シリーズ「南極にチャレンジする女性たち」第6回

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南極で地震観測に挑む

第58次南極地域観測隊 越冬隊員 中元 真美

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第56次南地域観測隊夏隊に参加(しらせ艦橋にて)

インタビューは昨年11月25日に、日本極地研究振興会の立川事務所で行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西 中元さんはすでに一般研究観測担当で第56次日本南極地域観測隊の夏隊に参加されましたが、今回は第58次越冬隊で地圏変動モニタリング観測担当されることになりました。二度目の南極行きということで、研究者として南極に駆ける想いをいろいろとお聞きかせください。まず、自己紹介をしていただきたいのですが、出身はどこですか。
中元 生まれは広島市なんです。広島市の郊外の方で、田んぼとか山に囲まれたところで育ちました。地元の落合小学校、口田中学校に通い、家の中にいるよりは外を走り回っている時間が多かったんです。高校も地元です。
福西 子供の頃に南極に行きたいと思ったことはあったんですか。
中元 いいえ、行きたいって思った記憶はないんです。前回の56次隊の時、「何で南極行きたいの」と聞かれた時に過去を振り返ってみたんです。多分一番最初に映画館で観た映画が「南極物語」だったんです。でもその時はすごい小さい時だったんで、何かものすごく寒い場所に犬ぞりの犬が映っていたとか、ペンギンが映っていたというくらいの記憶しかありません。当時はストーリーも良くわからなく、子供の観るような物語ではなかったので、全然面白くないと思った記憶があります。その頃はアニメが好きな年頃なので、、、。でも思い起こせばそういう事があったんです。多分どこかに南極というのはあったんですね。
福西 大学は九州大学ですね。
中元 そうです。でも九大に入る前にちょっと別の大学に入ったんですが、やりたい事が違ったので辞めて九大に入り直しました。
福西 部活はしてきましたか。
中元 中学から吹奏楽を始めて、大学はオーケストラ部に入りました。ずっと音楽をやってきました。
福西 楽器は何ですか。
中元 クラリネットです。
福西 では今回は南極に持っていかれるのですか。
中元 はい、持っていって楽しみたいと思っています。
小さい頃から研究に興味
福西 九州大学では大学院博士課程まで進まれましたが、研究の世界に入りたいと思ったのは大学に入ってからですか。
中元 いいえ、研究をやりたかったのはもう本当に昔からなんです。小学生の時から毎年自由研究をやって。その小学校は出しても出さなくてもよかったんですけど。とにかく知らない事を調べるのが好きだったので中学の時も高校の時も自由研究を続けていました。高校の頃は研究者になりたいかどうかは別にして、研究の道に進みたいのでとりあえず大学院で博士号を取るまでは勉強したいと思っていました。
福西 では九州大学でどんな研究をされてきたのですか。
中元 地震や火山に関する研究をしてきました。九州大学理学部に入学し、4年生の時に長崎県島原市にある九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センターに引っ越し、そこの研究室で研究を続け、博士論文を仕上げました。地震火山観測研究センターは2000年に設置された地震と火山の研究教育施設で、前身は、雲仙・普賢岳の噴火時に活躍した島原地震火山観測所です。
福西 博士論文の研究はどんな研究ですか。
中元 博士論文のタイトルは、「2011年霧島火山の噴火に伴って発生した火山性微動の時空間的特長に関する研究」です。地震計アレイデータを詳細に解析して火山性微動の発生位置の変化を検出し、マグマだまりから火口へのマグマ供給の機構を解明しました。
福西 大学で地震や火山を研究したいと思った理由は何ですか。
中元 そうですね、子供の頃は自然が好きで、理科の科目や内容が好きで、植物も好きだったんですが、一番好きだったのは星を見ることでした。それで最初は宇宙関係の方に進もうかと思ったんです。でも宇宙に関して何をしようかと考えた時に、何があるのか分からず、全然思いつかなかったんです。ただ単に星を見るのが好きなんだと気がつきました。そして改めて何を勉強したいのか考えた時に地震がどこで起こるのかということが昔から気になっていて興味があったことに気がついたんです。それで地震の方に進みました。
初めての南極隊
福西 南極観測隊に初めて参加されたのは第56次南極観測隊の夏隊でしたが、応募したきっかけは何だったんですか。
中元 九州大学の地震火山観測研究センターの私の研究室に南極観測隊に参加した先生がいて、その先生から南極の話を聞いたんです。大学に入った頃から出来るだけ外に出ていろいろとやりたいと思っていたので、南極に行ける機会があるなら行きたいな~と思っていたんです。その先生は南極昭和基地の地殻変動モニタリング観測グループのメンバーの一人で、隊員を探していたのです。私が南極に行きたいと言っていたのを覚えていてくださり、「南極に行きたいならば推薦するけどどうですか」と聞かれたのです。それで、「機会があるんだったら行きたいです」と返事しました。 その時は本当に軽い気持ちで、ちょっと行って来ようかなぐらいでした。他にも候補の人がいるし、別に私に決まったわけではなかったので。そうしたら最初に決まった人が行けなくなってしまい、「今度は本当に行けるけど本当に行く気があるか」と言われたんです。そこで指導教員と今後のことなどを相談して、行けるチャンスがあって今を逃したら次はいつ行けるか分からないから、それだったら行きたいと、それで決めました。
福西 初めて参加した第56次夏隊ではどんな仕事をしたのですか。
中元 そうですね、初めて南極に行った時は自分が専門とする地震・火山のデータを取りたいというよりは、南極という、あまり人が行けない場所に行ってみたいという気持ちが強かったですね。南極には活発に活動している火山は少なく、昭和基地から3000キロ以上も離れたエレバス山が有名です。地震も大陸の中ではあまり起こっていないので、よく「何で南極に地震の観測に行くの」と言われるんです。担当の仕事もすでに設置している観測機器のデータを回収するというのが主でした。ただ指導教員だった先生から、「どうせ行くなら手ぶらで帰ってくるな」と言われたんです。つまり何かしら自分のデータを取ってこいと。それで、ちょっとした自分の観測器を持っていって観測をしたのです。でもやっぱりおまけの観測なので、他の観測の邪魔は出来ないので、最小限の手間でできることだけやったんです。そうすると、準備も足りないし、南極での観測場所の知識も全く初めてでなかったので、地震データは取れたんですけど、思った程のデータは取れなかったです。
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<地震アレイ観測点の設置作業。手で持っているのが地震計、手前のプラスティックケースが収録装置(第56次夏隊)。

