シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業たち」第3回

株式会社関電工~昭和基地の電力設備を担う~

第59次南極地域観測隊員インタビュー

越冬隊員 内山 宣昭
夏隊員 松嶋 望

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オーロラが舞う昭和基地(関電工から第57次南極越冬隊に派遣された岡本龍也隊員撮影)

電気工事や情報通信工事の分野で日本を代表する企業である関電工は、1986年の第28次南極観測隊から延べ32回、社員を南極観測隊に派遣し、昭和基地の電力設備の整備とメンテナンスを担ってきました。第59次隊では2人の社員が参加します。そこで南極に向けて出発する直前に南極に駆ける思いを伺いました。

インタビューは平成29年10月19日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西 今日は南極に出かける直前のお忙しい時期にインタビューのために時間を割いてくださりありがとうございます。松嶋さんは今回初めて南極に行くことになりましたが、内山さんは第58次南極観測隊の夏隊に参加し、今回は2度目の南極ですね。では最初に、これまで会社でどのような仕事をされてこられたのか教えてください。
内山 関電工では、ビル、病院、学校などの新築現場工事や改修工事の作業にたずさわり、電気工事の施工を担当していました。
松嶋 内山と同様です。他に職人さんをまとめる職長や新入社員の指導員もやりました。
福西 関電工が南極観測隊に社員を派遣していることは会社に入る前から知っていたのですか。
内山 私は会社に入ってから初めて知りました。
松嶋 私も知らなかったです。会社に入ってからです。

南極観測隊に参加するきっかけ

福西 入社後に南極の話を聞いて、自分も南極に行ってみたいと思ったわけですか。
内山 そうです。南極の話を聞いたのは新入社員研修の時でした。講師の方が南極からちょうど帰って来られた方で、その方の話を聞いて、南極に行ってみたいと思いました。
福西 南極のどこに魅力を感じたんですか。
内山 南極は普通に国内で働いていたらまず行けない所ですよね。そんな場所に観光ではなくて自分の本業の電気工事の仕事で行けるというのが凄いと思いました。経験を積んで南極に行くということが自分の目標になりました。
福西 松嶋さんもそうですか。
松嶋 そうですね、はい。南極に行って、作業をやってきたという達成感を味わいたいと思いました。
福西 内山さんはすでに昨年の第58次隊の夏隊に参加し、帰国したばかりですが、今回は越冬隊で南極に行くことになったのはなぜですか。
内山 どうしても南極で越冬してみたかったんです。でもいきなり越冬隊に参加するよりもまず夏隊で経験を積んで、次に越冬隊に参加する方が越冬中の仕事の準備が十分にできると言われました。
福西 夏隊への参加は越冬隊に参加するための準備だったんですか。
内山 準備も兼ねてということです。もちろん夏隊だけでやる仕事もたくさんありました。
福西 松嶋さんは今回初めて夏隊に参加することになりましたが、会社ではどのようにして南極に派遣する社員を選考するのでしょうか。
松嶋 大々的に社内公募するというやり方ではなく、希望する社員と上司との面談で決まります。
福西 南極観測隊員に正式に決まったことが新聞で報道された時に、会社からこういう所を注意しろと言われたことはありますか。
内山 特にはないですね。会社からは、やることだけやってこいと(笑)。会社の南極OBからは、今回は南極で越冬するんだから楽しんでこいよと言われました。仕事するのは当たり前だから、その他にプラスアルファをいかに作れるかで楽しい越冬生活になると聞きました。
福西 関電工で南極観測隊に参加した社員はこれまでに何人ぐらいいらっしゃるんですか。
松嶋 越冬隊には22回、夏隊には10回社員を派遣しています。
福西 関電工がこんなに多数の社員を南極観測隊に派遣し、昭和基地の電力設備の整備とメンテナンスを担っていることは意外と社会に知られていない気がするんですが。
内山 まだあまり知られてないですね。
福西 今回のインタビューで関電工の南極での活躍を広く社会に知ってもらいたいと思っています。
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第59次南極地域観測隊に参加する松嶋望隊員(左)と内山宣昭隊員(右)(南極観測船・砕氷艦しらせの前で)。

