シリーズ「極地を科学教育とキャリア教育に生かす」第1回

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南極教員派遣のすゝめ

生田 依子(奈良県立青翔中学校・高等学校 教諭、第58次南極地域観測隊 同行者・教員派遣)

「国立大学の農学部に合格しました。大学院生になったら、南極の長池でコケ坊主の光合成速度の研究をします!」「国立大学の工学部に合格しました。南極での微生物燃料電池の研究を続けたいです!」 今年度、私と一緒に研究をがんばって来た生徒が報告に来てくれました。研究を担当した24人のうち3人が国立大学の理系学部に合格しました。この24人は、高校1年生から3年間、研究を担当し、南極との共同研究をした生徒たちです。高校入学時点では県内で学力的には中程度の高校から、国立大への進学者がでることは、あまり例がありません。日本全国でもなかなかないことではないでしょうか。

「ぼくも南極教員派遣に応募します!」 昨年度、奈良県内のある小学校へ南極授業でうかがったときに、唐突に、そのクラスの担任の先生がおっしゃいました。実際に、応募なさったと後に聞きました。今年度も「私も必ず南極へ行きます」という先生にお会いしました。生徒が南極観測に関わる学習を通じて成長すると実感していただければ、ますます多くの先生が南極を目指されるのではないかと考えます。

南極へ教員派遣で行かせていただいたことや、教育現場での取組を評価していただき、平成30年度文部科学大臣優秀教員表彰を受けることとなりました。これからも、より多くの先生方に、南極観測に関する研究を通じた人材育成について知っていただき、実際に取り組んでいただけるように努力していこうと決意を新たにしました。

南極教員派遣という制度は、教員にも生徒にも大変効果が高いと、南極から帰国した2年間で実感しています。これからも多くの先生が南極へ行かれることを、また、この事業の継続とさらなる進化を強く望みます。そこで、今回は帰国してからどのように南極を通じた理系人材育成を実践したかをご報告し、これから南極へ行かれる先生方の参考とし、南極観測の広報になればと考えます。

1. 南極観測を通じた理系人材育成

(1) 本校の取組

ア)SSH交流会支援事業

イベント名称:きみも南極観測隊員になろう ~南極観測でしたい研究を考える~

第1回 講演会『南極の自然』と研究の紹介

日時 2017年7月15日(土) 9:30~11:00
講師 生田依子(奈良県立青翔中学校・高等学校 教諭)
内容:「南極の自然」について講演会を行い、その中で南極での研究について紹介を行いました。また、私と共同研究をした本校生徒の研究発表を行い、高校生同士の意見交換も行いました。

第2回 研究協議「参加校の指導教員へ研究の進め方」

日時 2017年7月29日(土)13:00~14:00
講師 蒲生諒太 氏(京都大学大学院教育学研究科、関西大学非常勤講師)
内容 講師より、高校生の研究の進め方と指導のしかたなどを紹介してもらいました。また、本校教員から実践事例を発表しました。

第3回 ワークショップ「南極でしたい研究・建築を考える」

日時 2017年8月2日(水)12:30~16:50
場所 京都大学 理学部セミナーハウス
講師

国立極地研究所 教授  伊村 智   氏
国立極地研究所 准教授 田村 岳史 氏
国立極地研究所 准教授 渡辺 佑基 氏
国立極地研究所 助教  平沢 尚彦 氏
京都大学大学院 教授  石川 尚人 氏
京都大学大学院 准教授 三田村 啓理 氏 
大阪教育大学  教授   小西 啓之 氏
国立情報通信研究機構 主任研究員 島津 浩哲 氏
ミサワホーム総合研究所 福田 真人 氏

内容 関心のあるテーマに応じて講師1名と生徒3~6名で1班とし、ゼミ形式にて講義及びディスカッションを行いました。 

第4回 ポスター発表会「南極でしたい研究を発表する」

日時 2017年10月28日(土)12:30~16:50
講師

極地研究所教授 本吉 洋一 氏
情報通信研究機構研究者 浦塚 清峰 氏

内容 第3回で考えた内容をもとに、各学校のポスター発表に対して両講師より講評をいただきました。南極昭和基地からの岡田 雅樹越冬隊長の中継授業と、越冬隊員の田邊 優貴子氏、國分 亙彦氏より、中継による研究指導をしていただきました。

参加校は、研究を提案するだけでなく、南極でする研究の予備実験を実施した上で発表をしました。

参加者人数:他校 生徒88名 教員24名
本校 生徒25名 教員 19名 (第一回は全校生徒403名 教員36名)
参加校:京都府立嵯峨野高等学校 大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎 ルネサンス大阪高等学校 兵庫県立尼崎小田高等学校 兵庫県立加古川東高等学校 白陵中学校・高等学校 奈良県立奈良高等学校 天理高等学校 奈良県立青翔中学校・高等学校  奈良県立桜井高等学校 奈良県立橿原高等学校 兵庫県立神戸商業高等学校 奈良育英中学校 大和高田市立片塩中学校 関西中央高等学校

ワークショップではアンケート結果から、「内容は、自分の将来への参考になる」と89%の生徒が回答し、「他校の生徒同士の交流、大学の先生との交流は刺激になった」と90%の生徒が回答しました。研究者や他校の生徒と対話による学びが効果的であり、自己のキャリア形成の方向性と関連づけることができるとわかりました。また、「南極観測の意義を理解し、自然科学への関心が高まった」と90%の生徒が回答しました。 

