アッパリアホ捕り-北グリーンランドの夏の楽しみ

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林 直孝(カルガリー大学文化人類学考古学科)

七月六日、ヒオガパルッから西へ三キロほどのアチキャッドに着いた。海からそそり立つ瓦礫の山の頂から「フィーン、フィーン、フィーン」という音が響き渡り、時折、「ピリリリーッ、ピッピッピッピッピッ、プッ!」「フィッフィッフィッフィッ、フィーッ!」という声が澄んだ空気を切り裂く。ちょうどアッパリアホ(appaliarsuk, 英名little auk [Alle alle])捕りシーズンの真っ最中だった。アッパリアホは、6月になると、この地域のがれ山に巣作りのために渡って来る海鳥だ(写真1)。

写真1.アッパリアホの大群

大群をなし、がれ場から海に向かって飛び出し、ぐるぅっと旋回し、また山に戻ってくる。一万羽、いや十万羽はいるかもしれない。ヒオガパルッの人々は、この時期になると、長い柄のついたイポッ ippoq というたも網を使って、飛んでいるアッパリアホをすくい捕る(写真2)。

写真2.たも網を使って飛んでいるアッパリアホをすくい捕る。

長さ三メートル強の、物干し竿のような、このたも網を操るのは難しい。不注意に大振りすると折れてしまうからだ。海岸線と平行に向き、斜面に立つかしゃがむかし、アッパリアホの群れが向かってくるのを待つ。鳥が自分の横を通過した瞬間、すばやく網を降り出して、鳥を捕らえる。網は深くない。鳥が網に入った瞬間に手首を返して網をひねらないと、網にぶつかった反動で鳥は網から逃げてしまう。鳥を捕らえたことを確認したら、すばやく竿を手繰り寄せ、網に絡まった鳥を外す。指で心臓の部分を上に押し上げれば、数秒で鳥は死ぬ。太陽光に当たると鳥はすぐ腐ってしまうので、絞めた鳥は岩場の影に置いておき、再びアッポリアホ捕りの再開だ。地元の人なら一~二時間で百羽ほど捕れる。私も挑戦してみた。やはり地元の人のようにうまくいかない。二時間半ほどやって、十一羽だった。
体の割に羽が小さいので、飛ぶのはあまり得意には見えないが、緩慢に網を出せば、網の直前で、スッと体を傾けてかわしてしまう。周りを見渡せば、カッドッウィッkatdloorvik という石を積み上げた小さな砦がそこかしこに見つかる。そこで近くにあったものに隠れてみた。岩場の影に隠れて鳥をすくい取る作戦だ。しばらくやってみると、鳥の性質がわかってくる。すばしっこい鳥だが、好奇心は旺盛。カッドッウィッから、向かってくる鳥をちょいと覗き、すぐ頭を引っ込めてやる。すると、通過する際、「一体何がいるのか」と首を傾げながらわざわざ確かめに私の頭上を通るのだ。そこをさっと網ですくい取る。いかに鳥を騙すかが勝負のようだ。また、風が吹けば、アッパリアホは風に逆らって飛ぶ性質があるので、飛ぶ方向が定まり、捕りやすくなる。

私がヒオガパルッに着いた頃、ちょうど韓国のテレビ撮影班が来ていた。彼らの目的はキビアkiviaqの作り方を撮影すること。キビアとは、アッパリアホをアザラシの脂肪を使って発酵させたものだ。脂肪を落としていないアザラシの毛皮で作った袋の中に詰め込んで、岩場の下に二、三ヶ月寝かしておくと、発酵する。冒険家の植村直己が、自分の本の中でキビアを紹介したので、御存知の方も多いだろう。キビアは、よく、肥溜めのような臭い匂いがして食べられた代物ではない、というように紹介されるが、ちょっと大げさなように思う。たしかに臭いが、味はなかなかのものだ。食べたことはあるが、作っている所はまだ見たことがなかったので、ビデオカメラの横にくっついて見学させてもらうことにした。

写真3.捕ったばかりのアッポリアホを涼しいところに置いて冷やす。

捕ったばかりのアッポリアホはまだ体が温かいので、七、八時間、涼しいところに置いて冷やす必要がある(写真3)。温かい鳥をアザラシの袋に詰め込むと肉が傷んでしまうそうだ。アザラシの毛皮の一端を、丈夫な糸できつく縫い止め、袋を作る(写真4)。その中にパンパンにアッポリアホを詰め込んで上も縫い付ける。見たところ、二百五十羽ぐらい詰めていた。そして毛皮上部も糸できつく縫い付け、空気を抜く。パンパンに膨れ上がった毛皮袋は貯金箱の子ブタさんのようだ(写真5)。空気を抜かないと発酵がうまく進まない。空気に触れた状態で発酵させるやり方もあるが、アンモニア臭がきつくて、それ(アヒョオンナという)を好む人はあまりいないようだ。

写真4.アザラシの毛皮で作った袋

写真5.パンパンに膨れ上がった毛皮袋

写真6は、発酵の準備をしているところ。石をどけ、小さい石で平らな床を作り、その上にアザラシの毛皮袋を置く。まず、大きい石を乗せる。それでさらに空気を抜くようにするのだ。アッパリアホ、脂肪のついたアザラシの毛皮、そして岩場。まさにこの地方でしか作れない、季節の食べ物だと思った。

写真6.発酵の準備

ちなみに韓国のテレビ撮影班は、世界の発酵食品を紹介する番組を作っているそうだ。私が、撮影班に、キビアの匂いは、強いて言えば東京のくさやに似ていると思うと言うと、実は彼らは、秋頃、東京に行って、くさや作りの撮影をすると言っていた。番組の放映は今年の十二月の予定。YouTubeでも見られるというそうなので、今から楽しみである。

(注)地名や名称の表記はなるべく北グリーンランドの発音に忠実に表記した。日本では、一般にSiorapaluk はシオラパルク、Appaliarsuk アッパリアスと書かれる。しかし、北グリーンランド語には、s 音はなく、h音に置き換えられる。また、raの音は日本語の「が」に近い。したがって、Siorapaluk はヒオガパルッ、Appaliarsuk アッパリアホと表記した。

林 直孝(はやし なおたか)プロフィール

カルガリー大学文化人類学考古学科助教。2007年以来、グリーンランドの各地で、先住民イヌイットの人たちの生活と自然との関係を研究している。 連絡先:naotaka.hayashi@ucalgary.ca

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