北極大学の取り組み

吉川謙二(アラスカ大学フェアバンックス校・教授)

北極大学(University of the Arctic)とは、実際に校舎が存在しない架空の大学で、アラスカ大学をはじめオタワ大学、オスロ大学、ストックホルム大学、ロシア連邦大学など北極地域の大学や研究機関が協力しあってネットワークを作っている組織である。主に各大学間で単位をシェアして学生を行き来させて、教育や研究活動を交流する場となっている。北極域には属してはいないが、オブザーバーとして中国や韓国も多く参加している。日本では北海道大学だけがメンバー(オブザーバー)になっている。それぞれの大学では主にノース2ノースプログラムという交換留学制度があり、北極大学メンバー校の学生ならば、母校に学費を払うだけで、半分未満の卒業単位まで留学先の他のメンバー校の授業が受けられ、単位も習得できる。オンラインコースも増えてきた。参加校は年々増加傾向にあるので、日本の大学、研究機関も今後積極的に参加して行くと良いと思う。

北極大学の事務局はフィンランドのOulu University内にあり、実際にリモートで働いているのは学長を含め5人ぐらいだ。あとは各大学の留学生の受け入れ部署が事務協力している。学生交流の他、研究および専門分野ではthematic networkという大学間の専門家による組織を作り、情報交換をしている。現在58のthematic network があり、極地ビジネス、政治、法律、文化、工学、教育、芸術、科学など文系理系ほぼすべての北極に関するトピックの専門家の研究グループが存在する。thematic networkでの活動は自由で実に様々であるが、よくあるパターンがサマースクール、ワークショップの開催などである。基本的にはこのようなサマースクールの開催はオープンなので北極大学メンバーでなくても参加できるように努めている。興味のある学生は北極大学のウェブサイト(https://www.uarctic.org/)で情報を得てほしい。

また、詳しい現況を知りたい人は毎年年報“Shared Voices”を発行していてインターネットでも閲覧できる(An Empowered North – With Shared Voices)。

Thematic network on Permafrost

北極大学のそれぞれの詳しい活動はウェブサイトに譲るとして、この10年ぐらい私がこの北極大学で永久凍土部門の担当をやっているので、もう少しthematic networkの活動について、説明したいと思う。

永久凍土とは連続して2年以上0℃以下の地面を構成している物質を指す。すなわち土や岩石はもちろん、泥炭、地下で発達した氷なども含む。北極南極をはじめ、チベット、アンデスなどの高地や海底にもあり、地球(地表)全体の1/4以上を占める。日本では富士山や大雪山に存在し、ハワイのマウナケアにも部分的に分布している。しかし圧倒的に多いのは少数民族の住む北極である。最近の温暖化の話題で永久凍土はすっかり大きなトピックになったが、今でも永久凍土を氷(だけ)だと思っている人が多い。特に著名な新聞、雑誌社のジャーナリストでも平気で温暖化で永久凍土が溶ける(melting)と書いている。ここは氷だけでなくむしろ土壌の方が分量が多いので融解(thawing)と書くべきであろう。Thematic Network on Permafrost https://www.uarctic.org/organization/thematic-networks/permafrost/(永久凍土ネットワーク、以後TNPと略す)は母体が国際永久凍土学会で委員の多くは両方の教育およびアウトリーチ委員と重複する。TNPの最大の対象は大学および大学院の教育、研究サポートと大学間の連携強化にあるが、北方民族の地域社会への貢献もとても重要なテーマと考え、それぞれの世代に対して、どう永久凍土や極地の気候変動との関係を連帯共有するか?全世代の北極地域住民の永久凍土の知識の充実を目的として、次のようなプログラムを展開してきた。

1.地域教育小中高校生フロストチューブGLOBEプログラム
2.集落学校ベース永久凍土モニタリングプログラム
3.学部学生サマースクール
4.大学院生交換留学および研究支援
5.大学講座カタログの運営(Sharing existing courses Collaboration/ sharing data archives)
6.Internship of master students, support for Master theses
7.Internship of PhD students and researchers at other partner UArctic universities
8.市町村、自治体カウンセリング
9.極地インフラストラクチャーサポート
10.シニアー対象生涯教育