ポスター展が終了した時点では、80%以上の生徒が「ポスターを作成し、発表をしたことで、課題に対して仮説を立てることができるようになった」、「ポスターを作成し、発表をしたことで、研究を提案できるようになった」と回答しました。ワークショップだけではなく、予備実験をし、発表をすることが効果的であると考えます。

これらのことから、本事業によって、生徒が南極観測の意義を理解し、南極の課題を自分のものととらえ、南極観測に興味をもっただけではなく、理系人材に必要とされる「課題を発見し、仮説を立て、実験を提案する」という力が付いたと考えます。これは本事業の以下の3点によりもたらされたと考えます。

①「対話的な学び」:南極経験のある研究者や技術者と直接の対話によって、南極でしたい研究を考えたこと、さらに、同世代の生徒と班で意見を共有しあったことから自らの考えを広げる学びが実現できたこと。

②「深い学び」:生徒は、南極でしたい研究について、資料を読みこみ、仮説をたて、研究を考え、予備実験を日本国内で実施し、ポスターを作成し、発表をしました。これらから、習得した知識や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせながら、問いを見いだして、解決しようとしたり、自己の考えを形成し表すことができたこと。

③「主体的な学び」:南極観測に貢献できる研究を考え、予備実験までしたことで、学ぶことに興味や関心をもち、自己のキャリア形成の方向性と関連づけながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる学びができたこと。

イ)中高生南極北極科学コンテストへの参加と受賞

本校生徒の過去4年間の受賞とタイトルを以下に示します。本校生徒は、南極で自分の考案した研究を実施していただくことが身近にあるため、競ってコンテストへ応募しています。コンテストへ応募するにあたり、南極での先行研究から新規性があるかどうか確認し、日本で予備実験をしてから応募するように指導しています。

第14回の優秀賞・南極科学賞「南極昭和基地での人がいる時、いない時の微生物調査」では、実際に南極で実験を実施していただきました。サンプルを遺伝子解析までしたいと生徒は考えました。しかし、高校にはそのような資金はありません。そこで、第56回下中科学研究助成金を申請し、採択されました。年度内には結果を報告できる予定です。私は遺伝子解析までは資金が無いためムリだと思っていましたが、生徒たちの熱意にうごかされ、申請する決意をしました。第15回の優秀賞・南極特別科学賞受賞生徒は、本気で大学院生のときに南極の長池で研究をしたいと考えています。

極地研究所の皆様のおかげで、夢に向かって努力すれば、必ず報われることを体験させてもらっています。また、生徒たちの進路決定に良い影響を与えていることは間違いありません。

第15回

優秀賞・南極特別科学賞「青色光+紫外線Aはコケ坊主の成長を促進するか?」

第14回

優秀賞・南極科学賞「南極昭和基地での人がいる時、いない時の微生物調査」
優秀賞「昭和基地周辺の野外の土壌から発電する」
奨励賞「南極の微生物は標高が高いほど少なく、南極固有の微生物の割合が増える」「南極の隔離された池の進化」

第13回

優秀賞「昭和基地とその周辺の大気中の微生物数調査」「南極と北極のコケと顕花植物からタンパク質以外の氷結晶阻害物質を取り出す」

第12回

奨励賞「南極のコケ坊主から発電する」

 

受賞式での発表の様子

(2) 他校への南極授業

下記のように、小学校を中心に南極授業を実施させていただきました。南極の自然の紹介と南極観測の意義を伝えています。また、南極へ行く夢を叶えることができた秘訣は、「あきらめないこと」、「的確に準備をし続けること」と伝え、児童・生徒の興味・関心を高めるよう努めています。

平成29年度

王寺町立王寺北小学校 川西町立川西小学校 香芝市立志都宇美小学校
王寺町立王寺小学校 天理中学校 帝塚山中学校・高等学校 

平成30年度 

篠山市立古市小学校(兵庫県) 橿原市立真菅北小学校

2.南極観測の広報

下記のように、教員や保護者対象に講演会を実施させていただきました。南極観測への理解を深めていただくとともに、将来の日本と南極観測を背負って立つ人材を育成するには、児童・生徒の身近な大人である保護者や教員の方々のご協力が必要だとお伝えしています。

(1) 教員対象の講演会

平成29年度

・島根県高等学校理科教育協議会生物会研修会
・奈良県小学校生活科・総合的な学習研究会冬季研修大会
・奈良県高等学校教科等研究会生物部会・奈良県生物教育会総会
・平成29年度奈良県高等学校理科(生物)学習指導研究会
・『教育委員会月報』(文部科学省) 紙上発表 

平成30年度

・奈良県教育研究所 新学習指導要領を踏まえた高等学校理科授業づくり研修講座
・奈良県教育振興会 第35回教育セミナー

(2) 保護者・一般対象の講演会

平成29年度

・奈良県環境保全団体交流会
・奈良テレビ まほろばラウンジ 出演
・NHK奈良放送 ならナビ 出演

平成30年度

・笑郷まほろばの会 環境問題講座
・特定非営利活動法人 サークルおてんとさん 講演会
・奈良県立高田高等学校PTA総会
・一般社団法人 天理市学童保育連絡協議会30年度総会
・香芝市PTA協議会教育講演会

 

特定非営利活動法人「サークルおてんとさん」での講演会

 

生田 依子(いくた よりこ)プロフィール

奈良県立青翔中学校・高等学校 教諭 理科(生物)。第58次日本南極地域観測隊に同行者(教員派遣)で参加。平成30年度文部科学大臣優秀教員表彰を受賞する。

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