小島 覚(北極圏生態学者、元東京女子大学教授)
北極というと多くの皆さんは、それは地球の北の果て、住む人もなく一年中雪と氷に閉ざされたところ、私たちとは何のかかわりもない世界と思っているのではないでしょうか。
ところがいま北極は、世界中の熱い視線が注がれているいわば世界のホットスポットともなっている所なのです。それは、これまで一年中、北極海全域を閉ざして溶けることのなかった海氷が、気候温暖化にともなって、今では夏の終わりから秋の始めごろにかけて一部溶けて海面が現れ、その間そこでさまざまな経済活動が可能になってきているからです。海氷が溶けている期間、今まで船の通れなかった北極海では船の航行が可能となります。すると、たとえば日本からヨーロッパへ行く場合、今までのスエズ運河経由に比べると航行距離が60%ほど短縮されます。するとこれからは、そこを通らないという手はありません。また海氷が溶けるということになると、そこでの資源開発も可能となります。海底には大量の化石燃料をはじめ、レアメタル、各種金属類の鉱床があると思われています。また漁業資源の利用も可能となるでしょう。
写真1 暗雲垂れこめる北極海。遠方の島影はスバルバール諸島。 |
写真2 夏の日を浴びるスピッツベルゲン島。 |
さらに近年、海氷の減少とともに、領土権、領海権をめぐるなまぐさい争いも盛り上がって来ています。例えばロシアは、ロシア沿岸から北極点までをロシアの領海として要求してきていますし、中国は最近、“一帯一路構想”に基づいて“北極海隣接国”というなんとも奇妙な言い方で北極海での経済活動に高い関心を示しています。そのような次第で、極寒の世界北極海ではありますが、いまここには世界中のさまざまな思惑がうず巻いているのです。
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写真3 ツンドラに草を食むジャコウウシ(Muskox)(カナダのエルズミア島にて)。 |
小島 覚(こじま さとる)プロフィール北海道大学農学部で修士課程を終える。その後、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学でPh.Dの学位を取得。専攻は植物生態学。その後カナダの国立森林研究所で研究員、研究室長を務め、帰国後は富山大学、東京女子大学に勤務。研究面では、北の自然に特化、カナダ北極圏やスバールバル諸島で研究を行う。 |