シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業たち」第6回

いすゞ自動車株式会社~昭和基地の車両をメンテナンスする~

第59次南極地域観測隊員インタビュー

越冬隊員 関根 和昭

isuzu_1 昭和基地のいすゞエルフトラック(第59次越冬隊・関根隊員提供)

いすゞ自動車は、1956年の第1南極観測隊から今日まで、60余年にわたって南極・昭和基地に毎年隊員を派遣し、昭和基地で使われている様々な車両とディーゼルエンジンのメンテナンスを担ってきました。南極という厳しい自然環境の下で、1年に1回しか補給できない限られた修理部品を使って車両やエンジンをメンテナンスすることは想像以上に大変な仕事です。でもいすゞ自動車から派遣された隊員たちはその仕事を見事にやり遂げてきました。第59次南極観測隊には関根和昭さんが参加することになりました。そこで南極に向けて出発する直前に南極に懸ける思いをお聞きしました。

インタビューは平成29年10月19日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西 南極に出発される直前のお忙しい時期にインタビューのために時間を割いてくださりありがとうございます。会社では現在どのような仕事をされていますか。
関根 いすゞ自動車はトラックやバスなどの商用車を製造する会社ですが、それらの車両に搭載するディーゼルエンジンの開発部署にいます。主にエンジン単体での耐久試験、解析試験、騒音試験などをやってきました。
福西 今回南極に行くことになったきっかけは何ですか。
関根 いすゞ自動車は第1次隊から南極観測隊に社員を派遣していますので南極観測隊OBの方がたくさんいます。私が入社したすぐの頃ですが、一緒に仕事をした先輩がちょうど南極から帰って来られて1年くらいだったのです。その方から南極の話を聞き、南極に興味を持ちました。それから他のOBの方からも話を聞き、南極に行きたいと思うようになったんです。それで周りにも行きたいという話をしていたのですが、今回やっと行くことになりました。
福西 最初に南極の話を聞かれたのは何年くらい前ですか。
関根 ちょうど入社した時なので、14年前です。
福西 14年間もずっと行きたいと思っていたわけですね。念願が叶っておめでとうございます。ところで会社では南極観測隊員はどのようにして選ばれるのですか。
関根 まず国立極地研究所から会社に隊員候補者を出してほしいとの要請があります。それを受けて誰を候補者とするかが検討されるのですが、会社には南極観測隊OBがたくさんいますので、まずOBの方々が、その社員が南極観測隊員にふさわしい技量レベルにあるかどうかを判断し推薦します。最終的には関係部署内で判断し、会社として候補者を決めます。
福西 希望している社員はかなりいらっしゃるんですか。
関根 そうですね、直接聞いたことはないですが、一生に一度ぐらいしか行けない場所なので、とてもやりがいがある場所だと思っている社員は多いと思います。
福西 いよいよ出発が近づいてきましたが、今の心境はいかがですか。
関根 いすゞ自動車は第1次隊からずっと社員を派遣していますので、この伝統に自分も貢献したいと思っています。また楽しい越冬生活になるように心がけたいと思っています。
福西 ところで関根さんはどういう動機でいすゞ自動車に入ったのですか。
関根 小さいころから機械いじりが好きで、ラジコンやミニ四駆などをいじっていました。それで将来は車かバイクを扱う仕事がしたいと思い、高校卒業後、自動車整備の資格を取るために専門学校に入りました。その専門学校にたまたまいすゞ自動車から派遣された講師の方がおられて、「会社でディーゼルエンジンの開発する人を何人か募集しようとしているがどうか」と声をかけられました。エンジン開発も面白いと思って応募し、採用されました。