それぞれのプログラム内容ついて書くには多くなるので、今回はいくつかの事例を紹介したい。

GLOBEプログラム

GLOBEとはThe Global Learning and Observations to Benefit the Environment (GLOBE)の略で、北極圏に限らず世界中に展開しているアメリカベースの教育科学プログラムである。学校で先生と生徒が何らかの観測をし、理解を深め、それをGLOBEウェブサイトを通じてデータインプットし、他の学校および研究者がそれをシェアできるようにしたシステムで、1995年から始まり、主にNASAとNOAAが出資している(U.S. National Aeronautics and Space Administration (NASA) with support from the National Science Foundation (NSF), National Oceanic and Atmospheric Administration (NOAA) and Department of State) 。

The active participation and contribution from various members of the GLOBE community are essential to the continued success of GLOBE. This participation is achieved through the Common Element Working Groups (WGs) and the U.S. Partners Forum. https://www.globe.gov/en/about/overview

Vision: A worldwide community of students, teachers, scientists, and citizens working together to better understand, sustain, and improve Earth’s environment at local, regional, and global scales.

Mission: To promote the teaching and learning of science, enhance environmental literacy and stewardship, and promote scientific discovery.

例えば何月何日にどんな雲が、見えたか?地面は何センチ凍っていたか?などを統一したプロトコルで観測、記録し、広い範囲で市民が行うことにより、科学的に意味を持たせ、衛星データなどと付き合わせられるようになっている。GLOBEでは頻繁に先生や地域社会のリーダーを対象にワークショップを開きプロトコルのアップデートや指導をし、コースを修了したら資格を授与する。資格を与えられた先生はGLOBEウェブサイトにデータをインプットできるようになる。われわれTNPでは、フロストチューブという土壌凍結の簡単な測定器の作り方や測り方のプロトコルを作り北極圏のみならず、季節凍土が起きる北海道、アメリカ本土東部地域,5大湖周辺やヨーロッパアルプス地方、ロシアなどで授業の一環として使えるようにした。

色のついた水を透明なチュープに入れ、氷と水の境界を測ることにより、地下の凍結深(融解深)を知ることができる。

フロストチューブプログラムは、教室での説明と野外での測器の設置、測り方が組みになっている。

フロストチューブは中に色のついた水が入った透明のチューブでこれを地面に埋め、毎回引き出すと地面がどこまで凍っているか簡単にわかるローテク機材だ。これを北極周辺の多くの学校に設置し、先生や生徒が測って、ウェブサイトに記入し、皆が共有できるデーターとなる。北海道では34校が参加して、日本語ウェブサイで見ることもできる。http://www.myu.ac.jp/~haradak/frost_tube.html

プロトコル: http://ine.uaf.edu/werc/projects/permafrost/frost_tube.htm

トンネルマンによる説明ビデオ:https://youtu.be/nOe1G_3jYak

図の青の部分が液体の水、白が氷を表す。季節とともに凍結深が増し、晩冬には活動層(active layer)がすべて凍っている。

アラスカの学校での観測結果の例

活動のブログ:
Permafrost Outreach (English)
Permafrost Outreach (Russian)
Frost Tube Outreach Program (Japanese)

最近NASAが公開した教育とアウトリーチプログラムでもアラスカのアサバスカンインディアン村ビネタイの様子が紹介された。

観測結果はロシアやアメリカ、カナダの科学コンテストでたくさんの賞を獲得した。上記のポスターはその一例である。

フロストチューブのほか、凍土関係としてGLOBEでは過去3回アラスカイヌピアット原住民の子供達とアフリカGLOBEの先生と生徒(タンザニア、南アフリカ、ケニア、トーゴ)と連れてキリマンジャロ登山野外学校を開いたことがある。活動のあらましは以下のビデオで見ることができる。

2009:https://youtu.be/v7Q6LF1e2L0

2010:https://youtu.be/vXHyyXPQwSI

サマー/ウィンタースクール

TNPでは過去4回、まだ専門が決まっていない自然科学系の学部学生を対象に凍土への興味と将来の凍土研究、修士学生輩出を目的としたサマースクールを行った。学生がコース中に永久凍土の研究トピックについて学び、永久凍土の融解の増加による潜在的な炭素放出から永久凍土のインフラストラクチャ設計まで、凍土研究が現代の地球システム科学でどのように多様であるかを概観することを目的として行われた。これは、講師のグループが生物学、地理学、地質学、工学、リモートセンシング、および地球物理学をカバーするようにし、共通のテーマが永久凍土であった。 2014年夏に初めてスバールバール大学(UNIS)を介してコースが設定され、UNISでは今でも毎夏このコースは継続している。初年度は80人の応募者の中から25人の学生がコースに受け入れられた。その時の学生の多くはヨーロッパからでノルウェー(5)、デンマーク(8)、ドイツ(4)、オーストリア(1)、カナダ(1)、スイス(1)、米国(1)、ロシア(2)日本(2)という内訳だった。

