南極の夏に子育てを行うアデリーペンギンは、JR東日本のSuicaのキャラクターにもなっている種類で、ペンギン界の代表選手といえるでしょう。
昭和基地をふくめ、南極大陸に広く生息しており、南極各地で数の変化が調べられています。
温暖化によってアデリーペンギンの数にはどのような変化が現れているでしょうか。
アメリカに向かって南極大陸からつき出した南極半島。ここは南極の中でも、もともと気温が高く、また特に温暖化が進んでいる地域です。1950年からの50年間で、年平均 気温が2.8度も上昇しています。 気温・水温の上昇によって、海に氷が張らなくなるなど、海の環境にも大きな変化が現れています。 この地域ではイギリス、アメリカ、アルゼンチンといった国の観測基地が中心となって、1970年代からアデリーペンギンの数が調査されています。 その結果を見ると、アデリーペンギンの個体数は1970年代に最大で、そこから2010年までに約40 〜20%近くまで個体数が減少しました。 これは、ペンギンのえさとなるオキアミが減少したからだと考えられています。
では、南極大陸の本体といってもよい、もっと緯度が高く寒冷な東南極域ではどうでしょうか。 日本の昭和基地は東南極域にあります。昭和基地では、海水などのえいきょうで年々の変動はあるものの、長期的な気温の変化は見られません。 昭和基地周辺のアデリーペンギンの個体数は、1970年代から2010年代にかけて、50 〜90%増加していました。 これは、東南極域にあるオーストラリアやフランスの基地での観測でも同じでした。この地域全体で増えたペンギンの個体数は、減少した個体数とほぼ同じであると考えられました。 つまり、南極全体で見ると、アデリーペンギンの個体数は、1970年代から今までに大きな変化はなかったということになります。 まだ温暖化が進んでいない東南極域では、ペンギンの子育てに適した環境が続いているのかもしれません。
しかし、その東南極域でも気になる変化のきざしが現れています。その一つは、2017年3月に、とつぜん南極海をおおう海氷の面積が観測し上最小を記録したことです。
これは、平年と比べると30%近くも下回る面積となっています。今後、もし海氷が長期的に減少していくと、東南極域のアデリーペンギンにもえいきょうが現れてくるかもしれません。
もう一つの変化のきざしは、東南極域のアデリーペンギンが、えさとしてクラゲをひんぱんに食べていることです。これは、最近の生態調査で、
ペンギンの背中に取り付けたビデオカメラの映像から明らかになりました。
クラゲは水分が多くて栄養が少なく、いっぱんにはペンギンのえさとして
適さないと考えられています。ペンギンはなぜ栄養価が低いクラゲを食べるのか、そもそも以
前からクラゲを食べていたのかどうか、まだよく分かっていません。
現在は、ペンギンが南極の他の地域でもクラゲを食べる行動が見られるのか、また、クラゲを食べることが子育てにえいきょうしないのか、などの調査が進められています。
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