シリーズ「南極・北極研究の最前線」 第8回

日本ベルギー共同隕石探査

国立極地研究所助教 今栄 直也

探査の概要
 日本とベルギーとの共同隕石探査は、これまで、第51次夏隊 (2009-2010年)、BELARE (2010-2011年)、第54次夏隊 (2012-2013年)の3回実施され、合計1200個ほどの隕石採集に成功している。地圏研究グループが中心となりセールロンダーネ地域での地質・地形を主とする調査と隕石探査を第VII期(2006~2009年)より計画していたこと、ベルギーがあすか基地の南西100 kmの山地の一角 (Utsteinen Nunatakわき) にプリンセスエリザベス基地 (Princess Elisabeth Station, PES基地と略記, 写真1) を建設することを契機に、「あすか隕石」の総称で知られるセールロンダーネ山地域で採集される隕石の共同隕石探査計画が立案・実施されることになった。

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写真1. プリンセスエリザベス(PES)基地の全景。

 第51次隊の隕石探査では、地質・地形・隕石の3隊がドロームラン (Dronning Maud Land Air Network, DROMLAN) やしらせ5003(新船の初年度)で同地域に入った。しらせ5003で、モジュール橇を持ち込み、隕石探査のキャンプに使用した。セールロンダーネ山地の東側に分布するバルヒェン (Mt. Balchen)氷原で隕石探査を実施した。この時、PES基地は建設半ばであった。翌年、BELARE (2010-2011) では、ベルギー基地長 (Alain Hubert氏) からの強力な支持を得て、交換科学者枠で日本から2名がベルギー隊に参加した。この時、20数年振りにナンセン氷原 (Nansen Ice Field) を訪れている。ナンセン氷原はセールロンダーネ山地から南方100-150 kmほどに位置し、標高は3000 mほどの高地 (Plateau) にある。その翌年の第53次隊は、地形を中心とする調査は行なったが、隕石探査は行なわなかった。
PES基地の運用も本格化し、設営支援も期待できることから、第54次隊で、ナンセン氷原での本格的な共同探査が計画され、山口亮、三河内岳、赤田幸久、と私の4隊員が参加した。赤田隊員は、第53次隊でこの地域を経験している。ベルギーからは、6名参加し、合計10名チームとなった。出発前にはベルギーを訪問し、入念な打ち合わせを行った。日本隊はモジュール、ベルギー側はコンテナで生活し、日本隊の食料品は、フリーズドライ主体、ベルギー隊は船(Dronning Maud Land Shipping, DROMSHIP)で輸送した冷凍品などを用いた。

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写真2. 雪上車によるサポート隊が基地へ戻ってきたところ。基地から撮影。

基地とフィールドとの往復は、前回と同様にアランさんを初めベルギーの設営隊員から雪上車による強力な支援を受け、生活橇、燃料を輸送してもらった (写真2)。また、期間半ばのキャンプ地移動時にはPES基地から雪上車で来て貰いモジュールやコンテナの移動作業を手伝って貰った。期間中、隊員はスノーモービルで移動した。昭和基地 (PES時間を使用していたので時差2時間遅れ) 通信室とは定時交信で連絡をとり、毎日の行動報告を行った。

得られた隕石試料の解説
 バルヒェン氷原およびナンセン氷原で採集できる隕石をあすか基地に因んで「あすか隕石」と呼ぶ。実際には、この2つの氷原は200 kmほど離れている。一般に、南極隕石は、一つのフィールドで繰り返し複数採集できるので、採集年度の西暦下2桁と通し番号を組み合わせて命名している。ナンセン氷原からはアングライト (Asuka 881371およびAsuka 12209, 写真3)、18 kgのLLコンドライト (Asuka 12389, 写真4)、高圧鉱物を含むEH3コンドライト (Asuka 10164, 写真5) などが見つかり、現在研究が進行している。

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写真3. Asuka 12209隕石の概観。アングライト(angrite)という非常に珍しい種類の分化した石質隕石。立方体はスケールで1辺が1cm。アングライト(Asuka 12209)は現在共同研究進行中で2016年末の隕石シンポジウムで研究が発表される予定である。

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写真4. Asuka 12389隕石をフィールドで採集した時に撮影した隕石隊メンバー(10名)の集合写真。2013年1月29日。この隕石はゲノミクトLLコンドライトという種類で、小惑星イトカワのような天体表層の岩石と考えられている。この隊で採集した最大(18 kg)の隕石で、ベルギー博物館に恒久展示されている。

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写真5. Asuka 10164隕石の薄片写真。写真の横幅は9mm。EH3という種類の隕石で、地球の原材料と類似しているとされる。この中に石英の高圧相であるコーサイト(coesite)という鉱物が見つかった。これは隕石由来の天体表層での衝突作用によって形成されたものでダイヤモンドができるくらいの高い圧力を経験している。この種類の隕石から高圧相が見つかったのは初めてである。

やまと隕石は落下後の風化により割れていることがあるが、ナンセン氷原の隕石は大きく、割れていない場合が多い。このため、隕石の平均重量は100 g程度とやまと隕石と比べて倍ほどある。多分、この差異は一つには標高が高くてより低温のためであると考えられる。中国が調査しているグルーブ山地 (Grove Mountains) ではモレーン帯で、やまと隕石よりずっと小さな隕石が見つかるそうである。隕石の集積機構は、大局的には、氷床流動と山脈による堰き止め、氷の昇華という機構によって説明されるが、これに加えて、フィールド固有のローカルな機構も効いているようである。南極横断山脈にはたくさんの隕石フィールドがあり、これらフィールド間の比較も今後必要である。
 共同で採集した隕石は、現時点では極地研の隕石ラボラトリーが隕石解凍(冷凍を保持して持ち帰り、大気中の酸素と反応して隕石に含まれる金属などの還元相の酸化を防ぐために真空あるいは窒素環境で常温に戻す)と初期記載・分類を受け持っている。日本とベルギーとで連携協定を交わしており、50 g以上の隕石は基本的に折半、それ以下は、適宜分配などとしている。ベルギーとは探査だけでなくキュレーションおよび分析を含めて共同で研究を進めている。

PES基地の現状紹介
 2000年に入って建設された、風発や太陽光発電機の自然エネルギーを利用した基地である(写真1)。観測隊は観測系・設営系ともにクリスマスの前後にドロームランによる飛行機 (Basler Turbo) で出入りし、前期・後期に分かれる。隕石隊の場合は準備に時間もかかるので、前期半ばに入り、後期にフィールドから戻った (2月初め)。PES基地は基盤岩を基礎にしているので完全に雪に埋没することはない。食堂・寝室など主な生活スペースは3階にある。2階は土台部で、1階は玄関と機械室や車両整備庫になっていて。屋根に太陽光パネルがたくさん設置されている。

今栄 直也(いまえ なおや)プロフィール

国立極地研究所助教、総合研究大学院大学助教、南極隕石キュレーター。1994年京都大学大学院理学研究科(地質学鉱物学専攻)修了、博士(理学)。第41次越冬隊、第54次夏隊に参加。専門は、隕石学、鉱物学。

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