福西 南極の生活では食事が楽しみですが、食事に関して何か思い出はありますか。
中元 一つは前の隊の南極料理人が作った料理を食べたことです。夏の間は女性だけ住む所が違うんです。男性隊員は夏宿舎に住むんですが、雑魚寝するわけにはいかないので、個室がある管理棟という越冬隊が住む建物に先に入れてもらえるんです。でも食事は夏隊として夏宿舎で一緒に食べるんです。夏宿舎ではしらせ乗組員の自衛隊の方が食事を作ってくださいます。でも大人数なのでどうしても食事が冷めてしまうんです。 でもブリザードの時、1回だけ外出できないことがあって、第55次越冬隊の方たちと一緒に食事をさせてもらったんです。その時、南極料理人が作ったチキンカツがすごく美味しかったんですね。その南極料理人は西荻窪で「じんから」というお店を出されているので、帰国後にお会いした時に、「おいしかったですよ」と言うと、「そんなの作ったっけ」と。向こうは普段の食事の一環なんで特に記憶にないんですが、私にとってはそれはもの凄く美味しかったですね。 もう一つは、2月1日の越冬交代後に夏隊は順次「しらせ」に戻るんですが、私は他の仕事もあって一番最後まで昭和基地に残ったんです。そうすると第56次越冬隊の料理人が作った料理をいただくことができました。その時の最初のうどんが凄く美味しかったのを覚えています。
福西 初めて南極観測隊に参加して、大変だったことは何でしたか。
中元 大変だったことについてよく聞かれるんですが、大変だったという記憶はなく、しいて言えば、作業時間が長いので睡眠時間が少なくなり、ちょっとでも休みがあれば寝たかったということくらいです。仕事に関しては大きなトラブルはありませんでした。
福西 それでは夏隊に参加して得た経験の中で最も良かったものは何ですか。
中元 日本での普段の生活ではほとんど同じ研究分野の人としか話しません。でも観測隊には研究してる人から、設営部門の機械担当隊員、医療担当隊員、調理担当隊員など、いろいろな人がいます。そういう人たちと2か月とか3か月とか一緒にいるのは初めての経験でした。いろいろな話が聞けたんで、それが自分の経験として一番身になったと思います。
再び南極観測隊に参加し地震を研究
福西 それでは今回は夏隊ではなく越冬隊に応募した理由は何ですか。
中元 前回、夏隊で南極に行った時に、設営などいろいろな作業を手伝わせてもらって良い経験ができたんです。でも夏期間は非常に短くて、働きに働いてすぐ帰って来たというイメージでした。短い夏だけではなくどうせ南極に行くんだったらやはり厳しい冬を感じたいという想いがあったんです。南極から帰って来た時に、次は絶対に越冬隊で南極に行こうと思ったんです。ただ就職を考えると、3年位してから応募しようかなとか思っていたんです。今回はたまたま地圏変動モニタリング観測担当隊員の募集があり、仕事内容でも地震観測装置の入れ替えがあるので地震に詳しい人に来て欲しいという要望もあり、求められているものと自分がやりたいことが一致し、またちょうどポスドクの期限が切れる時期が一致したので、今から1年前に応募することに決めました。
福西 今回は本格的に地震のデータをとることになるわけですね。
中元 そうですね、前回取れなかったデータを取りたいと思っています。地圏変動モニタリング観測という決められたデータを取るだけでなく、自分自身の研究のデータも取りたいと思っています。
福西 南極大陸の地震はどこで起こっているのですか。
中元 そうですね、ほとんどは南極大陸の周辺部で起こります。南極大陸周辺のプレート境界でも地震が時々起こりますが、頻繁に起こるのは氷が割れる時に起こる地震です。氷河が崩れた時やタイドクラックが開いた時など、氷の割れによる地面の振動も地震波として記録されます。
福西 地震予知に関しては社会的関心が高いですが、どう考えられていますか。
中元 多分一般の人が欲しい予知情報は、日にちまで特定できなくても、何月ころにこの辺りで起こりますというような時間と場所の情報だと思います。場所に関しては、陸上ではだいたい活断層の辺りで起こりますし、海では海溝のようなプレート境界で起こりますので、起こりそうな場所をある程度推定できますが、いつ起こるかに関しては、地下の状態が分からないのでむずかしいですね。私個人としては一般の人が求めるいわゆる地震予知は現段階ではできなくて、将来的にもそんなにすぐにはできないと思っています。でも今見つかってない何かが今後の研究で見つかれば可能になるかもしれません。
