飲料水(その1)

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ーシリーズ「南極観測隊の生活を支える技術」第1回

石澤 賢二(国立極地研究所極地工学研究グループ)

 

地球上の淡水は南極に集中

私たちの地球にはおよそ14億km3の水があると言われています。そのうち、約97%が海水で淡水は3%しかありません。淡水の内訳は、図1に示すとおり、氷河・氷床が約70%で断然多く、そのほとんどが南極大陸に存在する氷です。地下水が30.1%、私たちがふだん飲料水として使っている河川水などは0.3%に過ぎません。 南極に淡水が集中していると言っても、それを使うためには、熱量を与えて溶かす必要があります。

南極での飲料水確保

図1 地球上の淡水の内訳

現在南極には越冬基地が40か所あります。これらの基地ではどのようにして、観測隊員の飲料水を確保しているのでしょうか? 南極での造水方法は大まかに、次の4種類に分類できます。 (1)湖水の利用 沿岸露岩地帯にある基地では、夏期には融雪が進んで、いろんなところに水たまりができます。この水を基地までパイプラインで運搬し使う方法です。日本の昭和基地も基本的にはこの方法です。しかし、冬期には凍結するため、発電機の廃熱などを利用して融解する必要があります。 (2)貯水タンク 雪や氷山などをタンクに入れて溶かす方法です。南極大陸の内陸氷床上にある基地のほとんどがこの方式です。 (3)海水淡水化 沿岸にある基地の多くがこの方式です。海水を沸騰する方法と、逆浸透膜(RO膜)という特殊な膜に高圧ポンプで圧力をかけて淡水を得る方法があります。最近沿岸にできた新基地のほとんどが、このRO膜を利用しています。 (4)ロドリゲス井戸 雪と氷の違いは、通気性があるかどうかです。山岳地帯や地形の複雑なところには裸氷(青氷)地帯が発達します。このような所に穴を掘って熱量を加え融氷・貯水して、この水を汲み上げて使う方法です(図2)。アムンゼン・スコット南極点基地では深い穴を掘って、エンジン廃熱の温水を循環させ、水を汲み上げて使います。この方法は、深度の浅い雪の層では、周囲に水が漏れるため使えません。青氷か深い穴が不可欠です。図3が、各国の造水方法を分類し、基地の位置と共に示したものです。

図2 ロドリゲス井戸

図3 南極基地での造水法

昭和基地の飲料水

昭和基地がある東オングル島は周囲が海に囲まれた露岩地帯に位置しています。基地周辺には小さな池があり、簡易な堤防で流水を堰き止め貯水し、これらの水を利用してきました。しかし、冬期には凍結するため、発電機の廃熱でその一部を融解しなければなりません。また、屋外に設置した大型水槽に雪を入れて融解する方法も併用しています(図4)。

図4 昭和基地の飲料水用のダムと屋外水槽

  現在の1日1人あたりの使用量は、232ℓ(第53次越冬隊)で、日本の生活用水の平均使用量である約300 ℓ に迫る量となっています。 この量は第7次隊の約5倍です(図5)。

図5 昭和基地の年間水使用量 (第7次~53次越冬隊まで)

将来の造水法

昭和基地ではディーゼルエンジン発電機が24時間稼働し、基地の各施設に合計約200kWの電力を常時供給しています。エンジンから出る廃熱を温水にして、暖房、風呂水の過熱、造水などに利用しています。そのうち造水に使っている熱量は、約100kWです。発生した電力を直接使っている訳ではなく、エンジンの冷却水熱を有効利用しているのですが、そのエネルギーは大きなものです。その理由は、氷から液体である水にするときの融解潜熱が大きいことと、屋外水槽に蓋がないため、熱が外気に逃げていくためです。そこで考えられるのが、外国基地で使われているような逆浸透膜を利用した海水淡水化法です(図6)。海水の温度は約-2℃で通年安定しています。海氷に穴を開けて海水を汲み出し、パイプラインを介して基地の建物に設置した逆浸透膜に通せば、現在の1/10のエネルギーで飲料水が得られるはずです。将来、基地の発電装置を更新するときに併せて計画したい項目です。

図6 ニュージーランド、スコット基地の採水ポイント

石澤賢二プロフィール

国立極地研究所極地工学研究グループ技術職員。同研究所事業部観測協力室で長年にわたり輸送、建築、発電、環境保全などの南極設営業務に携わる。秋田大学大学院鉱山学研究科修了。第19次隊から第53次隊まで、越冬隊に5回、夏隊に2回参加、第53次隊越冬隊長を務める。米国マクマード基地・南極点基地、オーストラリアのケーシー基地・マッコ-リー基地等で調査活動を行う。
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