シリーズ「最新学術論文紹介」第2回

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無人航空機による航空磁気測量

国立極地研究所名誉教授 渋谷 和雄

1. はじめに 無人飛行機は軍用(weapon delivery)から発達した技術であるが、空中写真撮影用途で民間での利用が拡大した。静止物体をアトランダム(無作為)でも多方面から部分的に重なるように撮影していれば、対象物のデジタル地形モデルが作れるので地理情報システム(GIS)への応用という面では小型模型飛行機レベルで良いのが魅力である。ここで紹介するのは航空磁気測量への応用で、Polar Scienceに発表されたFunaki et al. (2014)の論文を解説する。南極大陸内部での航空磁気測量はPC-3クラスの4発機、ツイン・オッターやドルニエなどの双発機を用いて有人・長時間飛行がアメリカ、イギリス、 ドイツにより精力的に行われているが、海陸境界域では小廻りのきく無人飛行機が意外に活躍できるのではないか、という将来性を示した論文として注目される。 2. 何故,ドローン(回転翼)ではなく、固定翼を持った模型飛行機か? 航空磁気測量では機体磁気のノイズを極力、避ける必要がある。そのためには、磁力計センサーを機体からできるだけ離す必要がある。有人機では従来、バードと呼ばれるロケット弾形状のセンサー(プロトン全磁力計)を長いケーブルで曳航する方式が使われたが、現在はスティンガーと呼ばれるロッド先端にセンサーを格納する方式が一般的である。先の大型飛行機もこのタイプである。ドローンのような回転翼機には機体磁気の影響を受けず、安定した飛行を可能にするような磁力計センサーを取り付けるのが難しい。また、現状では長時間飛行も難しく、航空磁気測量には利用されていない。 3.Ant-Plane 6-3 Funaki et al. (2014) は、2つのタイプの無人模型飛行機を開発し、サウス・シェトランド(South Shetland)諸島で試験運用した。Ant-Plane 3-5と呼ばれる小型(自重6.8 kg)のものとAnt-Plane 6-3と呼ばれる大型(自重20kg)のものである。記述を簡素化するために、Ant-Plane 6-3に絞って紹介する。図1が外形寸法、図2が滑走路での実際の姿である。 アルミロッドの長さは1 mで、3軸型のフラックスゲート磁力計が先端に取り付けられている。各軸方向は1秒角で較正できて、感度は0.1 nT(昭和基地の全磁力値は2014年1月で~42980 nTで、0.1 nTは地球磁場強度の約50万分の1の精度)、消費電力は0.5 W、7.4 V, 2100 mAのリチウムバッテリを含めた重量は523 gである。ちなみに最大離陸重量は28 kg、磁力計やGPS, データ・ロガーを除いた搭載重量の主体は10リットルの燃料(ガソリン)の約8 kgである。

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図1.Ant-Plane 6-3の外形寸法。単位はmm。

Ant-Plane 6-3は逆ピッチのプロペラを2サイクルエンジンで廻し、後ろから押すタイプの飛行機である。エンジンとつながった発電機は25 Wで、それらは胴体の後ろ側に格納されている。GPSアンテナはノーズ外壁の上面に取り付けるが、後に示すように今後の工夫が求められる。飛行ルートはウエイポイント(WP)として順番に経路通過点で与えているが、そのコントローラー・データロガーはノーズ中央部に格納され、データは1 Hzレートで記録される。

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図2.Ant-Plane 6-3の実際の姿。

4.ブランスフィールド海盆のテクトニック場デセプション島での測量飛行 南極半島とサウス・シェトランド諸島の間にあるブランスフィールド(Bransfield)海盆(図3)が主たる調査域である。

