日本の南極地域観測事業を支える企業シリーズ第11回

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三機工業株式会社
~南極の環境保護の一翼を担う~

第60次南極地域観測隊員インタビュー

越冬隊員 倉島浩章

右は第60次越冬隊の倉島隊員、左は第60次夏隊の小池隊員(2019年2月9日)

インタビューは2018年10月29日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西:南極に出発される直前でお忙しい毎日ですが、インタビューの時間をとってくださりありがとうございます。南極での仕事や南極でやってみたいことなどいろいろと質問させていただきます。最初に、これまで会社でどの様な仕事をされてこられたのかお話しいただけますか。

倉島:三機工業は、空気設備、給排水衛生設備、電気設備、水処理施設、産業廃棄物処理、物流システム、空港手荷物・貨物ハンドリングシステムなどいろいろな事業をやっています。私は空調設備の部門に所属し、空調関係の仕事をずっとやってきました。

福西:三機工業はこれまで南極地域観測隊に廃棄物処理や汚水処理施設管理など環境保全担当で社員を派遣してこられましたね。

倉島:そうです。でも今回は空調設備担当で行くことになりました。

南極観測隊員に応募した動機

福西:今回、南極観測隊に応募された動機は何だったのですか。

倉島:私の会社はこれまでに南極観測隊に12人の隊員を派遣しています。会社に入社した当時、人事の研修で、環境部門に行けば南極に行けますよというアナウンスがあって、南極への憧れはありました。でも当時は、工場で半導体や液晶を製造するクリーンルームや車の実験をするための低温や高温の環境試験室を作りたいという希望を持っていたので、その部門に進みました。
現在は入社21年目になるのですが、2年前に突然国立極地研究所から基本観測棟という建築工事をしているので、設備工事ができる人が欲しいという依頼が会社にありました。そこで会社は設備工事ができ、南極という厳しい環境でやってみたい人を公募しました。それで南極への憧れを持ちつづけていたので手を上げて60次隊の越冬隊員に選んでいただきました。

福西:実際に隊員に決まったのはいつ頃なんですか。

倉島:昨年(2017年)の8月に大体決まりました。

福西:会社で応募した人は多かったのですか。

倉島:そうですね、12人の応募がありまして、私が越冬隊員に、小池充将さんが夏隊員に選ばれました。

子供の頃

福西:いよいよ南極に行かれることになったわけですが、ご自分の子どもの頃を振り返って、南極に繋がるような思い出はありますか。

倉島:両親の実家が長野県の松本で、小さい頃から北アルプスやその周辺の山に登っていました。冒険ではないですが、残雪のある所や岩場に登るのが好きでした。また小学生の頃のことですが、植村直己さんの北極を犬ぞりで行く冒険や南極横断などの本を読んで、南極や北極への憧れはあったのです。でも両親から、山に登るのはいいが冬山は遭難すると大変だから止めてくれと言われ、その道には進みませんでした。

福西:山に登り出したのはいつ頃からですか。

倉島:幼稚園生くらいからです。西穂高や上高地にアクセスする所が松本でしたので、地元から行きやすいので、小学校2年生くらいからそこを登りました。小学校6年生で北アルプスを縦走して、槍ヶ岳まで行って降りて帰ってきたことがあります。中学校になって部活が忙しくなり、登山は少なくなりました。

福西:部活は何をやっていたのですか。

倉島:陸上部をやっていました。

福西:では体力には自身がありますね。

倉島:そうですね、体力には自信があります。中高の陸上部では高校駅伝など持久系の方が好きでした。

福西:走るのが好きだったのですね。

倉島:はい。大学に入ってもトライアスロンをやりました。体を動かすこと自体が好きで、過酷なものでも長時間動いている方が自分には合っています。瞬発力が必要な競技ではなかなか良い成績が出なかったのですが。

福西:今でも何か鍛えていますか。

倉島:今は、ちょっと鍛えていないので、逆に南極に行って絞ろうかなと思っています。

福西:南極で力仕事をやって絞るのですか。

倉島:はい。南極料理人のテレビで最後のシーンですが、南極に行った人がトライアスロンの大会に出て優勝するシーンがあって、なんとなく血が騒いで、南極にいる間に鍛えようかなと思っています。

南極での仕事

福西:実際に南極で担当する仕事ですが、先ほど基本観測棟の設備を担当するとおっしゃいましたが、もう少し具体的に教えてください。

倉島:基本観測棟の建設は今年が3年目で、1年目は基礎工事をして、2年目で1階の部分の鉄骨で作って、3年目で2階部分を作って、この冬は電気工事や内装工事をやっています。でも空調・暖房設備工事や給排水設備工事は手つかずのまま残っています。それらの設備を一気に完成させてしてほしいと国立極地研究所から要請され、三機工業が隊員2名を派遣することになりました。

極夜の基本観測棟(2019年6月14日)

