福西 |
氷河の上はクレバスなどもあり危険な場所もあると思いますが、どのようにして設置するのですか。 |
白水 |
設置する6点は、事前にグーグルアースの画像などを使ってヘリコプターが着陸できないクレバス地帯は避けて、なるべく表面がなめらかな安全な場所に行くということで緯度・経度は決めています。でも実際に行くとまた違っていると思いますので、置きやすい一番安全な場所を探して設置したいと思います。 |
福西 |
氷河の流れは年に数100mぐらいでしたか。 |
白水 |
そうですね、白瀬氷河は南極大陸の中でも一番流れの速い氷河の一つですが、年に2kmぐらいです。合成開口レーダーによる観測からスカーレン氷河は、14日間で6m程度の流動と推定したので1日で40cm程度流動している計算になります。 |
福西 |
GPSを氷河の上に設置するのは今回が初めてですか。 |
白水 |
いえ、今回が初めての試みではなく、去年、一昨年といろいろな場所に設置いていますので、今回はさらに測定点を増やすことになります。 |
福西 |
南極から帰ってきて、取得したデータを解析して、氷河の動きを研究して、それを博士論文にまとめるのですか。 |
白水 |
これまでの研究で衛星画像から求めた流速と今回設置したGPSから求めた流速を比べて、これぐらいずれがあったとか、合っていたとか、衛星画像から求める手法を評価できるので非常に重要なデータが得られると思っています。私は5年間の博士一貫コースで、帰ってきた時は4年目になります。この年にデータの解析や他のデータとの比較をやって、5年目に博士論文にまとめたいと思っています。 |
福西 |
今まで論文は書いたことや学会で発表したことはありますか。 |
白水 |
いままでやってきた研究は論文にまとめているところです。また研究結果はいろいろな学会で発表してきました。 |
福西 |
この分野の研究ではどういうことが焦点になっているのですか。 |
白水 |
氷河の流速を測ることは、「地球温暖化の影響は加速しているのか」という問題を解明する上で注目されています。氷河の流速は、氷河の外側の棚氷(氷河が海に押し出され、洋上にある部分)の厚さや海洋の環境に大きく影響されるので、氷河や氷床の流動を測ることは、地球の環境の変化、温暖化に由来する変化のメカニズムを理解するために重要です。 |
福西 |
今回はかなり狭い範囲の氷河と氷床の流動を測ろうとしていますが、狭い範囲ともっと広い範囲の氷床の流動との関係も調べようとしているのですか。 |
白水 |
そうですね、今回は狭い範囲の衛星から求めた流動と実際にGPSで測った流動の比較なんですが、それで衛星画像から高精度で流動を算出する方法ができれば、その方法をより広範囲に適用し、氷床の流動を高精度で求めていきたいと思っています。 |
福西 |
今度は南極での行動についていろいろとお聞きしたいと思います。実際にフィールドに行った時にはある程度危険があるので、それにどう対応すればよいかなど、経験者から聞きましたか。 |
白水 |
そうですね、そういうのは南極観測隊の日本での冬訓練や夏訓練で、インストラクターや南極経験者から、こういうものはこういうふうに使うんだとか、こういうふうに歩けばいいんだとか、教えてもらいました。私はそういう経験が今までなかったので、歩き方を教えていただいて大変役立ちそうです。 |
福西 |
南極でフィールドに出るには体力も必要だと思いますが、いかがですか。 |
白水 |
体力には結構自信があって、長距離を歩いたりマラソンしたりすることは好きなので、そういう意味では長時間体を動かすことは問題ないです。 |
福西 |
南極に行くためにトレーニングをしたのですか。 |
白水 |
最近も体を動かそうとしていますが、大学の時にずっと部活動で合気道をやっていたので体力がついたのだと思います。 |
福西 |
合気道はどの程度やっていたのですか。 |
白水 |
3年間、週に6日やりました。毎日の時間はそんなに長くなく、お昼の1時間ぐらいとか、夕方とかでした。 |
福西 |
合気道をやろうと思った動機はなんですか。 |
白水 |
高校の時はずっとフルートしかやっていなくて、スポーツの経験がなかったんです。それで大学に入った時に何かスポーツを始めてみたいと思ったのですが、バスケットボールとかバトミントンとか、みんながよくやっているスポーツではなく、ちょっと違うスポーツをやってみようと考え、武道が面白いんではないかと思ったんです。でも剣道とか柔道だとずっと昔からやっていた人が多いので、大学生でみな始めたという武道だとハンディもないし、みんなで成長していけるのではないかと思って、合気道が一つの候補になりました。それで見学に行ったのですが、剣を振ったり、道具を使わずに相手をいなしたりするのが面白いと思いまして、合気道部に入りました。 |
福西 |
日本の武術は身体と精神の両方を鍛えますが、合気道から得られたものはありますか。 |
白水 |
合気道の技を覚えたことは大事だと思っていますが、それだけではなく、先輩と後輩の関係についてすごく勉強になったと思います。 |
福西 |