過去4回のコースの国別参加学生

ちなみにロシア(北西連邦大学)と日本(北海道大学)は、国際サマースクールというバランスを取るために、我々と大学から予算を引き出し、学生の費用をすべて負担した。その後ヤクーツク(ロシア北東連邦大学)、フェアバンクス(アラスカ大学)で実施し、なるべく広範囲の北極圏の学生が参加するよう配慮した。学生たちは、最終グループプレゼンテーションの評価を含む3週間のコースで5 ECTSの単位バージョンと、自己決定トピックに関する追加エッセイを含む10 ECTSバージョンの両方で評価した。

このコースに関係して北大では、毎年ロシア北東連邦大学にRJ3プログラム、アラスカ大学に新渡戸カレッジサマースクールを展開している。

コースの様子と学生の感想は以下のビデオで見ることができる。

“Happy” from Permafrost Summer Course at Svalbard 2014

学生たちの感想UArctic Permafrost Summer Course in 2014

ボーリングを準備する学生たち

コミュニティベースの永久凍土/活動層ネットワーク

コミュニティベースの永久凍土/活動層ネットワークには、アラスカ(米国)、カナダ、ロシア、ノルウェー、グリーンランド、モンゴル、中国、および日本にある500校を超える公立学校への永久凍土温度監視システムの設置をしています。プラスチックパイプを学校の近くに掘られた1インチのボアホールに入れ、サーミスタ温度センサーとデーターロガーで構成されています。地元の教師と生徒が掘削と測器の設置プロセスに参加し、教室を訪問して各サイトの永久凍土科学と工学について話し合います。教師と生徒は、測定サイト上の雪の厚さを定期的に測定し、データのダウンロードを支援します。その後の教室活動や先住民コミュニティの公共/地方自治体の活動、滑走路やクリニックなど新たなインフラストラクチャーの設計でデータを使用しました。得られた永久凍土温度データは、今後さまざまな地域の長期永久凍土条件に関連する研究に貢献すると予想されます。データーを集めた本の初版(主に北米からの結果に焦点を当てた)は一般向けに発行され、アラスカ/ユーコンのすべての学校に配布されました。この本は、サイトごとにデータが提示されるため、データアーカイブとしても役立ちます。また電子図書として閲覧も可能です。

Permafrost in Our Time (in English) Mainly focused on Arctic communities in North America

Мерзлота в наше время (Permafrost in Our Time in Russian) Mainly focused on Arctic communities in Siberia

大学講座カタログ

世界全国の大学で行われている永久凍土に関する大学講義のカタログで、永久凍土を志す学生の留学およびフィールドコースがわかりやすく検索されるようになっている。2018年までは毎年更新していたが、残念ながら、その情報アップデートにかかる労力(毎年世界すべての大学に照会して回って、編集に二ヶ月かかる)や時間と利用者のアクセス数の交通量との不均衡から現在保留になっている。

展示物によるアウトリーチ

永久凍土の紹介を目的にしたアメリカ国内博物館展示物パッケージで各博物館の臨時展示物特設コーナーとして、マンモスや当時現存した動物の展示、凍土の氷などの紹介を巡業して回った。

永久凍土と地域住民

北極の市町村、自治体カウンセリングや極地インフラストラクチャーサポートはTNP の重要な課題の一つで、凍土がらみの多くの問題について、共同でモニタリングや議論する機会を多く持つようにしている。下の写真は冬場になると現れるオーバーフローした氷である、わずかに滲み出る地下水も冬になると堆積し、道や家を覆ってしまう。また、極地の豊富な地下資源(ダイアモンド、金、石炭など)の多くは露天掘りをしているケースが多く、直接永久凍土が剝きだすことによるランドスライドや地下水の染み出しによるアイシングなど問題も多い。そのほかにもパイプライン、鉄道、道路といった長い建造物では色々な凍土環境を通過する必要があり、そのデザインやモニタリングも重要なサポートの一つである。これらの詳しい説明はここでは避けるが、興味のある人はロシア版データブックにはその一端が紹介されている(Мерзлота в наше время)。