昭和基地での仕事

福西 昭和基地ではどんな仕事をされるのか教えてください。
関根 主な仕事は車両のメンテナンスです。昭和基地には、タイヤを装着した「装輪車」とキャタピラーを装着した「装軌車」があります。装輪車には夏期の昭和基地の物資輸送や建設に使われるトラック、ダンプ、フォークリフト、クレーン車など、いろいろな種類の車があります。装軌車には雪上車、ブルドーザー、クローラクレーン、バックホー、スノーモービルなどがあります。メンテナンスする車両は多数あり、装輪車が約25台、装軌車の中で雪上車が約15台、雪上車以外の装軌車が約15台と、全部で50台以上もあります。大原鉄工所の小島隊員が雪上車を担当し、私はそれ以外の車両を担当します。もちろんこれだけの数の車両を二人だけでメンテナンスすることはとても無理ですから、他の隊員にも手伝ってもらいます。
福西 装輪車にはいすゞ自動車製が多いのですか。
関根 そうです。エルフの2トンダンプが2台、3トンダンプが1台、エルフ350が3台、エルフ150が3台あります。
isuzu_2 昭和基地での作業風景(第59次越冬隊・関根隊員提供)
福西 車両の整備にはいろいろな部品が必要になりますが、どのように準備するのですか。
関根 そうですね、現在昭和基地に滞在している第58次隊の車両担当隊員から、「こういう部品が必要だ」というメールが来ていますので、それを見て何が必要かを判断し、また壊れやすい部分なども予想して部品を注文します。
福西 それは結構な量なんですか。
関根 スチコン4箱くらいになります。
福西 スチコンとは何ですか。
関根 スチコンは南極観測隊が使用しているスチール製のコンテナのことで、大きさは家庭用風呂の2倍くらいで、空のコンテナの重さが約110㎏、中身が入ると400㎏を超えます。
福西 7月からここ国立極地研究所の隊員室での仕事が始まったわけですが、現在は物資の調達はほぼ終わった段階ですか。
関根 はい、もう大井埠頭に部品は全て運びました。
福西 準備作業としては部品の調達以外にどんなことがありましたか。
関根 いろいろな訓練がありました。まず大原鉄工所に行き雪上車の整備訓練を受け、次に株式会社キムラでドイツ製雪上車ピステンブーリーの整備訓練を受けました。その後いすゞ自動車でトラックの整備とディーゼルエンジンの整備訓練を受け、さらに、加藤製作所でラフタークレーン車の整備訓練を受けました。
isuzu_3 クレーン車を使った基本観測棟の組み立て作業(第59次越冬隊・関根隊員提供)
福西 そうすると、昭和基地にある車両はほぼ全部日本で訓練を受けたことになりますか。
関根 いえ、全部ではありません。昭和基地にはコマツ製のフォークリフトがあるのですが、日程的に余裕がなく、この整備訓練は受けていません。ただ装軌車担当の小島隊員は会社でフォークリフトを運転しているので、昭和基地に行ってから二人で整備の勉強することにしています。

昭和基地での越冬生活

福西 南極観測隊経験者から越冬生活の話を聞いて、どういうところに魅力を感じていますか。
関根 一番はじめに先輩に聞いたのは、向こうでの生活がすごく楽しかったという話だったんです。限られた人数で1年以上も南極で過ごさないといけないから、隊全体が仲良くなったと言っていました。それで南極は楽しい所というイメージだったんですが、その後、他の南極観測隊OBから話を聞くと、みんな楽しいことしか言わないんだということのようです(笑)。あの時はああいう事もあったよねという話もありました。
福西 私も3回の南極越冬隊経験があるのですが、閉鎖社会なので時々対立が起こるのは当たり前です。お互いにやり方に違う所があるから、自分のやり方にこだわるとどうしても対立が起こります。でもそれは段々やっている中で最終的にうまくいくやり方になっていくんです。あまり心配しなくて大丈夫だと思います。越冬経験者は良いことしか言わないとおっしゃいましたが、結果的に良い思い出が残るのが越冬隊なんですね。だから帰国後も毎年会って、その付き合いが一生続くんです。特に南極観測隊で、いままで付き合ったことのない様々な業界の人と話し、友だちになれるのは本当に楽しいし、そうした仲間を持つことが自慢にもなります。ところで今回の観測隊は経験者が多いようですが、いかがですか。
関根 経験者が多いと、経験者同士で、俺の時はああだったという風に喧嘩を始めるから気をつけなさいと言われたこともあるんです(笑)。でも59次隊の経験者の人たちはそんなことは無く、自分がちょっと困っていた時に、「こういうのはどうすればいいのですかね」と聞くと、「こうした方がいいんじゃない、俺の時はこうしたよ」と話してくれる人たちばかりなのです。この隊はいい仲間が集まったと思っています。

