「地球環境変動を学ぶ南極・北極教室」の講師を担当して
石沢賢二(前国立極地研究所技術職員)
南鶴牧小学校
当財団の小・中学校向け「地球環境変動を学ぶ南極・北極教室」の一環として、2019年9月20日、多摩市立南鶴牧小学校で約45分間の講演を行いました。この小学校は、小田急多摩線の終着「唐木田駅」から歩いて10分ほどの所にあります。周囲には公園や緑地帯が多く、学校に着いて驚いたのは、校庭がすべて緑の芝生に覆われていることでした。關口(せきぐち)校長先生の話では、これがこの小学校の自慢の一つで、グランドでのケガが少なくなり、生徒は安心して運動を楽しんでいるとのことでした。また、校長先生は環境教育に熱心で、大学での卒論も環境関連のテーマを選ばれたそうです。大きな教室に集まってくれたのは、6学年の100名ほどで、事前の授業ではエネルギー関連のことを勉強していたそうです。私の話は、それに合わせて、「南極・北極の環境とエネルギー」という題名にしました。
多摩市立南鶴牧小学校のホームページから
講演内容
講演では以下の5つ問題を取り上げました。
1.極地の今・・・領土、温暖化
2.南極への輸送
3.南極のエネルギー
4.南極大陸の探検
5.観測隊の生活と安全
地球温暖化の影響で北極海の海氷が減少し、かつてヨーロッパの国々が多くの犠牲を払って探検した北極海航路が通行可能になり、ロシア沿岸の天然ガスなどの開発が進んでいることを話し、ロシアの原子力砕氷船がこの航路で使われ、大型輸送船の支援をしていることを説明しました。また、グリーンランドの氷床が融解していることに関連し、米国とソ連の冷戦時代に米国がグリーンランドに設けた氷の基地が海に向かって流動し、廃棄物の海域への流出が懸念されていることなども紹介しました。
南極に関しては、南極半島の温暖化を取り上げ、南極の氷が融解した時の多摩地区付近の海面上昇の地図(洪水マップ)を示しました。また、英国・ハリー基地が周囲の棚氷に新たなクラックが発生したため、越冬を断念したことなど、気候変動がいろんなことに影響していることを強調しました。生徒は目を輝かせて熱心に聞いてくれました。
エネルギー関連では、「しらせ」で毎年輸送する物資の60%が燃料で、食糧は越冬隊員一人当たり約1トンに達すること、人間が使用できるエネルギーは、今は鉱物資源に頼っているが、最終的には気象資源しかなく、太陽光や風力エネルギーの開発を今のうちから熱心に研究する必要があると話しました。
南極探検史としては、アムンセンとスコットの南極点初到達の勝敗を決めた要因を説明し、探検家の素質、装備、輸送が如何に大事であるかを述べ、最後に観測隊の生活と安全について説明しました。南極は、火山、地震、政治的テロなどの突発的な事象が少なく、本来は安全な場所であり、ほとんどの事故は人為的なミスに由来することを、私の苦い失敗談を紹介しながら説明しました。
アンケート結果
講演後にアンケート調査をしていただきました。全体的に大変興味を示していただき好評でした。ただ、「南極や北極に行ってみたいと思いましたか?」という質問では、他の質問と大きく傾向が変わり、「すごく」が32%と全体の3分の1で、「すごく」と「かなり」を合わせても45%と半分以下でした。逆に、「あまり」と「少し」を合わせると18%あり、厳しい環境の南極・北極に挑戦したくない人がかなりいることがわかり、とても意外な結果でした。
石沢 賢二(いしざわ けんじ)プロフィール前国立極地研究所極地工学研究グループ技術職員。同研究所事業部観測協力室で長年にわたり輸送、建築、発電、環境保全などの南極設営業務に携わる。秋田大学大学院鉱山学研究科修了。第19次隊から第53次隊まで、越冬隊に5回、夏隊に2回参加、第53次隊越冬隊長を務める。米国マクマード基地・南極点基地、オーストラリアのケーシー基地・マッコ-リー基地等で調査活動を行う。 |