シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業たち」第12回

株式会社関電工
~南極昭和基地の電力の安定供給を担う~

第60次南極地域観測隊インタビュー 

越冬隊員 松嶋 望 夏隊員 曽宮優一

南極昭和基地前の海氷で(右は松嶋隊員、左は曽宮隊員、2018年12月25日)

インタビューは2018年10月29日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。

インタビュアー:福西 浩

福西:南極に出発される直前のお忙しい中でインタビューの時間をとってくださりありがとうございます。松嶋さんは昨年、第59次南極地域観測隊の夏隊員として南極昭和基地に行かれ、今年の3月に帰国されたばかりですが、今度は第60次南極地域観測隊の越冬隊員として昭和基地に1年間滞在されることになりました。曽宮さんは今回初めて夏隊員として南極に行かれることになりました。それではまず松嶋さんにお聞きします。南極から帰国されてどういう部署に戻られたのですか。

松嶋:現場には戻らず、出発前に属していた部署に戻りました。

福西:ということは帰国後すぐに越冬隊で南極に行くことが予定されていたのですか。

松嶋:そうですね、決まってはいませんでしたが、関電工からは内山が58次南極観測隊の夏隊に参加し、引き続き59次南極観測隊の越冬隊に参加した例があったので、自分もそれを覚悟していました。

福西:曽宮さんは今回初めて南極に行くことになりましたが、会社ではどんな仕事をされてきたのですか。

曽宮:建設中の建物の電気工事を担当していました。

福西:南極観測隊に応募した動機は何ですか。

曽宮:会社に入って4年位経った時でしたが、自分の会社の中に南極に行って仕事している人がいることを初めて知りました。その人が憧れ的な先輩だったので、自分も南極に行きたくなり、南極での仕事に興味がありますと会社に伝えました。

南極昭和基地での仕事

福西:それでは南極昭和基地での仕事についてお伺いします。昭和基地では3年かがりで基本観測棟という2階建ての大きな建物を建設中ですが、その電気工事を担当されるのですね。

松嶋:そうです。電気工事は昨年の59次隊で始まり、今回電気工事を全て完了するのが私たちの任務です。夏期間は関電工から派遣された私と曽宮と59次越冬隊の内山隊員の3人で工事を進めます。ただ内山隊員は59次隊の仕事がありますので主に私と曽宮の2人でやります。残った仕事は越冬中に私がやります。

基本観測棟で電気工事をする松嶋隊員(2019年2月9日)

福西:基本観測棟に観測装置を移す作業はいつ頃から始まるのですか。

松嶋:まず私たちの隊の気象部門が越冬中に少しずつ基本観測棟に観測装置を移動させますが、現在観測装置が設置されている気象棟と並行運転をして、データに相違がないか見比べ、問題がなければ本格的な引越しをする段取りになっています。他の部門の引越しは次の61次隊からになります。

福西:曽宮さんは今回初めての南極ですが、夏期間の共同作業ではどの辺が難しいと思っていますか。

曽宮:日本での電気工事と基本的に同じですが、実際作業する人間が私たち2人ですので、その辺が大変だと思っています。

基本観測棟で電気工事をする曽宮隊員(2019年2月9日)

福西:日本では電柱の高さは非常に高いですが、昭和基地ではどうでしょうか。

松嶋:昭和基地には電柱はなく、配電線は地中に埋設か地上5メートル位の所にあるケーブルラックを這わせます。

福西:配電線のブリザード対策はあるのですか。

松嶋:ブリザードでケーブルが劣化することがありますので、越冬中に点検して補強していきます。

福西:昭和基地の配電線の長さは全部で何メートル位ですか。データはありますか。

松嶋:昭和基地の建物は50年にわたって建設されており、古い建物の配線図は全く残されていません。それで何メートルあるかは調べようがありません。

福西:去年の59次隊では配電線を何メートル位張ったのですか。

松嶋:去年は一番長いもので250メートル位です。今回風力発電の3号機を設置するのですが、その風力発電機用の配電線を去年張りました。

風力発電3号機の建設(2019年1月4日、小山隊員提供)

福西:昭和基地の発電設備としては、メインのディーゼル発電の他に風力発電と太陽光発電がありますが、それらは別々の配電線を使っているのですか。

松嶋:自然エネルギーを利用する風力発電と太陽光発電は自然エネルギー棟の中に配電盤があり、そこまで持っていき、そこからディーゼル発電機の配電線と結合しています。

太陽光発電の結線作業をする曽宮隊員(2019年1月31日)

福西:昭和基地は非常に大きな観測基地で、いろいろな設備があり、配電線について勉強するのは大変だったと思いますが、曽宮さんはだいたい理解されましたか。

曽宮:いいえ。東京での建設現場での仕事は常にチェックしながら作業ができますので問題ありませんが、昭和基地は行ったことがなく、昔の図面もあまり揃っていないので、正直どうなっているのか不安なところもあります。

