日本の南極地域観測事業を支える企業シリーズ第14回
- 2020.01.11
- 第20回 メルマガ
- シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業たち」, 企業, 南極
ヤンマー株式会社~ディーゼル発電機で昭和基地の電力と暖房を担う~
第60次南極地域観測隊インタビュー
越冬隊員 菊田勝也
南極・昭和基地でディーゼル発電機を点検する菊田隊員(2019年10月)
インタビューは2018年10月23日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。
インタビュアー:福西 浩
福西:南極に出発される直前のお忙しい中でインタビューの時間をとってくださりありがとうございます。南極での仕事や南極でやってみたいことなどいろいろと質問させていただきます。最初に、これまで会社でどの様な仕事をされてこられたのかお話しいただけますか。
菊田:今は組立グループの艤装係に所属しています。ここでは組み上がってきたエンジンと発電機を共通台に載せて、発電機の軸とエンジンの軸を規定値内に納める芯出し作業を行っています。その他は運転課に1年、開発部試験課に1年など、尼崎工場の中でいろいろな経験をしました。
福西:入社して何年位になりますか。
菊田:入社してからもう12年になりますね。
福西:南極観測隊員を目指したのはなぜですか。
菊田:会社には南極に行かれた先輩がたくさんおられるのですが、現場に復帰されて一緒に仕事をする機会があり、南極の話を聞いて、南極が段々と憧れになったのです。
福西:南極に行かれた先輩方からはどんな話を聞かれたのですか。
菊田:担当するディーゼルエンジン発電機のことはもちろんですが、それだけではなく、南極でのいろいろな経験を聞きました。ペンギンを数える調査を手伝ったとか。いろいろな経験ができることが魅力でした。
昭和基地での仕事
福西:それでは昭和基地でどんな仕事をされるのか紹介していただけますか。
菊田:昭和基地には発電容量が240kWのディーゼル発電機が2台あります。通常は1台の発電機で常時電力を作り、各建物に電力を供給しています。この2台を定期的にオーバーホールするのですが、今回は夏期間に1号機のオーバーホールをやります。
福西:オーバーホールというのは、具体的にどんな作業をするのですか。
菊田:通常の点検ではなく、いろいろな部品の交換をやります。そのためにあちこち分解して、部品を交換して、再度組立てます。
南極・昭和基地のディーゼル発電機(2019年2月)
59次隊員と交代。手前右が菊田隊員(2019年2月1日)
福西:その仕事はどういう所に気を付けなければならないのですか。
菊田:現在昭和基地で稼働しているディーゼル発電機は製造されてから20数年経っていますので、日本で同じ機種で訓練をすることができません。でも基本構造は変わらないのでそこはなんとかなると思っています。その他は、慣れていない場所での作業であることと、普段仕事する時は気の知れた仲間とやるので安心してやることができるのですが、南極でのオーバーホールはしらせ乗組員に手伝ってもらいますので、慎重にやりたいと思っています。
福西:南緯60度以南の南極地域を対象とした「環境保護に関する南極条約議定書」が1998年に発効し、廃棄物の処理などに厳しい環境保護の義務が規定されていますが、環境保護は意識されますか。
菊田:はい、和泉隊員が環境保全担当で、いろいろと教えてもらっています。
福西:オーバーホール作業で出た廃棄物はどうされるのですか。
菊田:全部日本に持ち帰ります。
福西:越冬中はどんな仕事をされるのですか。
菊田:昭和基地のディーゼル発電機はエンジンの排熱を利用するコージェネレーションシステムで、エンジンの冷却水から熱交換器を介して熱を取り出し、基地の主要部の温水暖房に使用しています。エンジンが止まると電力だけでなく、暖房も止まってしまいますので、定期的な点検をきちんとこなしてディーゼル発電機を正常に維持するのが主な仕事です。エンジンの排熱を利用する設備は倉島隊員の担当なのですが、ヒートポンプなどは調子が悪くなることもありますので、その修理の手伝いもします。