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東オングル島内での地震アレイ観測(第58次越冬隊)
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露岩観測点への移動はヘリコプター(第58次観測隊・夏期)
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地震観測点の新設(第58次観測隊・夏期)
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海氷上GNSS観測点周辺の氷厚測定(第58次観測隊・冬期)
増えてきた女性隊員
福西 南極観測隊に参加する女性隊員は徐々に増えて来て、今回の第58次越冬隊では33人中6人が女性と過去最大になりましたが、女性ならではの大変なことがありますか。
中元 いいえ、多分それを感じるのは男性の方なのかなと思います。
福西 気を使ってくれるんですね。
中元 そうです。気を使ってくださっていると思いますね。研究系で南極に行く女性は日本でも普段からよく野外に出ますし、理系だと周りは男性ばっかりなんで、女性か男性かを意識しない人が多いと思うんですよね。でも南極観測隊では女性側は全然気にしてないんですが、多分男性側はすごく気を使ってくださっているんだと思います。
福西 そうですね、女性が重い荷物を持たないように配慮したり。
中元 そうなんです。でも研究仲間からは普段から一緒に働いているので女性扱いなんてされず、まあどうしても力の差はあるから持てないものとか力が足りないこともあるんですが、基本的に女性だから重いものは大変だねみたいなのはないですね。それくらいできるでしょみたいな。でも観測隊では、結構重い物を持ってくれようとしたり、「大丈夫、大丈夫」と声かけてくれるんですね。男性の方が気を使われて大変かなと思います。
越冬中にやってみたいこと
福西 越冬中に自分が担当する仕事以外で一番やってみたいことは何ですか。
中元 趣味がスキーなのでスキーを持って行こうと思っています。前回の夏隊では内陸の雪がすごく乾燥していて、ここで滑ったら楽しいだろうなと思いながら帰って来たので、今回はいろいろな場所でスキーするのを楽しみにしています。また今回もクラリネットを持って行って、それを楽しみたいと思っています。
福西 今回の越冬隊で楽器を持って行かれる方はたくさんおられるのですか。
中元 結構いるみたいですね。私物の「しらせ」への積み込みが始まっているんですが、ギター持ってきたとか、これ持ってきたとかよく聞きます。
福西 南極の自然では何が一番見てみたいですか。
中元 やっぱりオーロラですね。前回、「しらせ」の上で見たんですけど、越冬すればもっといろいろなオーロラが見られるので楽しみです。写真を撮るのが好きなので、オーロラの写真や星空ですね、南極の。極夜の真っ暗な中で撮りたいと思っています。前回の夏隊では夏季の白夜で、ほとんど星を見られずに帰って来ました。それは越冬中の楽しみです。
福西 昔から写真が趣味だったんですか。
中元 いいえ、大学入ってからちょっと撮っているくらいです。それまでは記録としてしか写真を撮っていなかったんです。最近は、写真を撮る人によって同じものを撮っても全く違う写真ができるのが面白いなと思って、はまっています。
家族からの応援
福西 越冬となると、1年4か月も日本に帰って来られないので、家族の方は心配しませんか。
中元 そうですね、越冬隊に応募するのに、身分がポスドクだったんで、まず家族ではなく周りの人に相談しました。今後の就職などを心配して、よく考えたのかと言って下さる方が多かったんです。それで前の研究室の先生方ともよく話して、応援して下さるって言っていただきました。それから親に言う番になって、どうやって説得しようかなと考えたんです。就職が決まっていればいいんですが、まだ職が決まっておらず、越冬隊から帰ってきたらどうなるか分かんないと言うと反対されるだろうなと思ったんですね。いよいよ越冬隊への応募を出すという時に親に電話して、「南極に行くことにしようと思うんだけど」と言ったんです。そうしたら、「やりたいことやればいいんじゃない」、「あ~行っておいでよ」と言われて、「あ、そうですか。じゃあ行ってきます。」となりました。
