シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業シリーズ」第7回

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NECネッツエスアイ株式会社~多目的衛星受信アンテナシステムを守る~

第59次南極地域観測隊  越冬隊員 大石 孟 インタビュー


南極の西オングル島にて

今から30年前、直径11メートルの大型パラボラアンテナを持つ多目的衛星データ受信システムを昭和基地に建設するプロジェクトが認められ、日本電気株式会社(NEC)がこのシステムを開発し、1989年1月に昭和基地に設置されました。それ以来、NECグループが毎年越冬隊員を派遣し、システムの保守・運用を担ってきました。第59次南極観測隊には大石 孟さんが参加することになりました。そこで南極に向けて出発する直前に南極に駆ける思いをお聞きしました。

インタビューは平成29年10月19日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西 南極に出発される直前のお忙しい時期にインタビューのために時間を割いてくださりありがとうございます。最初に、今までどういう仕事をされてこられたかご紹介いただけますか。
大石 入社以来5、6年は消防関係の仕事をしていました。今までアナログだった消防無線をデジタルに換える仕事をしていました。その後、宇宙関係の仕事を担当しました。最近打ち上がった準天頂衛星「みちびき」の地上システムなど、衛星関係の仕事をしました。
福西 では南極観測隊に参加することになった経緯を教えてください。
大石 会社は毎年1名を南極観測隊に派遣していますが、その社員を社内公募で決めています。私は会社に入る時に南極事業をやっていると聞いていたので、いつかは南極に行きたいとずっと思っていたのです。偶然ですが、仕事のタイミングがいい時に応募して59次隊に参加することになりました。
福西 会社に入る段階ですでに南極を意識されておられたそうですが、子供時代を振り返ってみて何か南極に結びつくような出来事はありますか。
大石 そうですね、今から20年ほど前ですが、上野の国立科学博物館で南極観測40周年記念として「ふしぎ大陸南極展」が開催されたことがあります。それに両親に連れて行ってもらって、寒い部屋で南極を体験した記憶がうっすらと残っていたんです。この間、実家の片付けをしていたら、そのパンフレットが出てきて、昔行ったことを改めて思い出し、とても懐かしく思いました。

昭和基地での仕事

福西 いよいよ南極に向けて出発することになりましたが、昭和基地での仕事について紹介してください。
大石 メインのミッションは多目的衛星データ受信システムの保守運用です。ただ、今回はそれに加えて、無人航空機の運用も担当します。これは自分にとって新しいチャレンジになります。
福西 多目的衛星データ受信システムの保守運用ですが、南極でやる場合の難しさはどんなところですか。
大石 そうですね、メンテナンスのために部品を交換する際にちょっとしたミスでその部品を壊してしますと、替わりの部品を届けてもらうことはできませんので、絶対にミスをしてはいけないことがまず難しい点ですね。他に、保守運用を担当する者は自分だけだということですね。日本では、上司とか同僚がいる中で作業できますが、自分がすべての責任を取らなければならないということはやはり大変なことだと思っています。

多目的衛星データ受信システムの大型アンテナを収めたレドーム
福西 多目的衛星データ受信システムの直径11mの大型アンテナは基地からちょっと離れた場所にありますので、ブリザードの時は通うのが大変ですが、そのことは先輩の方から聞かれていますか。
大石 行く時は何とか行けても帰れなくなると困るので、天気の状況をよく調べ、天候が悪くなる予報がある場合は行かないようにと言われています。
福西 これまでに多目的衛星データ受信システムを保守運用するための訓練を受けられたと思いますが、昭和基地にある大型アンテナと同様のアンテナが日本にあり、そこで訓練を受けるのですか。
大石 実は昭和基地の大型アンテナは30年前に建設されたもので、同型のものはほとんど残ってないのです。そこで会社が持っている似たような形のアンテナで訓練を受けました。
福西 そうすると、保守部品を調達するのが大変ですね。今使われていない特殊な部品もあると思いますが。
大石 そうですね、現在は製造してないものもあります。それなりに苦労はありますが、代替品で対応しました。
福西 厳しい南極の環境の中で大型アンテナが30年間も維持されてきたと聞いて、本当にすごいことだと思いました。
大石 大型アンテナはちゃんとしたレドームの中に設置されていること、保守訓練を受けた技術者が毎年行って部品交換などの保守作業をきちんとやってきたことなどが良かったのだと思います。何もしていないと朽ち果ててしまっていたと思います。