南極への準備
福西:東京都立川市にある国立極地研究所南極観測センターで現在は勤務されていますが、いつごろからですか。
菊田:7月からです。
福西:どんな仕事が忙しかったですか。
菊田:越冬中に必要な1年分の物品調達が大変でした。これまであまりしてこなかった事務仕事が主なので。
福西:自分の仕事以外に、機械部門としての仕事もあると思いますが、その訓練は受けましたか。
菊田:訓練はあまりありませんでしたが、小型移動式クレーンの訓練は受けました。
福西:会社での仕事とは違って南極観測隊の準備の仕事はいろいろな人との共同作業が多いと思いますが、この経験はどうでしたか。
菊田:それぞれの隊員が会社の代表として来られているので学ぶことが多かったです。いろいろな話をしてとても楽しい経験でした。
南極での生活
福西:南極で仕事以外に経験してみたいもの、あるいは見てみたいものは何ですか。
菊田:特別にこれが見たいというのはないのですが、毎日が新しいという感じだと思うのでそれを楽しみにしています。
福西:南極の自然で一番興味があるのは何ですか。
菊田:オーロラですね。氷山なども写真で見るよりずっと迫力があると思いますので楽しみです。
福西:趣味で南極に持って行くものはありますか。
菊田:ギターをやるのでギターを持って行こうと思います。
福西:越冬隊員なので家族には1年4か月も会えませんが、ご家族のご理解はありますか。
菊田:家族の理解は十分得ています。会社の南極観測隊を経験した先輩からも越冬生活の話をたくさん聞いていますので、安心して南極を楽しみたいと思っています。
昭和基地の南方8kmにある小島オングルガルテンでの観測支援。背景は南極大陸ラングホブデの長頭山(2019年10月)。
オングルガルテンで(2019年10月)
南極を目指す人たちへのメッセージ
福西:最後に南極に行ってみたいと思っている人たちへのメッセージをお願いします。
菊田:ヤンマーもそうですが、南極観測隊員を出している会社はたくさんありますので、いろいろなチャンスを生かして南極を目指してもらいたいと思います。南極に行くことはとてもワクワクすることですから。
福西:本日はいろいろなお話をお聞かせくださりありがとうございました。南極での活躍をお祈りいたしております。
菊田 勝也(きくた かつや)プロフィール1976年生まれ、兵庫県出身。2008年 ヤンマー株式会社特機エンジン事業本部尼崎工場に入社、組立グループ艤装係艤装反に配属。2014年 ヤンマー株式会社特機エンジン事業本部尼崎工場運転グループ運転係。2016年 ヤンマー株式会社特機エンジン事業本部開発部第一試験部。尼崎工場で様々な業務を経験。第60次南極地域観測隊の越冬隊で設営機械・発電機エンジンを担当。 |
インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)プロフィール公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。日本地球惑星科学連合フェロー。東京大学理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。 |
ヤンマー株式会社紹介
1984年、昭和基地にヤンマー製発電機が導入されて以来、毎年社員を南極地域観測隊の越冬隊に派遣し、昭和基地のコージェネレーションシステムであるディーゼル発電機で昭和基地の電力と暖房を担ってきました。
ヤンマー㈱は、1912(明治45)山岡発動機工作所として創業されました。創業100年を迎えた2012年には、ヤンマーグループの社会的存在意義と使命を表したミッションステートメントを策定し、以降も「食料生産」と「エネルギー変換」の分野でさまざまな課題解決に貢献し続けています。そして2016年、未来につながる持続可能な資源循環型社会の実現に向けて、“A SUSTAINABLE FUTURE -テクノロジーで、新しい豊かさへ。-”を新たなブランドステートメントとして掲げ、各地域の特性やニーズにマッチした最適地生産・最適地調達を行い、世界中のお客様にベストなソリューションを提供しています。