シリーズ「極地を科学教育とキャリア教育に生かす」第3回

南極観測と中等教育の橋渡しを目指して

木村 嘉尚(東京都立世田谷総合高等学校 教諭、第51次南極地域観測隊 越冬隊員)

「わぁ、すごい!」、「あはは〜、かわいい〜」。オーロラやペンギン、アザラシなどの動画が映ると、会場には歓声があがり、一気に盛り上がる。無邪気な子供達の笑顔、未知の世界の映像に釘付けになる姿を見る度に、『南極の話をやってよかったな』と思う。

中学校ではキャリア教育として

私は現在、東京都の都立高校に所属する理科の教員(専門は物理)である。都立の教員であるため、都内の公立中学校からの依頼で年2・3回ほど南極の話をしている。依頼の内容としては「総合的な学習の時間」での仕事・職業など、キャリア教育に関することが多く、意外にも自然科学を扱っている「理科」での依頼はほとんどない。確かに、自分の職場から考えてみても、1年間の授業時数がギリギリであったり、講演を行うなら1クラスだけではなく、全クラスの生徒に聞かせてあげたかったり、講演を行うまでの予算や書類作成の準備が大変など、理科の授業内で講演を行うのは少し厳しいのが現状である。そのため、中学校に関しては、南極観測は自然科学としてより、キャリア教育としての需要があるように思える。

 

写真1 中学校の講演会の様子

高等学校では研究として

日常での生徒への南極の話はというと、現在の勤務校では担当科目の1つに地学基礎があり、教科書や資料集で南極のデータがしばしば登場する。その度に観測の話をしているが、生徒は「また南極の話かよ」という感じになる。しかし、やはり未知の世界の話に対しては、じーっと耳を傾け、生徒によってはかなり鋭い質問をしてくることもある。日常の話に加えて、毎年恒例にしているのが、「中高生南極北極科学コンテスト」に向けて、夏休み前最後の授業1時間を使って南極観測の話、そして、夏休み中には生徒を連れて南極観測センター、極地研、南極・北極科学館で観測隊の準備や研究の話、施設見学をさせて頂いている。理系進学を志している生徒は、専門機関や研究所見学に行くことによって、受験に対するモチベーションも変わってくるように見られる。

 

写真2 南極観測センター(上)と低温室(下)の見学の様子

高等学校では2022年より新しい学習指導要領になる。その中のキーワードの1つとなっているのが、「主体的・対話的で深い学び」である。これは、アクティブラーニング(能動的学習)という、従来の教員が一方的に話し、板書する、「一方的な知識伝達型講義」ではなく、生徒が「書く・話す・発表するなど能動的な学習活動」を推進する内容となっている。そして、「理数探求基礎」、「理数探求」という新たな科目が設置される。現在でも、「理科課題研究」という科目はあるが廃止され、より高校生が「研究する」ことを取り入れる内容となっている。このことから、高校では研究という面での大学や専門機関との連携の需要が増えるのではないかと思っている。

私は学生時代に南極観測隊に参加したことから、研究や技術的のことや社会人としての基礎など、本当に多くのことを南極観測隊から教わった。そして、帰国後も多くの貴重な経験をさせてもらっている。この恩を次世代の子供達に還元したいという想いが、教員の道を進んだ1つのきっかけになっている。私以外にも教育者として活躍されている観測隊経験の諸先輩方が多い中、このような内容を書かせていただけることは大変恐縮である。

どれだけ恩を返せるか分からないが、教え子が南極観測隊に参加したり、高校生を南極へ連れていくことを夢として、南極観測と教育の橋渡しの役割を担っていきたいと考えている。

 

参考文献

文部科学省(2018),高等学校学習指導要領解説理科編理数編http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/13/1407073_06.pdf

 

木村嘉尚(きむら よしひさ)プロフィール

2012年東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。
修士2年次に51次隊に越冬隊として参加した。大学院課程修了後は、民間企業に就職し、現在は都立高校理科教員。

ページ上部へ戻る