シリーズ「極地からのメッセージ」 第11回

南極点無補給単独徒歩到達に成功!

~次は北極点無補給単独徒歩到達に3度目の挑戦だ~

北極冒険家 荻田 泰永

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南極点に到達(2018年1月6日)

 今年1月5日、私は南極大陸の海岸線から南極点までの、1126kmを50日かけての無補給単独徒歩到達に成功した。日本人初というわかりやすいタイトルもあり大きく報道されたが、南極に行く前からいまの自分にとって南極点無補給単独徒歩が成功することには何の疑いも持っていなかった。言ってしまっては申し訳ないが、正直なところ「楽勝」の二文字であった。
 私はこれまで18年間、カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を10000kmほど歩いてきた。特に2012年と14年の2度挑戦した北極点無補給単独徒歩は、私にとって最大の困難をもたらす挑戦だった。激しく動く足元の海氷は、一晩寝るとテントの周囲の景色を一変させるほどの流動性を持ち、自分の居所ですら常に定まらない。割れた海氷は泳いで渡り、高さ10mの壁のよな乱氷帯に出会えば100kg以上のソリを運び上げては乗り越える。いつやってくるかわからないホッキョクグマの襲撃に備えながらの就寝、最低気温氷点下56度の真っ暗闇のキャンプ、2ヶ月に及ぶ行程を完全に一人きりで行わなければならないのが、北極点無補給単独徒歩なのだ。

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撮影日:2017年12月11日

 今回の南極点への行程の中でも確かに危険な要素はある。ルート上には所々にクレバス帯があり、それらを西に東に少しずつ進路変更しながら避けていくのであるが、クレバスの位置情報はあらかた把握しているので大きな問題はない。常に吹いているカタバ風によって足元は固く締まっているので歩きやすく、その風も北極のブリザードのような激烈な風は吹かない。気温は夏の南極であるので氷点下23度ほどまでしか下がらず、太陽の位置が高いので暖かい。白夜で太陽も沈まないため、寝ている間もテント内はポカポカ陽気である。

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撮影日:2017年12月28日

 はじめから到達できることを分かっていながら、なぜ南極点に行ったかと尋ねられることもある。これまで北極だけに18年間通い続けていると、ひとつの遠征計画を立てたときにこれから起こることがあらかた予測できるようになり、いざ遠征が終わってみると事前の予測を超えることがなくなってきていた。冒険という観点から見れば、それは難しい課題も安全に終えることができるということだが、未知へのワクワク感は乏しくなってくる。2000年に初めての海外旅行で北磁極700km35日間の徒歩行に参加したときは、これから自分の目の前に現れる未知の世界への期待感に満ちていた。ワクワクしていたのだ。

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撮影日:2017年12月30日

 昨年40歳になり、あの頃のような未知の世界へのワクワク感を取り戻したくなってきたのかもしれない。初めての南極は、北極しか知らなかった私に新しい極地の姿を見せてくれた。それは、冒険の技術的な困難さに終始した話しだけではない、土地が持っている歴史や南極に関わる多くの人たちの想いでもある。
 今回の南極行を経て、再び北極へと私の思いは向いている。来春は素人の若者たちを連れてカナダ北極圏の海氷上を一ヶ月ほど歩く冒険旅を行いたいと思っている。
 また、私にとって最大目標でもあり、過去2度挑戦しながら途中撤退をしている北極点無補給単独徒歩到達の3度目の挑戦に向けて、海氷減少著しい現在の北極海でどうしたら無補給単独徒歩で北極点に行けるかを考えている。北極点無補給単独徒歩が成功した唯一の例は1994年のロシア側からのノルウェー人冒険家ボルゲ・オズランドのみだ。24年経っても、それ以来誰も成功例が出ていない。ボルゲが超人的な身体能力の持ち主であることもあるが、それ以上に94年と今との北極海の海氷状態の差による影響が大きい。94年当時のやり方をそのまま真似ても、今では北極点には無補給で行けない。94年にはドライスーツでリード(割れ目)を泳ぐという、いまではスタンダードな手法すらなかった。事実上、誰も行ったことのない場所に誰もやったことのない方法で行くのと等しいのだ。
 北極点無補給単独徒歩は世界には何人も挑戦した人はいる。しかし、大抵は一度やったら二度目はやらない。一度行けば分かる、北極海は人間が行く場所ではない。
 私は二度挑戦したが、それでもダメだった。しかし、二度やったからこそなぜ行けなかったかがようやくわかった。だからこそ、どうやったら行けるかが見えてきた。
 いま、世界で北極点無補給単独徒歩ができるのは、自分しかいないと思っている。やり方が見えているのも、自分しかいないと思っている。自信とは違う、自負がある。
 いまさら北極点?そんなところ何人も行っているでしょ?確かに行くだけなら何人も行っている。飛行機で直接行けてしまうし、観光地の一つでもある。時代遅れかもしれない。ただ、自分の中では過去2回の北極点挑戦を通して、北極海の難しさが身にしみている。それも、いま海氷が加速度的に薄くなる時代にあっての北極海だ。すでに多くの人が知っている北極海ではない。同じ場所でも、もはやそこは同じ場所ではないのだ。
 若者を連れての北極行、北極点無補給単独徒歩、そして次に南極で何ができるか?これからも休むことなく、極地での試行錯誤を繰り返していきたい。

北極冒険家 荻田泰永(おぎた やすなが)プロフィール

カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行を実施。2000年より2017年までの18年間に15回の北極行を経験し、北極圏各地を9000km以上移動してきた。今年1月、日本人初の南極点無補給単独徒歩到達。日本唯一の「北極冒険家」

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