雪上車を使ってのレドームの点検作業

VLBI観測で南極大陸の動きを知る

福西 多目的衛星データ受信システムで受信する対象は人工衛星からのデータと遠距離の電波星からのVLBIですか。
大石 そうですね、以前はいろいろな衛星からのデータを受信していたのですが、衛星データの受信は58次隊で終わり、VLBIが中心になります。
福西 VLBIについて簡単に紹介してください。
大石 VLBIとは、Very Long Baseline Interferometry(超長基線電波干渉法)の略です。数十億光年彼方の電波星(クエーサー)から発せられた電波を地球上の何点かで受信して、数千km離れた観測点間の距離をわずか数mmの誤差で測ることができます。星からの電波を各観測点で受信する時刻の違いから観測点間の距離を求めます。そのためには大型のパラボラアンテナと原子時計が必要になります。昭和基地には直径11mのパラボラアンテナと原子時計(水素メーザー)が備えられています。
福西 電波星からの電波を基準にして地球のプレートの動きを知るわけですね。動くって言ってもわずかですよね。
大石 地圏変動担当隊員の話ですと、南極プレートの動きは毎年1cmから2cm程度だそうです。

無人航空機を運用する

福西 無人航空機の運用も担当されるとのことですが、南極・北極科学館に展示してあるものと同じ機種なのですか。
大石 あれとは別の型で、一回り小さい機種です。20㎏くらいの機体です。気水圏部門が所有しています。
福西 それでは何を観測するのですか。
大石 気水圏部門の専門家に協力して、空気のサンプルを集めて、空気中のエアロゾル(微粒子)を観測します。
福西 無人航空機を運用する訓練はやったのですか。
大石 やりました。無人航空機は滑走路から飛び立つので広い場所が必要で、熊本でやりました。

いろいろな訓練に参加

福西 南極に出発する前の訓練として、担当される多目的衛星データ受信システムや無人航空機の訓練の他に、どんな訓練がありましたか。
大石 冬季総合訓練や建設機械やクレーンの取り扱いの訓練がありました。
福西 最近の冬季総合訓練ではスキーの訓練はないと聞きましたが。
大石 以前はしていたらしいですね。多分、内陸基地に滞在する必要がなくなったからでしょうね。
福西 そうですね、最近の南極観測隊は、冬季は昭和基地に全員いるので、フィールドでの行動は昔ほど過酷ではないと思います。でも野外観測支援を担当する隊員などフィールドの専門家が隊員にいますので、本当の訓練は昭和基地で行われると思います。
大石 南極でのフィールド訓練を楽しみにしたいと思います。
福西 ところで建設機械やクレーンの取り扱い訓練を受けたということは、大石さんも建設作業をお手伝いするのですか。
大石 そうです。夏期間は誰であろうと手が空いている人は手伝えということになると思いますので(笑)。それに機械などは好きで建設機械や高所作業車の資格を取ってますので、積極的に手伝いたいと思います。
福西 越冬中は車両の整備なども手伝おうと思っていますか。
大石 そうですね、機械は好きなので、手伝いたいと思いますね。
福西 ここ国立極地研究所の南極観測センターの隊員室で3ヶ月くらい一緒に仕事されて、お互いにかなり親しくなってきたと思いますが、いかがですか。
大石 そうですね、自分と違う分野のプロフェッショナルたちと話をしていて面白いですね。自分が知らなかった世界が見えてくる感じです。通信関係は自分が知っている分野ですけど、機械とか医療とか調理とかは全く知らないプロフェッショナルの世界なので、そう人たちと話ができるのは面白いですね。

南極で見てみたいもの、やってみたいこと

福西 仕事以外に南極で見てみたいもの、あるいはやってみたいことはありますか。
大石 月並みですけど、やはりオーロラを見てみたいですね。あとは空気が澄んでいて周りに明かりが何もないので、星がものすごくきれいだと聞いています。星を見てみたいですね。南半球は日本で見る星座と違いますから楽しみにしています。

