新しい世界に出会う冒険

知識の先にある世界のとらえ方とは?

南極と北極はどちらが寒いでしょう?南極の方が寒いと本や教科書には書いてありますね。
私は長年にわたり、南極や北極へ(自分の力でソリを引きながら歩く)冒険ぼうけんを行っています。
その体験から、「どちらが寒いの?」と聞かれると「北極!」と答えます。
その理由はなぜでしょうか?

冒険するときの季節によって変わる?

北極点と南極点と1年間の平均気温を比べると、確かに南極の方が低く寒いです。 北極点は北極にあり、南極点は南極大陸にあり、それぞれ海と陸で環境が全く異なります。 北極を歩いて冒険するときは、寒さで凍結とうけつした海の上を歩きます。そのため足元の海の氷がしっかりと凍っている1年のうち最も寒い冬の終り頃(3月前後)に訪れます。 一方、南極大陸では地面の上に分厚くつもった氷(氷床)の上を歩き、季節による変化がほぼありません。そのため、南半球の夏に訪れます。 つまり、北極は一番寒い時期、南極は一番暖かい時期に訪れます。それぞれの「冬(北極)」と「夏(南極)」を比べると、北極の方が寒いのです。

一人で徒歩で南極点に到達!
(2018年1月6日)


「寒さ」と「暖かさ」とは?

私たち人間が感じる「寒さ」「暖かさ」というのは、実は気温だけで測れる単純なものではありません。 夏の太陽は地平線から高く昇るため、日射量が多く、夏の南極では太陽光をたくさん浴びてより暖かく感じます。

知識ちしきは大切。でも知識だけあればいいのだろうか?

知識というのはとても大切です。まず学び、なぜだろう?不思議ふしぎだな?そう感じることは、成長するための第一歩です。 ところが、知識「だけ」あれば全て分かるのかと言うと、これはあやまりです。物事にはたくさんの側面そくめんがあります。 側面とは、物を見る角度、視点してんです。富士山はどんな形?と聞かれて多くの人は裾野すそのが広い八の字型にえがくでしょう。 ところが、空から見下ろしたら富士山はそのようには見えません。円形かもしれません。八の字と円形とどちらも正しいのです。それが、物を見る角度、視点や側面です。 先ほどの、北極の方が寒いという例は、私の体験を通した、歩いて冒険をするとしたらどちらが寒いか?という物の見方です。

「正しさ」とは何だろう?新たな発見をするには?

「正しさ」とは、何でしょうか。ノーベル賞を受賞するような先生が語る理論は、全て「正しい」のでしょうか?おそらく正しいでしょう。 しかし、それは「その先生が見ている側面」の正しさかもしれません。その理論には、まだ世界のだれも知らない新しい側面があるかもしれません。 それに誰かが気付いたときに、新たな発見が生まれます!
では、新たな発見をするにはどうしたら良いでしょうか?「これが正しいんだ」と、えらい先生の書いた本をただ暗記するように信じているだけでは、新しい側面に気付くことはできません。 過去かこの人々を尊敬そんけいし、苦心くしん(物事をなしとげるために、色々とためしたり考えたり苦労すること)のすえにできあがった理論を勉強した後に、次は自分自身の頭で考え、新しい側面から物事をとらえ直し、疑問ぎもんを持ち、問いを立てることが大切なのです

私の冒険の中の成長

私の冒険では、研究や学問のために極地に足を運んでいるわけではありません。しかし私が20年にわたって行ってきた冒険は、勉強し、自分の頭で考え、新しい側面から世界をとらえ直し、疑問を持って問いを立て、 新しい発見をする、そのり返しでした。それを成長と呼びます。自分の意思いしで成長をする体験の中に、自分自身はいます。誰かに命令されて行くのではなく、 また、それをやったらお金がもうかるとか、有名になれるとか、それだけでなく、まず自分の成長を最高の喜びとして、そこで学んだことやた力を、 やがて誰かのために使っていくことがとても大切です。

凍った海氷が動いて盛り上がった乱氷。
氷の数m下は水深2000mの海だ

多様性たようせいとは何だろう?

多様性とは何でしょうか?様々な意見を持つ人を認めること、だけでは少し足りません。大切なのは、自分自身も多様な意見を持つ当事者であるという自覚じかくです。 富士山の形の例のように、思いも寄らない意見を排除はいじょせずに、また自分も他者とは違う意見を持つ一人なんだと知ることです。自分も他人も、それぞれが多様な側面を持つ存在であると知ることが大切です。

当たり前や常識をうたがってみよう

世界はまだまだ、誰も知らない物事の見方、発見にあふれています。それは世界的な大きな発見だけではありません。日々の生活の中にも、たくさんの発見があります。 当たり前や常識じょうしきばれていることを、ほんの少しだけ見る角度を変えてみれば、そこにはまだ世界の誰も知らなかった、 あなただけが知っている世界の入り口があるかもしれません。それを発見することが、冒険なのです。
たとえばこれまであまり話をしてこなかった友人に声をかけてみる、そんなことが、あなたが広い世界に旅立つ大冒険の、ほんのささいなきっかけかもしれません。

【荻田 泰永(おぎた やすなが)・極地冒険家】

覚えておこう
  • 冒険するなら、どちらが寒い?
  • 北極と南極どちらが寒い?という質問に答えるには「南極」だが、冒険するにはどちらが寒い?となれば答えは「北極」である。いつ、誰が、どこで、なぜ、どのように、そのような条件が加わることで、正しさというのは変化する。 新しい世界の側面を知ることが学びであり成長である。発見とは、世界を新しい側面で見ることであり、それを自分の意思で行うことが冒険だ。


考えてみよう・調べてみよう
  • 南極は冬だと冒険できないの?
  • 「北極は一番寒い時期、南極は一番暖かい時期に訪れる」とのことでしたが、南極は冬の寒い時期に冒険することはできないのでしょうか? 南極の冬がどういうものか調べてみましょう。
  • あなたが「当たり前」「常識」だと思うことは何ですか?
  • 「物は上から下に落ちる」は当たり前?では、上と下って何だろう?
    日本に住むあなたとブラジルの人、それぞれにとっての上と下は違う?
    そこにはたくさんの意見があるはず。これまで「当たり前」だと思っていたことの別の見方・側面があるか考えてみよう。
  • Google Earthを使って、冒険してみよう
  • 2014年に、必要な物資は全て一人で運びながら歩いて北極点をめざす冒険を行いました。このときの記録をGoogle Earthを使ってみることができます! Google Earthは、本をめくるような感覚でデジタルの地球儀にふれることができます。 地図だけではなく、写真もたくさんありますので、是非のぞいてみてください!


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