南極観測隊の場合は、とにかくチームで行動します。フィールドに出る場合もチームを作ってお互いに助け合います、それが観測隊の基本だと思うんですが、チームでの行動はどうですか。 |
白水 |
そうですね、合気道は個人行動で、団体戦はないんですが、一体感がすごく強い部活だったので、みんなでまとまって何かをやろうということが多かったです。そこでいろいろと勉強することが多かったので、そういう意味でチームでの行動は自然にできると思います。 |
福西 |
南極に行くために特別に準備したものはありますか。 |
白水 |
一通りの装備はいただいているので心配ないですが、船の中で野菜は少ないと思い、私は野菜がすごく好きなので野菜ジュースを一杯買いました。 |
福西 |
南極の夏はものすごく紫外線が強いのですが、その対策は必要と思いますが。 |
白水 |
日差しが強烈で唇が焼けて大変だとか、目も雪目になったりするとか、本当に大変だと聞いています。野外に出ると日焼け止めクリームを塗るのも大変なので、バラクラバ(目出し帽)を多めに用意して、なるべく肌を露出しないように日焼け対策をしたいと思っています。 |
福西 |
子供の頃からの夢だった南極ですが、自分の研究のための野外での作業以外に、南極でこういうものを見てみたいというものはありますか。 |
白水 |
昭和基地はこうですよと話は聞いているんですが、なかなか想像ができず、イメージがつかめません。まずは昭和基地の施設をよく見てみたいです。また衛星画像から、上から見下ろした南極の地表面をずっと見ていたので、今度は南極の地形を横から見たいなと思います。横から地形がどうなっているのか、それに興味があります |
福西 |
ペンギンはどうですか。 |
白水 |
リュツォ・ホルム湾の沿岸部を転々と移動し、露岩地域にいくこともありますので、ペンギンのルッカリー(営巣地)に行く機会があればぜひペンギンを見てみたいと思います。 |
福西 |
アデリーペンギンはものすごく好奇心が旺盛で、「しらせ」が昭和基地がある東オングル島に接岸して、乗組員や隊員がいろいろな作業を始めると、その音を聞きつけて遠くから見学にやってきますよ。 |
白水 |
大きな船を見学にくるのですか。 |
福西 |
そうなんです。私は南極観測隊に4度参加したのでペンギンをずいぶん何回も見たんですが、ペンギンの可愛らしい仕草はいつ見ても本当に楽しいですね。 |
白水 |
アデリーペンギンは国内ではなかなか見る機会がないので楽しみです。コウテイペンギンを見る機会はありますか。 |
福西 |
越冬中はコウテイペンギンを見る機会はあるんですか、夏期間は皇帝ペンギンを見る機会はほとんどありません。これは2016年版南極カレンダーの3月の写真です。私が第26次越冬隊に参加した時に撮りました。この写真にはコウテイペンギンがたくさん写っていますが、この年は昭和基地周辺の海氷が2月に全て流出し、3月になって新しい海氷が張り出したんです。そこにコウテイペンギンがたくさんやってきました。 |
白水 |
私も将来機会があれば越冬隊に参加したいですね。 |
福西 |
南極観測隊員や同行者はオーストラリアのフリマントル港で「しらせ」に乗り込み、それから南極に向かいますが、暴風圏を横切る時、船はかなり揺れますが、船には自信がありますか。 |
白水 |
大きな船に乗ったことはあまりないのでよく分かりません。でも小さな船は小型船の免許を持っているので自信があります。 |
福西 |
どうして小型船の免許を取ったのですか。 |
白水 |
小型船の免許を持っているのは、大学の時に、車の免許は皆持っているので、小型船舶の免許をとるのも面白いのではないかと思ったのです。 |
福西 |
それでは小型船でどこかを廻ったことはあるのですか。 |
白水 |
そんなに多くはないですが、東京湾の中を廻ったことはあります。ですから小さな船の揺れはそんなに辛くはないんですが、大型の砕氷船の揺れとは種類が違うと思いますのでどうなるのかなと思っています。 |
福西 |
今日はいろいろな話をお伺いしましたが、南極行きに対してご家族の方は何かおっしゃっていますか。南極は危険なこともあるので。 |
白水 |
家族は、私が子供の頃から南極に行きたいとさんざん言ってきたので、特に危ないから行かないようにとは言わずに、「よかったね、行けてほんとによかったね」言って一緒に喜んでくれています。 |
福西 |
子供の頃の夢をずっと持ち続けることは珍しいと思うんですが、友達は何か言っていますか。 |
白水 |
そうですね、自分は凝り性の性格もあって、これだと思ったことに突き進んでしまう性格なんです。それを友だちは知っているので、夢が実現してよかったねと言ってくれます。 |
福西 |
南極から帰り、大学院を出た後はどうしたいか考えていることはありますか。 |
白水 |
進路についても考えている段階で、こうするとは言えませんが、リモートセンシングの手法は大学の頃からやってきて、ずっと興味がありました。これまでの蓄積でそれなりの技術も習得してきたつもりなんです。そういうのが活かせる場所には行きたいと思っています。 |
福西 |
今日は楽しい話をいろいろとお聞かせくださりありがとうございました。 |