昭和基地での仕事

福西 それでは昭和基地でどのような仕事をされるのか教えてください。夏期と越冬中では仕事の内容が異なると思いますが。
内山 そうですね、大きな作業は夏期間に行います。現在建設中の基本観測棟の2階部分の電気設備の工事や老朽化した電気・空調設備の更新、光ケーブルの補修・新設工事などいろいろな作業があります。越冬中は保守・メンテナンス作業が中心になります。雪で損傷した電気設備の補修や老朽化した設備の調査・点検などを行います。また基本観測棟の電気設備工事を越冬中も引き続いて行います。
福西 夏の仕事はお二人で一緒にやられるのですか。
内山 はい、夏は一緒に仕事をします。58次越冬隊の方の協力もお願いして。
福西 夏期間は非常に限られているので、たくさんの工事をやることはものすごく大変だと思うのですが、内山さんは去年昭和基地に行かれてどうでしたか。
内山 そうですね。やっぱり夏期間の作業は本当に忙しかったです。
福西 夏作業の期間は1か月ちょっとしかないので、その期間に計画した仕事を全部終わらせなければならないですからね。
内山 予定の仕事をきちんとこなして帰りたいですから。一応プランは立てるんですけど、極力前倒し前倒しでやります。何かトラブルが起きたり、夏の間もブリザードが来ることもあるので、、、
福西 ブリザードが来たら外の仕事ができないですね。
内山 はい。それを見越して前倒し前倒しでやります。
福西 越冬中の仕事ではどの辺が難しいと感じていいらっしゃいますか。
内山 私は越冬隊の経験はないですが、昭和基地の今までのいろいろな設備のトラブルを調べてみると、激しいブリザードなどの気象要因で起きた事故がきっかけで、他の設備に波及することが起こります。最初のトラブルは防ぎようがない場合もあります。でもトラブルが出た場合に、早期に発見して適切に対応するというのが難しいと感じています。
福西 そうですよね。電気が止まってしまったら、観測もできなくなってしまいますよね。
内山 はい。電気が止まってしまったら、水も止まってしまい、今度は温度低下で凍結し、さらに二次三次の波及が起こるので。何かトラブルが発生した時の対応が本当に試されると思っています。
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関電工から第56次越冬隊に派遣された加藤直樹設営主任(昭和基地での架空線補修作業)

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関電工から第55次越冬隊に派遣された上原誠設営主任(昭和基地での燃料配管点検作業)

南極観測隊の仲間たち

福西 ここ東京都立川市にある国立極地研究所の南極観測隊員室で勤務を始めたのは7月からですか。
松嶋 はい。
福西 南極観測隊はいろいろな職業の人の集まりですが、そういう人たちと一緒に仕事することをどう感じていらっしゃいますか。
内山 小さな町が一つできているみたいな感じですね。自分の専門以外のこともいろいろと聞けるので視野が広がります。自分にとっての大きな財産になると思っています。
福西 いろいろな方と話したんですよね。
内山 そうですね、前回の58次隊でもいろいろな人と話をしました。設営部門の機械担当隊員ならば、その人の会社や仕事の内容がなんとなく分かるのですが、研究者の仕事の内容は分からないですね。まずはコミュニケーションを取るために「何しに行くんですか?」って聞くんです(笑)。
福西 研究者の方も自分の分野でない人たちと話すのは楽しいって言っていますね。会社の現場の方と話すことは普段はないので、お互い様ですね。
内山 そうですね、昭和基地で研究者と仲良くなれば、「何をしてほしいのか」、「何をするためにそう言っているのか」など聞けるようになり、「じゃあこうしたらいいんじゃないの」と提案したり、さらに進んで設備的なことも考えられるので、互いに知ることはすごく大事ですね。それで研究成果が上がれば、自分たちの貢献が直接は評価されなくとも、一緒に行った隊の仲間が評価され、嬉しいですね。

