アラスカから届ける、太陽活動停滞期のオーロラ

八重樫あゆみ(写真家・ツアーガイド)

 2020年7月。夏の季節も半分過ぎ去ろうとしている。そして、あとひと月半ほどでオーロラの季節がやってくる。近年、太陽黒点数は2014年頃を境に徐々に減少し、現在は太陽黒点の現れない日が年間に70%以上を占めるような太陽活動停滞期に突入している。オーロラの活動度は太陽活動に比例し、黒点数が多ければ多いほど太陽フレアやCME(コロナ質量放出)が発生しやすく、オーロラの活動も活発になると一般的には言われている。そう考えると、太陽活動が活発でない期間はオーロラもほとんど発生しないのではと考えるのが普通であり、私も初めはそう思っていた。しかし、太陽活動のピークを過ぎて2年、3年…ついに太陽活動の停滞期を迎えた今でもなお、実はオーロラはまだ夜空に輝いている。今年もまたきっと、オーロラの季節はちゃんとやってくるのだ。

 夏の暑さが気づくと冷たい秋の風に変わり、夜の闇が徐々にやってくる8月後半、毎年オーロラの季節は華々しく幕を開ける。にもかかわらず、4月下旬からのオーロラハンターの夏休みボケはなかなか覚めず、瞬発力は鈍っており、シーズン一発目を寝過ごしてしまうということも個人的には少なくない。毎年どの夜をシーズン初オーロラと定義づけるか難しいところではあるが、私にとって、昨年2019年秋の最初のオーロラは8月最後の日だった。この日は、太陽のコロナホールから吹き付ける高速太陽風の影響で、弱い磁気嵐が起こっていた。その予報を見ていたため、子どもの寝かしつけを終えると私はいそいそと庭へ出た。すると、夜の早い時間から出るだろうという予想はばっちりと的中し、まだ青く薄明るい黄昏時の空に、力強いオーロラが姿を現したのだ。

画像1 2019年8月31日深夜撮影
画像2 秋特有の紫色が映える
画像3 黄葉とともに

 ところで、オーロラの季節でどの季節が1番好きかと聞かれると私はすぐに秋のオーロラと答えるだろう。これまで多くの方々にこのように語ってきた。理由はたくさんあるが、やはりすぐ思い浮かぶのは、色鮮やかな紫色のオーロラが見えやすいと言うことだ。白夜の季節が終わり、夜がやってくると言っても、まだまだ真っ暗な闇には程遠い。夜10時台から少しずつ暗くなりだし、それが完全に暗くなるのは真夜中12時過ぎといったところか。大きな磁気嵐が起こった時など、激しいオーロラが早い時間から現れる時もある。そういう時に夕暮れ時が重なると、空の色は青く、太陽の光と共鳴散乱したオーロラの色は紫色に輝き、色鮮やかな素晴らしい作品に仕上がるのである。また夕暮れ時のみならず、明け方にオーロラが出た時も同様である。9月や10月では、薄明の時間帯は大体朝6時から7時ごろとなっていく。私のオーロラハンティング歴の中で、最も美しく忘れられない紫色のオーロラは、2016年10月25日朝7時に現れたものだ。

画像4 2016年10月25日早朝撮影
画像5 ゆっくりと動く深い紫

 この日は、嵐が来ていたのはわかっていたが完全に寝過ごしてしまい、がっくりと肩を落として、嵐の去ったすがすがしい朝をただ楽しもうというつもりでふらりと外に出た。そうすると、薄明るい空にまだ白っぽい煙のようなオーロラが揺らめいている。慌てて家の中に入ってカメラと三脚を乱暴に掴み、また急いで外に飛び出した。慌ててシャッターを切った1枚目、デジタルカメラのモニターに浮かび上がったオーロラは、鮮やかな紫だった。心臓が高鳴る。信じられない思いで、震える指で何枚も何枚もシャッターを切る。シャッターを切っても切っても、カメラを通して見えるオーロラはすべて紫色だった。

 念のため書いておくと、この紫色のオーロラは、おそらく個人差はあるが肉眼ではっきりと鮮やかな紫色が見えるわけではない。少なくとも、私は実際の目でくっきりとした紫色を見たことはない。落胆させてしまったら申し訳ないが、紫色のオーロラは、カメラを通して楽しめるものだと私は考える。だからこそ、シャッターを切ったときの衝撃は忘れられない。目に見えない美しい宝物を発見する、まさにオーロラハンターの醍醐味とも言える。

