日本の南極地域観測事業を支える企業シリーズ第13回

%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%ae%e5%8d%97%e6%a5%b5%e5%9c%b0%e5%9f%9f%e8%a6%b3%e6%b8%ac%e4%ba%8b%e6%a5%ad%e3%82%92%e6%94%af%e3%81%88%e3%82%8b%e4%bc%81%e6%a5%ad%e3%82%b7%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%82%ba%e7%ac%ac13

ミサワホーム株式会社
~南極昭和基地の住を担う~

第60次南極地域観測隊員インタビュー 

越冬隊員 小山 悟

西オングル島での野外講習(2019年9月13日、気温は-24.3℃)

インタビューは2018年10月23日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西:南極に出発される直前のお忙しい中でインタビューの時間をとってくださりありがとうございます。南極での仕事や南極でやってみたいことなどいろいろと質問させていただきます。最初に、これまで会社でどの様な仕事をされてこられたのかお話しいただけますか。

小山:東北ミサワホームの秋田支店で新築住宅の現場管理を担当していました。契約されたお客様との打合せ、職人さんの手配、現場の進捗管理・確認と、着工からお引き渡しまでを担当していました。

福西:秋田支店の勤務は何年位になりますか。

小山:入社以来ずっと秋田支店です。今年で26年目になります。そのうちトータルで18、19年位が現場管理という仕事で、途中3回ほど異動があり、アフターサービスでの修理や定期点検訪問などの仕事をトータルで4年半担当しました。他にデザイン室でデザイナーの仕事を1年半位担当しました。これまでの経験はこの3種類の仕事になります。

南極観測隊員に応募した動機

福西:観測隊員を目指した動機を教えてください。

小山:実は希望を出し始めたのは、東日本大震災の直後くらいですから7年ほど前です。震災直後に応急仮設住宅の現場を手伝うことになり、岩手支店に行き、ホテル住まいで1か月半くらい現場管理の仕事を手伝いました。その時は他の支店や本社など全国から応援の社員が来て、現場管理の人も設計の人も職人さんもいました。そこでミサワホーム本社の方たちと知り合う機会が増えて、いろいろと話す機会がありました。こんな機会はこれまでになかったので凄く刺激になりました。以前からミサワホームが南極に携わっていることは知ってはいたのですが、凄く遠い世界の様なイメージがありました。ミサワホームグループ全国で隊員募集が何度かありましたが自分は全然向いてないだろうという意識がありました。でも東日本大震災の復興のためにいろいろな人が集まって仕事することが南極観測隊の仕事と通じる気がしたのです。それで自分はミサワホームの社員なのでチャレンジできるのならチャレンジしてみたいと思ったのが一番のきっかけです。その後、いろいろな方に、「実は南極に興味があって、行きたいと思っています」とアピールし始めました。

福西:南極に行きたいと思ったのは会社に入ってからとのことですが、自分の子供時代まで振り返って南極と何か繋がるようなことはありましたか。秋田は南極探検家の白瀬矗(しらせのぶ)の出身地ですが。

小山:そうですね、白瀬矗は秋田県にかほ市金浦の出身で、そこに記念館があります。とても興味があり、子供の頃見学に行ったことがあります。

福西:最近、白瀬矗はマスメディアでもよく取り上げられていて、記念館もよく登場しますね。

小山:3年ほど前ですが、しらせ記念館の関係者の方にミサワホームで家を建てていただいた方がいらっしゃって、その現場を管理した際に、「実は前から南極に行きたくて手上げているんです」と話しました。すると「あ!ミサワさんは南極の建物を造られていますね」と話されて、建築が完成して入居された後でミサワホーム社長宛てに、「秋田のミサワホームで南極に行きたがっている人がいます」と情報発信をして下さりました。

福西:白瀬矗の出身県で働いてこられたので、実際に南極観測隊員になったことを誇りに思っていらっしゃるんですね。自分の夢を実現された今の心境をお聞かせください。

小山:よく「夢が叶いましたね」と言われるのですが、夢というのとはちょっと違っていて、どちらかというと南極観測隊員になるという一つの目標をクリアした感じです。クリアしたからには次の目標は、無事に出発して、無事に南極で自分のやるべき仕事を果たし、その上でしっかり楽しんで、無事に帰ってくることです。一つ一つ次につなげて行こうと思っています。

2019年2月1日の越冬交代で(左が小山隊員、中央は59次越冬隊建築担当の佐藤啓之隊員、右は60次夏隊の馬場潤隊員)

南極での仕事

福西:いよいよ南極に出発する日が近づいて来ましたが、南極ではどういう仕事を担当されるかお話しください。

小山:基本観測棟は今年の59次南極観測隊が上棟して外側は完成したので、越冬中は内部で細かい部品付けなどして最後の仕上げの仕事をします。夏期間の大きな建設工事は風力発電の3号機の建設です。そのほか、既存の建物の改修工事として、屋根の防水を新しくする防水工事を自然エネルギー棟、重力計室、倉庫棟でやります。またコンクリートを打ってヘリポートを拡張します。

右は基本観測棟、左は気象棟(2019年7月3日)

基本観測棟のデッキで(2019年8月9日)