福西:夏期間と冬期間とでは仕事の内容が変わると思いますが、どの様に工事を進められるのですか。

倉島:夏期間は2人いないとちょっと難しい工事、例えば建物の天井部分に大きな設備を設置する工事などをしらせ乗組員の支援を得てやります。また厳冬期では難しい外部工事も夏期間にやります。冬期間は室内の枝部分の工事をします。

夏期間の60次南極観測隊員としらせ乗組員の共同作業の後で(2019年1月29日)

福西:再来年の越冬交代期(2020年1月~2月)に基本観測棟は全て完成するのですか。

倉島:そうですね。ミサワホームから派遣された小山隊員が建物の内装を仕上げるので、そこに穴を空け、空調・暖房設備を設置していきます。

福西:南極観測隊の場合、限られた人数でいろいろな仕事をやらなければならないので、準備はかなり大変だったと思いますが、どんな訓練に行かれたんですか。

倉島:そうですね、空調設備関係は私の専門分野なので問題なく対応出来ると思いますが、昭和基地にはかなり経年劣化している機械設備もかなりあります。それらの不具合の修理が出来るようにいろいろな訓練を受けました。修理する部品は大体現地にありますが、実際不具合になった部品を交換するには技術がいりますので、分解の仕方や取付け方、取り付けた部品の調整の仕方などを訓練で教えてもらいました。

福西:観測隊全体での訓練はどうでしたか。

倉島:観測隊全体の訓練では消火訓練をやりました。火災が起きた時に日本のように消防を呼ぶことができないので、消火器・ホースの使い方の訓練をやりました。

造水コージェネレーション設備の機器保守作業(2019年7月1日)

暖房用温水ポンプの保守作業(2019年8月20日)

南極でやってみたいもの

福西:初めての南極という環境で、いろいろやってみたいことがあると思いますが、仕事以外ではどうですか。

倉島:やはり凄い自然が残っているのでその自然を楽しみたいですね。まずは野生のペンギンを見てみたいですね。ペンギンは普通だと人間を怖がって寄ってこないですが、南極では向こうから近づいて来てしまうのでこっちが逃げないといけないそうですね。それに夜は凄いオーロラが出るというのでそれをぜひ見てみたいですね。

福西:南極の自然を十分に楽しみたいということですね。

倉島:そうですね、小さい頃から山に登ったり星を見たりするのが好きでしたので。

休日は基本観測棟屋上からオーロラ見物(2019年7月27日)

家族のこと

福西:今度南極に行くことについては家族に相談されましたか。

倉島:最初に家族に相談しました。でも私は仕事で3分の2位海外出張していて南極に行くという話が出た時も5年間中国に行って戻って来て1年位だった時でした。それで「1年位ならいいんじゃないの」という感じでした。

福西:1年半は日本に帰れないので家族の理解は大事ですね。でも今はメールが毎日できるので昔よりはずっと便利ですね。

倉島:そうですね。会社の先輩から、昔は電話代が凄くかかったとか聞きました。

南極を目指す人たちへのメッセージ

福西:南極観測隊員に将来なってみたいと思っている人がたくさんいらっしゃると思うのですが、そういう人たちへのメッセージをお願いします。

倉島:いつチャンスが来るか分からないので、私もたまたまチャンスが来た所で手を上げようかだいぶ迷ったのですが、そういう時に積極的に行動すれば、希望が叶うと思います。また、南極観測隊ではいろいろな分野があるので、積極的に動けばきっと南極に行くことも実現すると思います。南極に行きたいと思ったら挑戦してほしいですね。

福西:本日はいろいろなお話をお聞かせくださりありがとうございました。南極での活躍をお祈りいたしております。

倉島 浩章(くらしま ひろあき)プロフィール

1973年生まれ、長野県出身。1998年に三機工業株式会社に入社。電子部品工場のクリーンルームや自動車向け環境試験室等の産業空調の設計・施工管理業務に従事。社内公募に応募し、機械設備一般担当として60次南極地域観測隊に参加。趣味はトライアスロン、マラソン、ダイビング

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。日本地球惑星科学連合フェロー。東京大学理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。

南極と三機工業

三機工業株式会社は、空気調設備、給排水・衛生設備、電気設備、情報通信設備、オフィス移転等の建築設備事業、搬送システム・コンベヤ等の機械システム事業、上下水処理施設・廃棄物処理施設等の環境システム事業といった社会インフラの幅広い領域で事業を展開している。
1991年に南極条約環境議定書が採択され、南極昭和基地の廃棄物・排水処理が議定書の定める環境基準を満たすために、まず昭和基地の現状調査を三機工業に依頼した。これを受けて第33次南極観測隊夏隊(1991~92年)に初めて社員を派遣した。この調査結果に基づいて浄化槽方式の排水処理設備建設を担当した(第38次隊~40次隊、1996~2000年)。さらにより進んだ膜分離活性汚泥方式の排水処理設備の建設を担当した(第53次隊~56次隊、2011~16年)。これまでに14名の社員が南極観測隊員となり、南極の環境を守る仕事で活躍している。

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