アイシングに覆われるバイカル湖畔のシベリアの村
ニレングリ石炭鉱山に発達するアイシング

地域社会への最近のプロジェクトとしてはベルモント・フォーラム「Arctic Observing and Research for Sustainability(持続可能性のための北極観測と研究)」として“東部ロシア北極域永久凍土上の生態系と都市と村落の炭素収支 (COPERA)”という地域社会と自然環境を統合した炭素収支を考えるプロジェクトを北大杉本教授を筆頭に北東連邦大学、アラスカ大学の3国共同の研究を行った。あらましのビデオは以下のリンクから見ることができる。

地下貯蔵庫

永久凍土とその上に住む住民の一番のつながりは貯蔵庫(Ice Cellar)だろう。Ice Cellarとは ロシア語でLednik、ヤクート地方ではBulus、 イヌピアット(エスキモー)語で sigluaqと言い、地下に穴を掘って、通年または、季節的に利用する保存庫である。似たものとして、今でも広く利用されているワインセラーや日本ではかつて蚕の風穴、アンデスケチュワ族のコルカなどがある。地下に設定する利点はいくつかあるが、温度変化が地上よりも小さく安定している点が貯蔵などに適していると言える。また地下の温度変化には地上の温度の熱伝導に時間差があり、一番寒くなるのが初夏で、暖かくなるのが初冬と言ったタイムラグを有効に使うことができる。永久凍土に穴を掘り年間の温度を測ると右図のようになる。ちょうどトランペットが立ったような形になるのでトランペットカーブと呼ばれている。すなわち、地表面近くで最大の年変化があり、地下へ行くに従って小さくなる。そしてついにある深さで、それ以上変化がなくなる。この深さを無年変化深度(zero annual amplitude depth)と言う。基盤のような乾いた岩石でその深さは10−20mにもなるが、氷の多い湿った土壌だとせいぜい3−5mの深さになる。貯蔵庫が氷の多い凍土中だったら、3−5m掘るだけで一年中同じ温度の貯蔵庫が得られるわけだ。

一般に氷は堀やすい。基盤は手掘りでは難しいだろう。そのような背景からも、東シベリアからアラスカ、カナダ西部は貯蔵庫作りに適した地質と言える。一方カナダ楯状地やグリーンランド、スカンジナビアは氷食を受けた岩がむき出しで、自然のクラックや積み上げるぐらいしか保存庫を確保する方法がない。

北極圏にはイヴェン、イヴェンキ、チュクチ、ユカギル、ドルガン、サーメ、イヌイット、ユピックなど多くの少数民族が住んでいる。彼らの生活母体が、海か山か?はたまたトナカイ飼育かなどにより、その定住性や目的により地下室の利用状態も変わってくる。透き通った氷、薪のように積まれた魚などはまだ序の口、放って置いた(ように見える)発酵した巨大セイウチや目玉を見開いた凍った馬の反面など、人の死体が混じっていても違和感がない暗闇から浮き上がる多彩な食料が極地の貯蔵庫に展開する。ヤクーチアでは夏でも美味しいお茶を飲むため、初冬に湖の氷が40cmぐらいの厚さになると切りだし、春までに入れておく。氷を入れる前に雪を床に敷き、汚れないようにする。

水平緩傾斜の貯蔵庫(図作成: M.Aoki, UAF) ヤクーチア地方では氷の夏季保管に使われる。

魚を保存しているカナダ、タクトヤクタックの共同貯蔵庫
垂直式の貯蔵庫 (図作成: M.Aoki, UAF)

アラスカのクジラ漁の村の多くは、はしごで降りる垂直式の貯蔵庫で、やはり雪を敷いてから小分けしたクジラ肉を入れる。セントローレンス島に2つある村ではクジラをとるが貯蔵庫がない。島にあるシャフトのような小さな貯蔵庫は、セイウチの皮で包んだイグナックという発酵用だ。これはチュコトカからカナダ東部まで広く作られているかなり臭い食べ物だ。バフィン島近くでは、これをビーチに埋めて発酵させる。貯蔵庫は家族や狩猟チームごとに所有することが多いが、村や会社で共有することもある。

