など、外来種持ち込み禁止や環境保護に関する南極条約環境保護法に沿った指導と行為がシッカリとなされていました。 講師としての私の役割は、往路の2回と帰路の2回の講義と、毎夕にその日の出来事を復習する集会でのワンポイント講義でした。参加者の多くは知識欲が旺盛で、船酔いにもかかわらず、集中して聴講して下さる姿勢に感心させられました。 南極半島クルーズの参加費は高価ではありますが、南極でしか見られない景観や生き物に出会うことにより、グローバルな視点での地球環境が実感でき、参加者の皆さんは十分に満足された様子でした。 参考までに私が参加しましたクルーズ関連のウェブサイトを以下に示します。 南極への船旅14日<http://www.yomiuri-ryokou.co.jp/cruise/detail.aspx?id=4767> 南極・北極旅行クルーズ・ツアー <http://www.cruiselife.co.jp/>

佐藤 夏雄(さとう なつお)プロフィール

国立極地研究所・名誉教授・特任教授。山形大学理学部卒、東京大学理学系大学院修士課程修了、同博士課程中 途退学、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第29次隊夏隊長、第34次隊越冬隊長を務める。北極圏のアイスランド、スバールバル、ノルウェー、グリーン ランドなどでの研究観測の経験も豊富。専門はオーロラ物理学。
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