福西 ご両親ともそんな感じでしたか。
中元 いいえ、父親は行ってほしくないって言ってました。やはり昭和基地の環境が良くなったとはいえ心配だったようで。昔の人だから昔の南極のイメージが強く、それこそ映画の「南極物語」の世界じゃないですが、結構大変な環境だと思ったんですね。最初は母親にしか話してなく、多分母親が説得したんじゃないのかなと思っているんですが。うちの母親はやりたい事やりなさいって言うことが多いので。でも前回の夏隊の時は、反対じゃないですが、行っておいでと言うほど賛成されなかったので、今回は越冬隊なので説得が大変かなと覚悟していたんです。でも何の疑いもなく、「じゃあ行ってらっしゃい」となりました。
福西 素晴らしくご理解がありますね。
中元 そうですね。弟も、理科の教員しているんですが、「また行くの、物好きだね」みたいな感じでした。今回は越冬中に弟の中学校と南極教室することになっているので、応援してくれています。
南極を目指す人へのメッセージ
福西 最後にこれから南極観測隊に参加したいと思っている人たちへのメッセージをお願いします。
中元 私は南極観測隊に参加することになって、プロジェクトXを見たり本を読んだりしたんですが、その中で一番好きで印象に残ってるのが、第1次越冬隊長の西堀栄三郎先生の言葉です。越冬中に物が無くなったり、いろいろなトラブルがあった時に、隊員に言われた言葉で、「やってみなはれ」というのが凄くいいなと思っています。最近は何事もしがらみが多く、やりたい事をやれって言ってくれる人がなかなかいないんですね。それで、やりたい事をとりあえずやるっていうのが重要かなと思っています。何か凄い発見も、こうやらなきゃいけないというレールからちょっと外れて、マニアックなことをやった、何かチャレンジした結果のような気がするので。南極に行く人はとりあえず自分がやりたいと思うことをやってみる。周りがどう言うからじゃなくて、とりあえずやってみるっていう人が増えると面白くなるんじゃないかなと思ってます。
福西 南極から帰った後は研究者を目指すのですか。
中元 それは南極での越冬中によく考えたいと思っているんです。研究するのは好きなんですが、だから研究者になるかって言われるとどうかなと感じています。最近は自分の研究だけでなく、観測装置を準備し、調整し、現場に行って設置し、データを取って来るという仕事が多かったので、そういう技術職も考えた方が良いんじゃないかというアドバイスももらっていますので。研究者になるかどうかはまだ分からないんですが、何かしら研究に関係する仕事には就こうと思ってます。
福西 本日はいろいろなお話をお聞かせくださりありがとうございました。

中元真美(なかもと まなみ)プロフィール

広島県広島市出身。九州大学理学部に入学し地震や火山に関する研究を行う。九 州大学大学院で博士号(理学)を取得したのち、第56次日本南極地域観測隊に夏隊員(一般研究観測)として参加。九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター非常勤研究員を経て国立極地研究所南極観測センター勤務。第58次日本南極地域観測隊に越冬隊員(地圏モニタリング観測)として参加。専門は地震学。趣味はクラリネット。

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)

プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。東京大学理学部卒、同理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。
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