基本観測棟仮眠室の二段ベッドを製作

福西:基本観測棟は3年がかりで建設された2階建ての大きな建物ですが、いよいよ使い出すことになるのですか。

小山:そうですね。夏期間に設備工事や電気工事を行って、越冬中にまず気象関係の引越しをする予定です。

福西:今の越冬隊から、建物はどんな様子か連絡は来ていますか。

小山:設備工事や電気工事が進んでいます。部屋の内装や床などを頑張って仕上げている所です。最後に残ったところを私が越冬中にやることになります。

福西:今まで4つの建物に分かれていた観測が1つの建物でできることになるのでとても便利になりますね。暖房も共通になるので省エネルギーになりますね。昭和基地の観測設備としては画期的だと思います。実際に基本観測棟がメインで使われるようになるのは2020年の61次隊からということですか。

小山:はいそうです。61次隊から本格稼働させる予定で進んでいます。

南極でやってみたいこと

福西:南極に行って、これは見てみたいとか、これは経験したいというものはありますか。

小山:一番見てみたいのはやはり建物ですね。ミサワホームが供給した建物は写真で見たり、話を聞いたことはありますが、実際に建っている姿を見て、その中で生活している様子を見るのを楽しみにしています。そのほかは、南極大陸の内陸旅行や沿岸の調査旅行でお手伝いする機会もありますので、昭和基地だけではなく、南極の他の環境も見てみたいですね。

福西:ミサワホームはホームページで南極昭和基地の周りのウォークビューをやっていますね。

小山:はい。そうですね。

福西:日本では自分の趣味で山へ行くこともあるのですか。

小山:そんなに頻繁に行くわけではないですが、アウトドアが好きなので登山にも行きますし、スノーボードもずっと趣味でやっていました。

福西:趣味で南極に持って行く物はありますか。

小山:これまでやっていたわけではないのですが、何か楽器が弾きたいと思って持って行きます。南極で時間あれば練習できればという位です。ほかに、映画やドラマのソフトを持って行く準備しています。釣りもやる予定です。越冬隊の生活係の漁協係に入ったので。

福西:1年半の越冬生活をどうやって乗り切るか、心掛けていらっしゃることはありますか。

小山:南極での越冬生活は初めてなのでよく分からないですが、経験者から、不満に思ったことを自分の中に貯めてしまわずに外に出して、ぶつかる所はぶつかって、互いにやり取りするのが大事だと言われました。

福西:私は南極で3回越冬生活を経験しました。1年の閉鎖社会での生活は相当特殊ですが、経験したいと思っても普通はなかなか経験出来ないですね。南極越冬隊での経験が長い一生の中で生きてくることがたくさんあったと感じています。ですから越冬生活は大変ですが、逆にそれを楽しまれたらいいと思いますよ。

小山:貴重なアドバイスありがとうございます。

木製橇修理のために部品を加工(2019年8月14日)

昭和基地中心部の19広場にて(2019年8月5日)

南極を目指す人へのメッセージ

福西:いよいよ南極に出発することになりますが、最後に南極を目指す人たちへのメッセージをお願いします。

小山:今回、南極観測隊員に決まって、自分が南極に行きたいと言い続けたことがとても大事だと思っています。口に出すことによって自分の想いもハッキリしました。実際には私の仕事を誰かが当然カバーしなければいけないですし、そういう調整が社内でも出てきます。でも自分がやりたいことを言い続けると周りからの応援があり、いろいろな人を紹介してもらえました。南極に行きたいと思ったらどんどんアピールして、その実現を目指してもらいたいですね。

福西:本日はありがとうございました。南極での活躍をお祈りいたしております。

小山 悟(こやま さとる)プロフィール

1993年4月、秋田ミサワホーム株式会社(現 東北ミサワホーム株式会社)に入社。現場管理者として長く新築住宅の施工に従事。お客様相談室やデザイン室での勤務経験も有り、東日本大震災発生時には岩手県内の応急仮設住宅の建設にも携わる。

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。日本地球惑星科学連合フェロー。東京大学理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。

南極とミサワホーム

ミサワホームは、1968 年の「第 10 居住棟」以降、日本南極地域観測隊の活動や生活を支える建物を受注し、その実績は累計 36 棟、延床面積約 5,933 ㎡になる。建物に採用されている木質接着複合パネルは、徹底した品質管理体制の下、外装、断熱材、内装があらかじめ艤装され、南極昭和基地での夏場の限られた建設期間で、建築経験のない隊員でも短工期で施工でき、厳しい南極の気候に耐え続ける性能が特長である。2020年2月からは南極昭和基地で、JAXA、国立極地研究所、ミサワホーム及びミサワホーム総合研究所の連携による「南極移動基地ユニット」の実証実験の実施する予定。
建物の受注に加え、南極の観測活動に貢献すべく、専門技術を有する社員が極地研究所へ出向し、設営系隊員として協力している。 昭和基地のシンボル的建物となっている「管理棟」や「第 1・第 2居住棟」、大型建築物「自然エネルギー棟」や「基本観測棟」などは、ミサワホームグループから参加した隊員が中心となり、専門分野の異なる隊員同士が協力して建設した。
南極や観測隊の活動をより身近に感じてもらうことを目的としたインターネットコンテンツ「南極の歩き方」をミサワホームの Web サイト内に開設し、観測活動の内容をはじめ、南極の自然現象や未踏の地を切り開いた南極探検家など、南極に関する幅広い情報を紹介している。
また、全国の学校生活協同組合や教育関連団体と連携し、極地研究所の協力を得て、南極地域観測隊に参加した社員らが講師となり、小・中学校を中心に授業を実施する教育支援プログラム「南極クラス」を 2011 年から開催している。2018年度までに、延べ約1,500件、約16万人が参加しており、今年度も全国で実施中。

目次に戻る