南極で楽しみたいこと

福西 夏期間は仕事に追われて余裕がありませんが、越冬中には自分の時間も少し持てると思います。そこで越冬生活の楽しみとして内山さんはプライベートで何か持って行きますか。
内山 私は水中ドローンを購入して持って行きます。最近は昭和基地でもドローンによる空撮は皆さんやられているんですが、今度は海氷の下を撮ろうと思っています。生物の研究者の方から、南極の海底は色鮮やかだよって話を聞くので、挑戦してみます。
福西 水中ドローンってあるんですね。初めて知りました。南極海の低温でも大丈夫なんですか。
内山 一応はマイナス20℃まではそもそも水の中なんで、そこまでいかないとは思います。
福西 いい写真が撮れたらぜひ南極カレンダーに応募してください。水中撮影はどこでやるんですか。
内山 昭和基地近くの西の浦や北の浦を考えています。他に越冬隊の漁協係を担当することになっているので、魚がどのくらいいるかの調査もこの水中ドローンでやってみたいですね。
福西 楽しそうですね。
内山 南極の自然を楽しもうと思っています。
福西 南極でしかできないことですよね。松嶋さんはプライベートで持って行くものがありますか。昭和基地での夏作業はものすごく忙しいですが、夏作業が終わった後や帰りの船では少し時間の余裕があると思いますが。
松嶋 僕は特別持って行くものはないですね。ただ、向こうで時間があれば昭和基地で走りたいなと思います。趣味で走る程度ですけど、マラソンをやっているので。
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関電工から第55次越冬隊に派遣された上原誠設営主任(ペンギンセンサス支援)

南極から学ぶこと

福西 現在、日本ではゼロ・エミッション社会の実現のためにエネルギー効率を高める取り組みが始まっていますが、南極の昭和基地では昔からエネルギー効率を高めるための様々な工夫をしてきました。観測機器の消費電力をできるだけ少なくし、建物の断熱性を高め、発電機が出す熱を暖房に利用してきました。そうした意味で南極はゼロ・エミッション社会を先取りしているところがあります。またオゾンホールの出現や温暖化の影響が増幅された形で現れており、南極は地球の環境変動を知る敏感なセンサーになっています。関電工が長年にわたって南極観測隊を支援されているのは、南極から学んだことが日本の社会に役立つと考えておられるような気がしていますが、いかがでしょうか。
内山 そうですね。南極での気候変動や生態系の解明など研究成果は社会に大きな影響を与えると感じています。そうしたものが日本の様々な分野でさらに発展していく気がしますね。
福西 本日は南極にかける思いをいろいろとお聞かせくださりありがとうございました。南極でのお二人のご活躍を応援しております。

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)

プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。東京大学理学部卒、同理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。

株式会社 関電工 紹介

昭和19年に関東電気工事株式会社として設立。その後、建築設備をはじめ情報通信設備、電力設備の分野において、独自の技術とノウハウ、工法を駆使し、電気工事、情報通信工事などの企画から設計、施工、メンテナンス及びその後のリニューアルまで、一貫したエンジニアリング事業を展開。更に、これまで培ってきた太陽光発電や風力発電の施工ノウハウを活用し、再生可能エネルギーによる発電事業にも積極的に取り組んでいる。
南極地域観測隊には、昭和61 年の第28 次隊から、延べ30回以上社員を派遣。観測基地では、「電気」が、観測機器のみならず上下水道や暖房も支えており、電気の供給が断たれることは、観測だけではなく、隊員の生命をも危険に晒すことにつながる。加えて、日本国内とは異なり、設備の修理において必要な資機材を直ぐに入手することができないため、限られた資機材をやりくりして、柔軟に対応することが求められる。
派遣された社員は期待に応え、昭和基地設備の構築・維持を通じて、南極地域における観測、そしてその観測を行う隊員の生活を支えています。これからも、社会インフラを担う企業として、南極の観測に貢献してまいります。

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(株)関電工本社ビル(東京都港区芝浦)

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