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図3.四角のドットで囲まれた区域が2011年12月から2012年1月にかけて行われた調査地域。ブランスフィールド海盆(Bransfield Basin)には薄いシェードがかかっている。前線状の線が沈み込み帯で白い矢印が海嶺拡大軸である。 フェニックスプレート(Phoenix Plate:中世代から新生代にかけての太平洋プレート名)の沈み込みにより、サウス・シェトランド諸島の後ろ側の背弧海盆(ブランスフィールド海盆)は拡大した。そのプロセスは良く判っておらず、海盆は現在も開いていて、サウス・シェトランド諸島はGPS測量によると南極半島に対して15-20 mm/年で北東に動いている。Funaki et al. (2014) は、過去の磁気測量例と、今回の測量の位置づけについて述べているが、そこは割愛してデセプション(Deception)島地域での測量飛行の実際に進むことにする。 機体はキングジョージ(King George)島のセジョン(Sejong )韓国基地に搬入し、そこで組み立てられた。キングジョージ島には10もの基地があっていろいろ便利に見えるが、チリのエスカデロ(Escudero)基地が管理するマーシュ飛行場(Marsh Airfield)は民間機、空軍機優先で滑走路が込み合っていて、天候がすぐれなかったこともあり、飛ばすチャンスがなかったようである。単純な事実として、図1、図2の車輪あるいはスキーが示すように、この無人機の離着陸には表面が滑らかな滑走路(無風時で離陸の場合約50 m、着陸の場合約150 m) が必要で、風速も7 m/s以下でないと安全には離陸できないから、飛行に適した場所・時間が確保できるかどうかは、運次第の面があることは否めない。そこでリビングストン(Livingston)島にあるブルガリアの聖クリメント(St Kliment) 基地を起点に移した。この基地はマーシュ飛行場から100 kmの距離にあり、無人航空機(UAV)飛行についての制約がなく、雪氷上滑走路があり、ブルガリア隊員も親身になって世話を焼いてくれたようである。図4が2011年12月18日に実施された測量飛行の測線図である。 以下、論文を要約すると。 9リットルのガソリンを積んで450 kmの継続飛行を計画した。燃費は毎時2000ccなので、約4時間のプランである。デセプション 島は聖クリメント基地の南方35 kmに位置するので、一旦、海上へ出て南下、そこから西へ18 km飛び(側線 0; WP2からWP3へ)1 km南下、東へ18 km飛ぶ(側線 1; WP4からWP5へ)、以下同様に1 km間隔の全測線9本を飛び終えたら、側線 1の逆コース(側線 10;WP22 = 5からWP23 = 4へ)、そして側線 0の逆コース(側線 11; WP24 = 3からWP25 = 2へ)を終えて北上し、基地へ戻る測量飛行(ウエイポイントは0から27まで)である。このフライトで島の北側半分がカバー出来る。南半分をカバーするには同様のもう1フライトが必要だが、これは時間切れで出来なかったようである。 Ant-Plane 6-3は2011年12月18日、05:20:20 UT(世界時)に離陸した。雲高は1000 m、離陸時の風速は4 m/s、外気温は-3.5ºCであった。3時間7分8秒かけて302.4 km飛び、08:27:28に帰着している。800 mの飛行高度を保つ計画だったが、実際には780 m高度で飛んでいる。また、側線上での飛行高度の変動は5 mであるが、側線終端ではコース反転時に15 m降下、あるいは8 m上昇している。西行側線 (側線 0) の全磁力値は東行側線 (側線 11) の全磁力値に比べ約15 nT大きく、側線 1と側線 10 ではその差が32 nTであったなど、機体磁気の方位性と時間変動の現れ方の補正にはまだ調べるべき点もあるが、図5の磁気異常図に見られるように、-600 nT以下から+1400 nT以上に及ぶ場所的変化を十分反映した図が得られている。
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図4 (a) 12月18日の飛行コース概要と、(b) 1 km間隔9本の側線番号ウエイポイント(WP)番号。  
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図5(a)デセプション島へ至るまでの磁力異常値の幅は狭いが、(b)カルデラ東側には大きな正の異常が目立つ。  
