昭和基地での建設作業風景:2018年12月~2019年12月

小山 悟(株式会社ミサワホーム総合研究所 南極研究プロジェクト、第60次南極地域観測隊越冬隊 建築・土木担当)

南極観測隊の活動拠点となる昭和基地は、60年以上にわたる大切な観測の継続のために、様々な設営作業によって整備が進められてきました。観測のための建物やアンテナ設備等の建設は勿論ですが、生活基盤として必要な発電機・給水装置・汚水処理施設・焼却炉等の整備、それらが収まる建物や居住施設も建設・改修が進められ、現在基地には66棟の建物と多くの観測・運営設備が設置されています。

本題に入る前に、昭和基地での作業条件について二つ触れておきます。

一つは、昭和基地への物資・人員の輸送は、主に年1回の砕氷艦しらせでの輸送に限られているので、必要な資材や工具は出発前に漏れることなく、確実に準備する必要が有ります。不足のために作業できないという事になると、作業再開は1年後になってしまうからです。

もう一つは、大きな建設作業は、南極の夏である12月から1月にかけて行われますが、建築の専門家の隊員は越冬隊1名、夏隊2~3名しかおらず、限られた期間に確実に作業を終える必要があるので、建設作業経験の無い観測隊員やしらせ乗組員にも、作業員として手伝ってもらいます。

これらの事は南極観測隊ならではの制約で、日本の建設現場との大きな違いと言えるでしょう。

このような厳しい条件の下で行われた建設作業について、私が携わった工事から抜粋してご紹介します。

風力発電装置3号機建設工事

60次夏作業の中で最も大きな建設工事が、風力発電装置3号機建設工事でした。59次夏作業で基礎工事が完了しており、昭和基地入りした翌日から早速、足場工事に着手しました。

足場工事(2018年12月26日)
下段フレームに制御室を設置する(2018年12月27日)
中段フレーム設置(2019年1月4日)

建設場所の高低差が大きく、1段目の設置に苦労して下段フレーム・制御室の設置まで終えたところで天候が悪化、強風と吹雪という南極の洗礼を受けて、数日の作業中断を余儀なくされました。天候が回復して上段フレームの設置まで進めたところで、想定外の出来事が起こりました。1本の中段フレーム(柱)と上段フレームのボルト穴が、どうしてもずれてしまい接合できません。昭和基地の建物は、日本で必ず仮組を行い部品の確認と問題の検証が行われるので、もちろん、風力発電装置も問題ないことを確認済みで南極に持ち込まれています。まさかと思いながら調べてみると、中段フレーム(柱)にねじれが生じていました。詳しい原因は不明ですが、北半球の日本から赤道を越えて南極まで輸送された際の温度差が、鋼材に何らかの影響を与えたのかもしれません。交換品は有りませんので、強度に問題が無いことを確認して丸2日かけてボルト穴を加工、全てのフレーム建て込みを完了し上棟式を実施することが出来ました。引き続きブレードの取付けや細かな調整を経て、無事に発電を開始しました。

上棟式(2019年1月14日)
足場解体を手伝うしらせ乗組員(2019年1月17日)
右から1号機、2号機、3号機(2019年2月11日)

小型ヘリコプター用ヘリパッド新設工事

風力発電装置の目途がついたところで、いくつかの現場に分かれて作業を進めていきます。

観測隊でチャーターする小型ヘリコプター用のヘリパッドを新設する工事では、生コンクリートを多く使用します。昭和基地にもコンクリートプラントが有りますが、セメントや骨材(砂利)・水を投入するのは全て手作業で、人手も体力も必要な力仕事です。

配筋・型枠(2019年1月17日)
セメントや骨材(砂利)投入の力仕事も全て手作業(2019年1月21日)
コンクリートプラント運用の様子(2019年1月22日)

さらに南極の低温下でも強度を保てるように、早く固まる特殊なセメントを使用しているので、コンクリートを打設して均すのも時間との戦いです。未経験の隊員は初めは戸惑いますが、作業を続けていると本職の職人のように手馴れていき、作業後半の仕上がりは本職顔負けです。

生コン打設(2019年1月22日)
完成(2019年1月26日)

重力計室と自然エネルギー棟の屋根防水工事

そのほか、既存建物の補修工事では、重力計室と自然エネルギー棟の屋根防水工事を施工しました。

特に自然エネルギー棟は大きい建物なので、工事を進めるにあたり、多くの隊員に作業を手伝っていただきました。高所作業をものともしない女性隊員も多く作業に参加してくださり、これほど多くの女性が現場で作業している様子は、日本ではあまり見ることが出来ない光景です。

防水工事が完了したのは夏期間の終盤です。足場の解体には、夏の観測を終えた隊員が集合してあっという間に作業を終える事が出来ました。

防水下地の合板張り作業(写っているのは全て女性隊員)(2019年1月22日)
塩ビシート防水(2019年1月30日)
完成(2019年2月6日)

倉庫棟の屋根防水工事

天候の影響や日程の関係で、計画していた夏作業のうち倉庫棟屋根防水工事が施工できないまま、60次夏隊が帰国することになりました。しかし、61次夏作業は海洋観測のために昭和基地での作業日数が通常より短く、工事を追加するのは難しいため、倉庫棟は60次越冬中に越冬隊員だけで防水工事を施工することになりました。

昭和基地で2度目の夏がやって来て、ちょうど白夜が始まった2019年11月22日に作業を開始しました。冬の間に積もった雪は建物の暖気で溶けたあとにガチガチに凍っているため、重機で出来る限りの除雪を行ってから、建物を傷めないように手作業で氷を砕いていきます。そうしてようやく足場工事に着手しました。

工事着手前で建物周囲は凍っている(2019年11月21日)
重機が使えない建物に近い所の凍結は手作業でハツリ(2019年11月23日)

足場設置完了(2019年11月27日)

倉庫棟は以前隣にあった建物(58次隊で解体)によるスノードリフトで、越冬中に何度も屋根の雪降ろしが必要で、そのためかだいぶ傷んでいるところも有りました。既存のカバーなどを全て取り外すところから作業を始め、傷みの酷い所は防水を行う前に補修します。

傷んだ既存カバーを取り外す越冬隊員(2019年11月28日)
過去の除雪や雪降ろしで傷みの激しい箇所(2019年11月28日)
防水を施工する前に補修を施す(2019年12月2日)

下地の処理を行った後、ウレタンを吹き付ける工法で防水塗膜を作り、最後に紫外線から塗膜を保護するフッ素保護仕上げ材を塗布して、工事は完了しました。

ウレタン吹付(2019年12月7日)
フッ素塗布(2019年12月9日)
完成(2019年12月10日)

昭和基地は建設からかなりの年数が経っている建物も多く、60次越冬中に気象部門が引っ越して本格的に運用を開始した基本観測棟は、更新時期を迎える建物のうち4棟を統合する最新の建物です。

引っ越しの済んだ気象棟が61次夏作業で解体されたように、ほかの建物も順次解体されて昭和基地は少しずつ生まれ変わっていきます。

これからも基地の建設作業は、南極観測の継続と隊員の生活を支える欠かせない仕事なのだと思います。

小山 悟(こやま さとる)プロフィール

993年4月、秋田ミサワホーム株式会社(現 東北ミサワホーム株式会社)に入社。現場管理者として長く新築住宅の施工に従事。お客様相談室やデザイン室での勤務経験も有り、東日本大震災発生時には岩手県内の応急仮設住宅の建設にも携わる。第60次南極地域観測隊越冬隊に参加し、建築・土木担当を担当する。現在は、ミサワホーム総合研究所の南極研究プロジェクトに所属している。

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