シリーズ「極地からのメッセージ」 第12回

北極点への氷上基地「ボルネオ・アイスキャンプ」

冒険家 NIKI Hills総支配人 舟津圭三

北極の海氷に浮かぶ基地「ボルネオアイスキャンプ」=2018年4月、ビクトル・ボヤルスキーさん撮影

南極大陸を犬ぞりで横断したのは1989~90年。氷の大陸で、世界5カ国の冒険家たちと220日間を過ごしました。あれから30年近くたとうとしていますが、当時の仲間との絆は今も続いています。
その一人、ロシア人探検家、ビクター・ボヤルスキーがチーフオペレーターを務めている北極のアイスキャンプを、2011年4月に訪れました。
日本人ツアー客2人をガイドし、北緯89度地点を出発して、6日間かけて4月18日に北極点に到達しました。
厳しい所ですが、白とブルーだけのシンプルな世界は、感動的な美しさでした。

世界各国から北極点を目指す人々が集う、その場所は北極海に浮かぶ氷の上にあるキャンプ「Barneo」。
常に潮流や風の影響で常に動いている、北極点への最前基地です。スペルがインドネシアの「Borneo」と間違いやすいですが、厳寒の北極海において、熱帯のボルネオ島と一文字だけ変えた皮肉なネーミングなのでしょう。
このボルネオアイスキャンプは2002年にオープンし、ビクター・ボヤルスキーは当初から運営に携わっています。

ユニークなのは、陸地ではない海氷の上に、ジェット旅客機が着陸できる滑走路があることです。
そのおかげで、かつての探検家たちが命を賭けて目指した北極点に、一般ツーリストでも立てることが可能になったのです。ジェット機が着陸できるだけのしっかりとした厚い氷でも、夏になると気温が上がり、滑走路はとけてなくなってしまうので、使えるのは4月の3週間だけに限られます。

一体どうやって北極海の氷上に滑走路を作るのでしょう。3月中旬、2機の大型ロシアヘリコプターが、補給用の燃料を積んで、北極点の方向に飛び立ちます。滑走路になりそうな、安定した厚さ約1.5m、2キロ四方ほどの1年氷を探します。広大な氷原上で、場所が決まれば、大型ジェット輸送機イリューシン76機が、滑走路を作るトラクターや、300バレルものヘリコプター用の燃料を上空から投下します。そこへヘリコプターが来て人員を運び、トラクターで氷の上を整地し、滑走路を作ります。

まれに、営業中、滑走路にひびが入って、割れてしまうトラブルも過去にはありました。一歩間違えれば、全てが海の中に放り出されるわけで、緊急時は大慌てで何もかもを移動しないといけません。そうした事態を避けるためにも、しっかりとした氷を探すのは、とても重要な作業です。

4月の3週間だけのオペレーションで、180人から250人のツーリストが利用します。主にヨーロッパ諸国から続いてアメリカ、カナダ、中国からもやって来ます。ジェット旅客機の出発空港は、スピッツベルゲンのロングイヤーヴィエンです。

北極点を目指し、スキーで踏破を挑戦する人、犬ぞりで到達しようとする人、ヘリコプターで到達する人、パラシュートで降下しようとする人、スキューバーダイブを北極点でやろうとする人、結婚式を極点でやろうとする人もいます。
Once in a life time、一生で一度きり、一世一代の体験を求めて、4月の北極点はポーラーベアもびっくりする賑やかさです。

舟津圭三(ふなつ けいぞう)プロフィール

1989~90年、220日間かけて南極大陸を横断した「国際犬ぞり南極大陸横断隊」のメンバー。その後、米国の永住権を取得し1994年にアラスカ州フェアバンクス郊外へ移住。犬ぞりレースに参加したり、極地旅行のガイドなどを務めてきた。現在は北海道仁木町のワイナリー「NIKI Hills」の総支配人を務めながら、野外自然学校の創設を目指している。

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