福西:電気の場合は漏電が一番心配ですが、安全対策はどうですか。

松嶋:不良な物を見つけてなくすということに尽きると思っています。ケーブルが長いのですべてをチェックすることは難しいですが、漏電しないように、例えば風の影響を受けてダメージが受けやすい場所を重点的に点検していきたいと思っています。

福西:昭和基地の夏期間は太陽が沈まない白夜ですが、問題なく眠れましたか。

松嶋:問題なく眠れました。でも白夜は不思議ですね。夜勤明けみたいな感じでした。

真冬に電気工事をする松嶋隊員(2019年8月1日)

南極で見てみたいこと

福西:南極に行って、夏の期間は物凄く忙しいのであまり余裕はないと思いますが、これだけは見てみたいというものはありますか。

曽宮:あまりそれは考えていなくて、自分の仕事をしっかり終わらせたいと思っています。仕事が終わった後は、「しらせ」の昭和基地からオーストラリアのシドニーまでの復路でオーロラを見ることができるらしいので、オーロラだけは見たいと思っています。

福西:昭和基地は南緯69度にあるので夏期間は太陽が沈まない白夜ですが、少し低緯度側に行くと夏期間でも夜があり、「しらせ」の復路でオーロラを見ることができますね。ぜひオーロラを楽しんでください。
松嶋さん昨年夏隊に参加されて南極を経験されたわけですが、どんな感じでしたか。

松嶋:「しらせ」が南極に近づくにつれて氷山が現れ、ペンギンたちが出迎えてくれ、いよいよ南極にやって来たのだとわくわくしました。でも昭和基地に降り立った時はすごく感動するのかなと思っていたのですが、実はそこまでの感動はありませんでした。多分、自分の仕事のことで頭が一杯だったのだと思います。

福西:今度は越冬隊員として1年間昭和基地に滞在されるので、どんなことをやってみたいですか。

松嶋:越冬隊にはいろいろな生活係があり、その中でイベント係長になりました。いろいろと工夫して越冬隊員全員が楽しめるイベントを企画したいと思っています。

福西:毎次隊いろいろと考えますね。いま越冬中の59隊はミッドウインター祭のディナーを野外でやり、食べ物がどんどん凍結していくので大変だったと聞きました。ところで越冬隊は隊員の母校と結んで南極教室をやっていますが、松嶋さんも計画していますか。

松嶋:はい計画しています。私の産まれは東京ですが、今住んでいる所が茨城県で、子どもが通う予定の小学校で南極教室をやる予定です。

福西:越冬隊の1年半は長いですからご家族のご理解が大事ですね。

松嶋:そうですね。本当に家族の理解があったから南極に行けるのだと思っています。

南極を目指す人たちへのメッセージ

福西:関電工が南極で活躍していることは電気の業界紙で紹介されて有名ですが、南極に行ってみたいという人たちへのメッセージをお願いします。

松嶋:自分の会社で責任をもって仕事をやっている人は南極での仕事も十分にこなすことができるので、南極に行きたいと思ったら遠慮なく声を大にして「私は行きたいです」と言ってほしいですね。南極はそのくらい魅力的な場所です。

福西:曽宮さんはどうですか、いよいよ南極に出発することになりましたが、これから後に続く人たちへのメッセージをお願いします。

曽宮:正直まだ南極に行っていないので本当のメッセージは帰って来てからしか伝えられませんが、南極に挑戦してもらいたいと思っています。

福西:本日はたくさんのお話をお聞かせくださりありがとうございました。南極での活躍をお祈りいたしております。

松嶋 望(まつしま のぞむ)プロフィール

1986年生まれ、東京都出身。2005年に株式会社関電工に入社、東京都内にて建築現場における電気設備工事に従事。第60次南極地域観測隊の越冬隊で設営機械・電気設備を担当

曽宮 優一(そみや ゆういち)プロフィール

1987年生まれ、東京都出身。2005年に株式会社関電工に入社、東京都内にて建築現場における電気設備工事に従事。第60次南極地域観測隊の夏隊で設営機械・電気設備を担当

インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)プロフィール

公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。日本地球惑星科学連合フェロー。東京大学理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。

南極と関電工

株式会社関電工は昭和19年に関東電気工事株式会社として設立され、現在では、建築設備をはじめ情報通信設備、電力設備の分野において、独自の技術とノウハウ、工法を駆使し、電気工事、情報通信工事などの企画から設計、施工、メンテナンス、その後のリニューアルまで、一貫したエンジニアリング事業を展開している。さらに、これまで培ってきた太陽光発電や風力発電の施工ノウハウを活用し、再生可能エネルギーによる発電事業にも積極的に取り組んでいる。
南極地域観測隊には、昭和61年の第28次隊から、延べ30回以上社員を派遣している。極寒の南極昭和基地では、「電気」が、観測機器のみならず上下水道や暖房も支えており、電気の供給が断たれることは、観測だけではなく、隊員の生命をも危険に晒すことにつながる。関電工から派遣された社員は、昭和基地の電力の安定供給のために電力設備の構築と保守を担っている。

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