5.筆者らのまとめ 今回の試みには荒削りな点も多く、筆者らは遭遇した7つの問題点と解決に向けた方策を以下のようにまとめている。 1) コース変更時の注意点として、反転時にはバンク角が大きくなるが、Ant-Plane 3-5の場合、機体の陰に隠れて受信GPS衛星の数が4より少なくなった時間が約10秒近くあり、この時、位置がリセットされてしまい、現在位置から大きくずれたポイントからの3次元測位が再スタートになってしまった。すると、ウエイポイントの探し方がプログラミングの通りにならず、迷走したあげく墜落したのではないかと筆者らは考えている。GPS ロックがはずれない(常時4衛星以上受信できる)アンテナの取り付け(複数)と、旋回時のナビゲーション方法の確立が必要と思われる。 2) 日本での飛行では問題なかったのに、デセプション島飛行時、ウエイポイント通りでなく、ショートカットしたあげく、正常プランルートに復帰したりしている。これもおそらく機体姿勢とGPSマスクが関係していそうで、1)と同じ対処が必要と思われる。 3) デセプション島飛行に先立つ、マーシュ飛行場でのAnt-Plane 6-3飛行時、プラスチック製のラッチが壊れてパラシュートが開いてしまった。金属性ラッチに交換したが、この破損は風による強い機体振動が原因と思われ、7m/s以下という理想条件がいつでも得られるわけではないので、注意を要する。 4) ビデオのレンズが着氷した時間帯があり、それは雲の中を飛んだ時に対応していた。その時の外気温は-10 ºC前後であった。Ant-Plane 6-3は、その後のペンギン島(Penguin Is.)飛行(図1参照)での降雪時に行方不明になったが、翼への着氷が原因と推察された。特に雲の中は飛ばないことが大事である。 5) Ant-Plane 6-3は氷河上を滑走している時、雪の中に突っ込みスキーが破損した。現地でアルミ製の長いスキーと木製のより丈夫なアタッチメントを作り対応したが、雪面の状況に応じられるスキーを取りそろえる必要がある。 6) 滑走中に木製のプロペラがザラメ雪で欠損した。現地ではガラス繊維で固めて対処したが、プラスチック製の方がよさそうである。 7) ガソリンエンジンのUAVでは機体振動による金属疲労が大きな問題になる。飛行前後の点検項目は多岐にわたる。Ant-Plane 6-3の場合10 時間点検(部品交換を含め)が欠かせなかった。 6.最後に 南極での無人航空機(UAV)活用は始まったばかりである。英国南極調査研究所、 アルフレッド・ウェーゲナー研究所 (ドイツ)、 NOAA/NASA (米国) も試験飛行を始めているが、航空磁気測量への応用は今のところFunaki et al(2014)以外、見当たらない。オングル海峡など細長い氷縁域で、短い(20-30km)測線を数kmずらして多数の本数について大型飛行機で航空磁気測量するのは効率が悪い。UAVによるそのような短期集中高密度調査の需要は多々あると思われ、さらなる発展が望まれる。 この解説記事は主著者(M. Funaki)の了解を得て、渋谷が下記論文をもとにまとめたものである。 Funaki, M., Higashino S.-I., Sakanaka, S., Iwata, N., Nakamura, N., Hirasawa, N., Obara, N., Kuwabara, M,. 2014. Small unmanned aerial vehicles for aeromagnetic surveys and their flights in the South Shetland Islands, Antarctica. Polar Sci., 8, 342-356.

渋谷 和雄(しぶや かずお)プロフィール

国立極地研究所名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。1978年東京大学大学院理学研究科修了、理学博士。国立極地研究所助手、助教授、教授を歴任。第21次、28次、39次越冬隊(観測隊長兼越冬隊長)に参加。第21次、28次隊ではピラタスPC-6による航空磁気測量、アイスレーダー観測などを実施、通算飛行時間は100時間を越える。専門は測地・固体地球物理学。
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