南極の星座とオーロラ
福西 昭和基地の南方の露岩地域への調査旅行が毎年かなりの回数ありますが、そうした調査旅行に参加してみたいですか。
大石 ぜひ行ってみたいですね。南極の自然を楽しみながら沿岸調査をサポートできればと思っています。
福西 趣味は何ですか。
大石 ヘリと飛行機の操縦士免許を大学時代にカナダで取ったので、ヘリと飛行機を操縦するのが趣味です。でも最近はあまり出来ていないです。
福西 南極で操縦してみたいですか。
大石 それは、貸してはもらえないですね、自衛隊のヘリですから(笑)。でもさっき申し上げた無人航空機の運用にはヘリと飛行機の操縦の経験は生かされると思います。
福西 何か趣味で持って行くものはありますか。
大石 マルチコプターを持って行って空撮をしてみようと思っています。

マルチコプターで撮った昭和基地の中心部

家族のこと

福西 1年4か月もご家族と別れた生活になりますが。
大石 それはもうすごく寂しいですが、家族も納得の上で行って来ますので。
福西 越冬中は毎日メールをよこせとか言われていますか(笑)。
大石 よこせとは言わないですけど(笑)。南極行きを応援してくれているので、写真を送ったり、普段どういう生活をしているのかということはしっかりと伝えていきたいと思っています。
福西 電話やメールでのコミュニケーションは昔よりも格段に良くなっていますよね。
大石 昔よりはかなり良くなっていると聞いていますね。メールはもちろん毎日送れますし、時間によってはテレビ電話みたいなのもできると聞いています。

帰国後の活動

福西 NECネッツエスアイでは、南極から帰って来られた方が南極での経験を小学校などで語る活動をされていますね。大石さんも帰国後はそういう活動をされるのですか。
大石 そうですね。帰国後は自分の仕事以外にそういう活動(出前授業「南極くらぶ」)もしたいですね。
福西 会社で南極OBになった方々の集まりはあるのですか。
大石 毎年、南極に行く隊員の壮行会と帰国報告会をやっていまして、そこにOBの方は大体集まるようになっています。
福西 南極から帰って来られた方たちは子供たちに向けて、どのようなメッセージを送っていますか。
大石 テレビで見たものではなく、自分で体感したものを伝えることは重要だと感じていると思います。将来南極を志してほしいということもありますし、南極に行くだけが人生じゃないので、こういう仕事もあるんだということをアピールし、知ってもらうことが大事だと思っています。
福西 そうですね、宇宙からの電波を南極で受けているとは、みんな知らないと思いますので、そういう仕事もあって、それによってどういうことがわかるのかということを伝えてもらいたいですね。
大石 そうですね、昭和基地の雪上車や建物などはわかりやすいですが、宇宙からの電波の受信は分かりづらいと思うので、そういうことを知ってもらえたらいいなと思います。
福西 南極の昭和基地が最先端の科学基地であることは意外と知られていないと思います。そういう意味でもNECネッツエスアイの貢献は大きいですね。ぜひいろいろな写真も撮ってきて頂きたいと思います。それを使って南極の今を語って頂きたいと思います。
大石 わかりました。頑張ります。
福西 本日はお忙しい中で南極への思いを語ってくださりありがとうございました。活躍をお祈りいたしております。

大石 孟(おおいし はじめ)プロフィール

2011年にNECネッツエスアイ株式会社に入社し、消防や自治体向けの無線設備インテグレーション業務に従事。2016年より人工衛星や衛星系地上設備に係る業務に従事。入社以来の夢であった南極行きが決まり多目的アンテナ担当として59次南極地域観測隊に参加。

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)

プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。東京大学理学部卒、同理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。

南極とNECネッツエスアイ株式会社

NECネッツエスアイ(東証 1973 NESIC)は、1953年の設立で、通信インフラの設置工事から始まり、幅広いお客さまに最先端のICTシステムを提供するコミュニケーション・システムインテグレーターへと事業を拡大してきました。また、通信事業者の公衆通信網や官庁・自治体の防災情報システムをはじめ、毎日の生活を支え、守る公共インフラにも対応できる万全な全国サポート・サービス体制を構築しています。
南極地域観測隊には、1987年の第29次隊より、人工衛星からのデータや宇宙からの電波を受信するための「多目的衛星データ受信システム」の昭和基地への設置工事・現地調整に参加しました。以降、その運用並びに保守点検業務を担当する隊員として毎年1名が南極地域観測隊に参加しております。国内外で培った衛星通信、ネットワークに関わる幅広い保守技術や、現場での様々な問題に迅速に対応できる現場スキルが昭和基地での運用・保守業務に活かされています。
NECネッツエスアイは、これからも南極観測に貢献してまいります。

多目的衛星受信システムの大型アンテナ(直径11m)

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