グリーンランド極北域およびカナダ極北域における、観測拠点設営の提唱

ーシリーズ「極地からのメッセージ」第1回ー

犬ぞり北極探検家 山崎 哲秀

一笑せずに耳を傾けて頂きたい。「グリーンランド極北域およびカナダ極北域に、我が国における観測拠点を設営したい」

この目標が確固たるものになったのは、第46次南極地域観測隊に越冬隊員として参加させて頂いてからだった。日本の南極観測が、世界でもトップクラスの調査 として大体的に実施されているのをこの目でみて、その歴史と規模の大きさに素直に驚愕させられた。ところが一方、私が25年以上にわたって通い続けている 北極では、残念ながら日本の観測は、世界からも遅れをとっていることを感じてならなかった。極地の自然科学においては、両極の観測が同等に実施されてこ そ、大きな意味合いがあるのではないのか・・。

私は、今から30年ほど前の高校時代に、冒険家の植村直己氏の遭難のニュースを見たのをきっ かけに氏の著書を読んだ。極地への興味を抱き、20歳を過ぎて間もなく、北極通いを始めた。その頃はまだ植村直己氏の影響から、冒険的な志向で、グリーン ランド内陸徒歩縦断を目指していたのだが、やがて日本の極地研究者の方たちとの出会いがあり、急速に極地観測の世界へと興味を抱くようになった。そして 30歳を機に、グリーンランド北西部に住むエスキモー民族から、活動手段である犬ぞり技術を学び、犬ぞりで広い範囲を移動しながら観測調査をする志向へと 傾倒していった。実際に若き研究者の友人と共に、1998年、2000年とグリーンランド内陸氷床で、犬ぞりを使った観測を実施したり、またそれとは別 に、北極域での氷河掘削にも何度も参加させてもらった。それらの経験を踏まえたことから、南極観測隊には「フィールドアシスタント」として参加させて頂い たのだった。

この目で見た日本の南極観測隊から、自分が南極以上に今も憧れ続けている北極に、我が国主導の観測拠点を設営できないか、日に日にそんな想いが強くなっていった。現在日本の北極観測においては、スバールバル諸島ニーオルスン拠点の運営くらいだが、グリーンランド極北域北西部と、 カナダ極北域北西部にあるメルビル島へ、それぞれ観測拠点を設営できないものか?

またもう一つ、近年急速に過疎化し、いずれ廃村となる運命を辿りつつある、グリーンランド最北の先住民族の村、シオラパルク村(北緯78度付近)を、ニーオルスンのような観測村にはできないだろうか、というアイデアもある。この村は電気、通信などの生活設備が全て整っていて、夏季には物資輸送船も運航しており、観測村としての条件は揃っている。廃村の回避も含めて、広い意味で、グリーンランドへの多大な貢献にもなるはずだ。

当然ながら実現させるには、まずは研究者の方々の意志と意欲が必要であり、 観測拠点設営には時間と予算、そしてそれらの国々との協力関係が必要となるが、十分に可能性があることをお伝えしたい。設営費用は、科学研究費だけに頼らず、民間企業・団体等からの予算獲得を基本路線と考えている。日本の極地観測を次の世代に繋げる意味でも、今後研究者のみなさんと議論を重ね、極北域への 観測拠点設営実現に向け、公、民がタッグを組んで進めていきたい。

犬たちと

海氷の厚さを測定

乱氷帯でルートを探す

山崎 哲秀(やまさき てつひで)

プロフィール

犬ぞり極地探検家。1967年兵庫県生まれ、洛南高校卒。1989 年から北極圏(主にグリーンランド)遠征を繰り返し、グリーンランド北西部地域のエスキモー民族より、犬ぞり技術の伝承を受ける。現在は「犬ぞりによるアバンナット北極圏環境調査プロジェクト2006-2015 年」10 年計画に取り組んでいる。第46 次南極観測隊に越冬隊員として参加し、野外調査主任として活躍する。

「山崎哲秀-北極圏をテツが行く」ホームページ http://www.eonet.ne.jp/~avangnaq/

目次に戻る