イグナックを発酵させているところ

一方ソ連時代は巨大な地下貯蔵庫をコルフォーズ運営で管理していたが、ソ連崩壊後放棄されたところが多い。最低温度のおかげで観光地になったオイミヤコンではこれを氷ミュージアムにしている。チュクチ半島の共同貯蔵庫は、フルシチョフ時代にトンネル掘りでエリートだったモスクワメトロがわざわざ極東までやって来て、穴を掘った。トロッコが走れるレールまである。

ソビエト時代の巨大貯蔵庫

貯蔵庫の壁は凍土中の氷が昇華する(固体から液体にならず、直接気体になる)ため、ちょっと触れただけで、ボロっと土が落ちる。これを防ぐため、シベリア北部では2~3年ごとに水を吹きかけて、氷の膜をつくる。冷戦時アメリカ軍も永久凍土に巨大なトンネルを作り武器倉庫にしようとしたが、この昇華防止のよい解決策は見出せなかった。

北シベリア、レナ川河口近くの漁村の貯蔵庫
東シベリア、オイミヤコンの冠水して氷漬けになった100年前の貯蔵庫
クジラが取れず、空っぽの北西アラスカ、キバリナの共同貯蔵庫。活動層から水が滲み出てハシゴに氷が発達
キバリナの共同貯蔵庫入り口

東シベリア、モーマ山中、ツングース系エヴェンキ族の貯蔵庫。彼らの貯蔵庫には高さの違う換気孔が2つある。一つは貯蔵庫天井から地上背丈ぐらいまで立ち上げ、もう一つは貯蔵庫床近くから地上まで設置されている(写真の黒いホース)。これで冬季貯蔵庫内の暖かく軽い空気は自然に排出される。だがそれだけではない、地表より風の強くなる上方のパイプ内は負圧が増し、空気が排出され、貯蔵庫内の空気が循環される設計だ。私が最初にみたコリマ川沿いのこのエヴェンキの貯蔵庫から2000km以上離れたバイカル湖近くのエヴェンキ農家にも同じ構造があったのは驚いた。このような広範囲画一的な設計はソ連時代の指導のせいではないかと想像し聞いてみたが、昔からあったと言う。

貯蔵庫の温度を見て見るとその深さや使い方で違いがはっきりする。カナダのタクトヤクタックでは7.5mの深さのため年間の変動は緩やかで−4〜−8°Cぐらだ(黒い太線)。一方冬場に貯蔵庫入り口のドアを開ける習慣のあるヤクーチア地方では、11月あたりから急激に冷え込み、−30°C以下にもなる。また振幅の幅も大きくなる。最高気温は−10.4 to +2.7°Cの範囲で レナ川上流域の集落では 0°C以上になっている。平均気温は−14.4 to −3.6°C. で最暖月は9−10月でその直後にドアを開けている。

まとめ

我々TNPの活動を中心に北極大学の取り組みについて書いてみたが、どれもアブストラクト的になり、まとまりがなくなってしまった感じがするが、全体像を把握してもらう目的ということで勘弁してほしい。私も仕事柄、留学やサマースクールの相談を受けることも多いので、北極大学についての質問やTNPの地域社会への活動についてもっと詳しく知りたい人は連絡してください。温暖化に伴い、極域に関心が集まる昨今我々TNPの使命は、現在の状況を記録し、将来の参考になるデーターの整理と人材育成であると考えている。温暖化で凍土が融解して、色々な嘘のニュースが飛び交い、本当のニュースと区別できるような社会になってほしいと思い、この記事を終わりにしようと思う。質問や感想はどうぞ遠慮なく次のメールアドレスに送ってください。

Kenji Yoshikawa (kyoshikawa@alaska.edu)

吉川謙二(よしかわ けんじ)プロフィール

アラスカ大学フェアバンクス校工学部教授、1994年にヨットで海底永久凍土調査隊を指揮し日本を離れ、以後アラスカ在住。東京出身。民間の南極調査隊隊長をはじめ、グリーンランド横断、シベリア、スピッツベル、モンゴル、チベット、カナダなどで永久凍土調査。最近はキリマンジャロやアンデスで活動している。

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