 話を元に戻そう。毎年10月も終わりに入ると、アラスカはたちまち寒い日が多くなり、この辺りで降る雪は根雪となることも多い。ただ、2019年の10月、かなり暖かな日々が続いた記憶がある。私がアラスカに移住してきて6年経つが、いつもは10月末ともなると雪がちらつき、気温は氷点下になるかならないかといったところ。せっかくのハロウィンコスチュームはいつも分厚いコートの下に着ることしかできなかった。しかし昨年は暖かな日差しの中、皆自慢のコスチュームをひらひらと風になびかせながら、市内の大きな公園でTrick or treatのイベントを楽しんでいた記憶がある。昨年は特に雪も少なく、そういう冬の始まりが最近多くなってきている気がする。

画像6 2019年9月17日撮影
画像7 2019年9月23日撮影
画像8 2019年10月24日撮影

 ホリデーシーズンの11月、12月は、なかなか天候との兼ね合いも悪く、あまり良いオーロラは見られなかったように思う。そして年が明けた。この頃から、ひと月後の出産を控えた私の大きなお腹はついにスノーパンツに入らなくなり、私は外でのオーロラ撮影をしばし諦めた。最近では、真冬の悪天候が重なると一月近くオーロラが見えない日々も少なくないが、この月は明るい月夜の下にゆれる、記憶に残るオーロラナイトが一夜だけあった。

画像9 2020年1月9日 -40℃近く冷え込んだ夜。室内より撮影

 それからふた月ほど期間をあけて、今年2020年3月下旬、私は再びカメラを抱えて真夜中の空の下へ出た。久しぶりに良く晴れた春の空。空気はまだきーんと冷たかった。オーロラ自体はそれほど激しいものは見られなかったが、天頂にすっと伸びるSTEVE(スティーブ)をとらえることができた(STEVE:赤色に輝く細長い帯状の大気の発光現象であり、オーロラとは異なる)。

画像10 2020年3月28日撮影

 その2日後。この日は地球に到来した高速太陽風の影響を狙って、深夜4時半まで粘った。上弦の月がちょうど山の奥へ沈むころ、その月を取り囲むように淡い光が揺らめきだし、それはどんどんと激しさを増していった。

画像11 2020年3月30日撮影
画像12 沈む月からたなびくような強い光のカーテン

 4月に入ってもなお、オーロラはまだまだ出続けるので油断は禁物である(オーロラを追いかけ始めてから13年ほど経つ私自身の記録では、最も遅く確認できたオーロラは5月9日である)。春のオーロラは秋と同様、夕焼けや朝焼けの太陽光の影響を受けるため色鮮やかになるものが多い。この日も例に漏れず、カメラのモニターの中には透き通るような紫色のカーテンがあった。

画像13 4月13日深夜撮影
画像14 春の紫オーロラ

 以上、2019-2020年シーズンのオーロラを駆け足でご紹介させていただいた。このように、ソーラーミニマム(太陽活動停滞期)と言われる期間であっても、オーロラが全く見えないと言うわけではない。個人的な感覚だと、ソーラーミニマム期では確かに色鮮やかで派手なブレークアップの頻度は少ないように思う。もちろん私もオーロラの全てを知っているわけではないし、オーロラシーズン通して一晩中オーロラを待っているわけでもないので、一概にこうだと言うことは難しい。けれども、ソーラーミニマムであっても、未だ解明できないようなメカニズムで発生する磁気嵐などもあると聞く。世界中のオーロラ愛好家の人たちは、太陽フレアや太陽黒点数が少ないと嘆き悲しまずに、しばらくは太陽の活動が活発でなくとも発生する現象で現れる、特別なオーロラを探してみても良いかもしれない。

 最後に、一周期前の太陽活動停滞期だった2009年冬のオーロラを以下に紹介し、本記事を締め括りたいと思う。

画像15 2009年12月8日撮影 北極圏
画像16 2010年1月3日撮影
画像17 2010年1月10日撮影

八重樫あゆみ(やえがし あゆみ)プロフィール

オーロラに惹かれ、2007年よりアラスカへ通い始める。東北大学大学院で 2 年間のオーロラ研究を経験したのち、2014 年にアラスカ州フェアバンクスへ移住。現在は二児の母として子育てに奮闘しながら、写真家やツアーガイドとして活動している。

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