趣味は写真

福西 越冬期間は長いので、何か趣味で持って行かれるものはありますか。
関根 もともとカメラを趣味でやっていたので、カメラとドローンを持っていきます。
福西 昔は飛行機でしか上空からの映像は撮れなかったのが、今はドローンでいろいろと面白い景色が撮れますね。すでに日本でもドローンを使って撮っているんですか。
関根 そうですね。練習がてら撮っています。
福西 例えばどういう景色を。
関根 前に住んでいた所ですが、埼玉と栃木の県境に渡良瀬遊水地があります。ここは障害物が何もなく飛ばせるので、その辺りの風景を撮っています。
福西 いすゞ自動車が新聞広告「南極編」で昭和基地に接岸した「しらせ」からトラックを下ろす風景を、2ページ見開きで載せて、数々の広告賞を受賞しましたが、あの写真は社会に大きなインパクトがあったと思いますが。
関根 南極のイメージがよく出たすごくカッコイイ写真だと思いました。私もインパクトのある写真を撮ってみたいと思っています。
福西 最後にお聞きしたいのですが、子供たちからよく「どうやったら南極に行けますか」という質問がありますが、何かヒントになることをお話しください。
関根 今はインターネット時代なので、南極観測隊員がブログやフェイスブックでいろいろな情報を発信しています。また南極観測隊に社員を派遣している企業はたくさんありますが、それらの企業はグーグルの検索ですぐにわかります。南極に興味があれば、まず自分でいろいろと調べていくといいと思います。また、国立極地研究所には南極・北極科学館があり、そこを見学すると南極・北極での観測・研究だけでなく、南極観測隊員の生活や生活を支える企業の活動もわかります。ぜひ見学してもらいたいですね。
福西 本日はお忙しい中でインタビューの時間を作ってくださりありがとうございました。南極での活躍をお祈りいたしております。

関根 和昭(せきね かずあき)プロフィール

1983年生まれ、出身地は埼玉県。2004年にいすゞ自動車株式会社に入社。第59次南極地域観測隊の越冬隊で設営機械・車両を担当。趣味は写真(風景、モータースポーツ等)、スポーツ観戦(モータースポーツ、ラグビー等)。

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)

プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。東京大学理学部卒、同理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。

いすゞ自動車株式会社(ISUZU)紹介

いすゞ自動車は、1956年の第一次観測隊から60周年を迎えた現在に至るまで、毎回欠かさず観測への協力を続けています。冬期にはマイナス60度にもなる過酷な気象条件の中、氷の山やクレバスを越えて最長で3週間も観測旅行を続ける雪上車や、隊員の暮らす基地の中で、動力源であるエンジンが止まることは決して許されません。これらのディーゼルエンジンを含む基地全体の機械設備保守のために社員の中から隊員を派遣し、観測隊の任務と安全を支えています。 また、比較的気温の高い昭和基地の周辺では、設営や荷物の運搬にいすゞのトラックも活躍しています。

南極といすゞ

創業1916年のいすゞ自動車は、現存する日本の自動車メーカーとしては最古の歴史を有しています。創業以来一貫して「妥協のないものづくり」にこだわり続け、現在はその伝統を継承しながら、「商用車とディーゼルエンジンのグローバル・リーディング・カンパニー」を目指して、積極果敢な挑戦を続けています。 物を運ぶ「商用車」と動かす「ディーゼルエンジン」。 これらは世界中の豊かな暮らしを支えるために欠くことのできない存在であり、いすゞの数々の商品は日本国内のみならず遠く海外にも活躍の場を広げ、現在は百数十カ国で販売されています。最先端の安全性、経済性、環境性能、そして上質なサービスといった世界共通のニーズに応えます。

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