シリーズ「最新学術論文紹介」第1回

コンピュータシミュレーションでオーロラ爆発の謎に迫る

国立極地研究所准教授 片岡 龍峰

右を見ても左を見ても乱舞しているオーロラを目の当たりにして立ち尽くしていると、その美しさと複雑さに圧倒されてしまう。オーロラの徹底的な謎解きというのは、まだ人間にとって難しすぎる問題なのではないか、と安直に考えてしまいそうになるのは私だけではないはずだ。実際、およそ半世紀にわたる国際協力によって、宇宙からの「その場」観測によるデータが見られるようになった今でも、オーロラをとりまく爆発的な宇宙発電の全体像が正しく理解できたという実感には、まだ遠いようにも思える。そして、この問題は意外に根が深く、実は観測で得られる「部分」からボトムアップ的に推測してきた全体像というのは、学会で広く認められてきた定説も含め、「全体」からトップダウン的に見てみれば物理的な整合性に欠けており、もう一度全体から考え直すのがよいようだ、という衝撃の論文が発表された。国立極地研究所が年3回刊行している学術誌「南極資料」の2014年7月号に掲載された、オーロラの研究論文を紹介したい。論文の著者は田中高史・九州大学名誉教授。論文の主題は、サブストームと呼ばれるオーロラの爆発的なエネルギー解放現象は、定説とされてきた従来の理論では説明が困難であり、磁気圏全体を取り扱うコンピュータによる数値シミュレーションによって初めて全体像が明らかになる、ということである。

論文の第1編(http://ci.nii.ac.jp/naid/110009850879)では、第24次日本南極地域観測隊に参加し、昭和基地でオーロラを観察した後、その解明を目指してグローバルな磁気流体力学シミュレーションを開発してきた、という30年にわたる研究の経緯が語られている。磁気圏プラズマの質量・運動量・エネルギーの保存則を矛盾無く取り扱う磁気流体力学シミュレーションで、解像度を徹底的に高めると、その結果個々の様々なオーロラ関連観測が、驚くべき再現性や予測性を持って算出される。以下に紹介するムービー1では、等高線が大気の電離度(ほぼオーロラの分布に対応)、色は電離圏に流れ込む電流を表している。数値シミュレーションの結果、オーロラオーバル全体の低緯度への拡大、真夜中のペア電流から始まる急激な増光、高緯度方向かつ西向きに大きく拡大するオーロラ、など基本的な観測事実が定量的に再現されているのだ。オーロラの光っている高さ100 kmの電離圏と、地球半径の何10倍も広がっている磁気圏とは、100万アンペアを超える巨大電流で接続されており、その巨大電流は地磁気の磁力線を電線のように伝わって流れている、ということに疑いの余地はなくなった。オーロラをとりまく全体像を理解する上で最大の問題は、その大電流の作り方と変化の仕方である。太陽風の影響を受けて立体的に渦巻く磁気圏プラズマの発電、そのエネルギー変換の仕組み「ダイナモ」が、オーロラに給電する直接の原因であり、最大の謎なのだ。

論文の第2編(http://ci.nii.ac.jp/naid/110009850880)では、オーロラ電流のダイナモは、広大かつ立体的な磁気圏プラズマの圧力構造と、大規模なプラズマの流れの組み合わせによって発生するという基本的な原理が明らかにされている。そして、シミュレーションで再現された定常状態の磁気圏における電流追跡によって特定された立体的な電流分布とダイナモ分布の図を見ればすぐに、観測ベースのボトムアップ的な推測によるダイナモの解明は困難だったという意味が実感できるだろう。ムービー2では、磁力線とともに、そのプラズマの圧力構造が色で示されている。このように爆発的に変化するサブストームのダイナモは、定常状態と比べれば一段複雑なものだが、このシミュレーション研究で明らかにされたダイナモの考え方を変更する必要はなく、むしろ延長することで、物理的に定量予測が可能になりつつある。正しいシミュレーションをするには観測が必要であり、正しい観測をするにはシミュレーションが必要な時代だ。いま強固で予測性の高い複合系のオーロラ科学が、私たちの目の前に開いたように思えるのである。

ムービー1

ムービー2

片岡龍峰(かたおか りゅうほう)プロフィール

1976年宮城県仙台市生まれ。2004年に東北大学で博士号をとり、学振特別研究員PDとして情報通信研究機構、NASAゴダード宇宙飛行センター、名古屋大学太陽地球環境研究所と毎年引っ越し、2007年から理化学研究所の基礎科学特別研究員。2008年宇宙飛行士候補者試験に脱落。2009年から東京工業大学の特任助教。2013年から国立極地研究所の准教授。

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