シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業」第8回
- 2018.07.24
- 第14回 メルマガ
- シリーズ「日本の南極地域観測事業を支える企業たち」, 観測隊, 企業, 南極
株式会社大原鉄工所~南極地域観測隊の雪上車を担う~
第59次南極地域観測隊 越冬隊員 小島裕章 インタビュー
昭和基地で再会した大原鉄工所の小島裕章隊員(左:59次隊)と中西勇太隊員(右:58次隊) |
大原鉄工所は国内唯一の雪上車メーカーとして南極地域観測隊が使用する内陸トラバース用の大型雪上車SM100Sや昭和基地周辺で使用する小型の雪上車を製造してきました。またそれらの雪上車を南極で運用するために毎年社員を越冬隊に派遣しています。第59次南極観測隊には小島裕章さんが参加することになりました。そこで南極に向けて出発する直前に南極に懸ける思いをお聞きしました。
インタビューは平成29年10月19日に国立極地研究所南極観測センターで行いました。
インタビュアー:福西 浩
福西 | 南極に出発される直前のお忙しい時期にインタビューのために時間を割いてくださりありがとうございます。最初に、会社ではどういう仕事をやってこられたか紹介していただけますか。 |
小島 | 入社当時は環境関係のリサイクルの仕事をしていました。でも南極に興味があったので部署を異動させてもらって、雪上車に係わる仕事をしてきました。 |
福西 | 最初に南極に行きたいと思った動機はなんですか。 |
小島 | 会社を探している段階で新潟県に南極の仕事をしている会社があると知ったことです。こんな会社で働いてみたいと思い応募し、運よく採用になりました。 |
福西 | 入社後、いつごろから南極に行くことを希望されたのですか。 |
小島 | 入社後すぐです。今から12年ほど前ですが、会社には南極経験者がたくさんおられたのでいろいろとお話を聞かせてもらいました。すると、南極観測隊では日本で体験できないことがいっぱいあったとか、一生の友だちができたとか、とても興味を惹かれる話を聞かされて、ぜひ自分も南極に行ってみたいと思ったのです。 |
昭和基地の様々な雪上車
福西 | 昭和基地にはたくさんの雪上車があり、その整備と運用を担当されるわけですが、具体的にどのような雪上車があるのですか。 |
小島 | 昭和基地で使用している雪上車には大原鉄工所製の大型・小型雪上車とドイツ製の雪上車ピステンブーリーがあります。 |
福西 | それではまず大原鉄工所の雪上車について紹介してください。 |
小島 | 昭和基地の周辺地域で使用する小型雪上車と昭和基地から1000km離れた高度3810mにあるドームふじ基地に物資と人員を輸送するための大型雪上車SM100Sがあります。 |
福西 | 小型雪上車はどのように使用するのですか。 |
小島 | 越冬隊は昭和基地の南方約20kmにあるラングホブデや約50kmにあるスカルブスネスの露岩地域に調査隊を送り、湖沼の調査やペンギン調査をします。調査旅行はかなりの頻度で行われますが、その時に使用するのがSM40Sです。昭和基地は東オングル島にありますので、雪上車の走行ルートの大部分は海氷上です。そのために海氷上に雪上車の安全な走行ルートを決めるためにルート工作がまず必要になります。ルート工作には浮上型小型雪上車SM30Sを使用します。 |
福西 | 内陸旅行用のSM100Sはどのような雪上車ですか。 |
小島 | ドームふじ基地の建設と維持のために開発された大型雪上車で、車両重量は11トン、最大ソリ7台を牽引して-60℃での走行が可能です。車内で生活できるキャンピングカーのような雪上車です。 |
内陸旅行の出発点S16で待機するSM100S雪上車 |
南極大陸S17航空拠点でドロームラン航空機で帰国する隊員を見送る |
福西 | それではピステンブーリーとはどんな雪上車ですか。 |
小島 | ピステンブーリーにはPB100とPB300の2つのタイプがあります。PB100の主な用途は、昭和基地に接岸した「しらせ」から荷下ろしされた12フィートのコンテナを昭和基地まで氷上輸送することです。また基地内の除雪作業や航空機滑走路の整備にも使用します。PB300は南極の内陸部でも使用可能な雪上車で、各国が使用しています。59次隊では先遣隊が11月に飛行機で昭和基地に入り、ドームふじ基地までの往復旅行をすることになっているのですが、PB300が先導車として使用されることになっています。 |
福西 | 昭和基地には様々な種類の雪上車がありますが、全部で何台くらいあるのですか。 |
小島 | ほとんど使用していないものも含めると全部で30台近くありますが、よく使われているのはそのうちの15台ほどです。 |
福西 | これだけたくさんの雪上車をどうやって整備するのですか。 |
小島 | 私だけで整備するのはもちろん無理ですので、タイヤを装着した装輪車の整備を主に担当するいすゞ自動車から派遣された関根隊員に応援してもらい、さらに他の隊員にも手伝ってもらうことになります。 |
昭和基地での物資輸送用のSM65雪上車の整備 |
昭和基地での雪上車整備作業 |
日本での訓練
福西 | 南極に出発する前にいろいろな訓練をされたのですか。 |
小島 | 大原鉄工所の雪上車の整備に関してはこれまで仕事でやっていましたので、特に訓練はしませんでしたが機械隊中心に大原鉄工所にて整備訓練を行いました。それとピステンブーリーの整備の訓練も受けました。 |
福西 | ピステンブーリーは全然違うタイプの雪上車ですか。それともかなり似ているのですか。 |
小島 | ピステンブーリーはゲレンデ整備車(圧雪車)で、大原鉄工所もゲレンデ整備車を製造していますので、整備の仕方にはそれほど大きな違いはないです。 |
福西 | 南極で使用している大型雪上車SM100Sは日本にはないですね。 |
小島 | いいえ、昨年57次隊で持ち帰って来たSM100Sをオーバーホールしまして、59次隊で持ち込みます。この10月10日の週に完成検査があり、出荷準備が整いました。 |
福西 | その雪上車の整備に関係されたのですか。 |
小島 | いえ、関係していません。私が59次隊員に選ばれる前に整備は始まっていましたので。 |
福西 | ではSM100Sの整備はこれまでの雪上車整備の経験をもとに行うことになりますね。 |
小島 | そうですね、SM100Sを整備した実績がないので自信はないですが、やるしかないと思っています(笑)。真面目に、頑張って来ようと思っています。 |
福西 | 59次隊では先遣隊が昭和基地からドームふじ基地までの往復旅行を実施するとのことですが、60次隊でも実施の予定はありますか。また実施された場合に、その旅行に参加される予定はありますか。 |
小島 | 多分実施されることになると思います。私はドームふじ基地へは行けませんが、途中のみずほ基地までの旅行へ行けるかもしれません。あこがれの内陸旅行を経験し、雪上車の整備で頑張りたいと思っています。 |
南極で楽しみたいもの
福西 | 南極では他にどんなことを体験してみたいですか。 |
小島 | 星空とオーロラを見てみたいですね。昭和基地ではオーロラはよく見えると聞きましたから。 |
福西 | そうですね、昭和基地はオーロラ帯の真ん中にあり、南極の各国の観測基地の中ではオーロラが一番よく出現する場所です。他にぜひ見たいと思っているものはありますか。 |
小島 | 沿岸の調査旅行に参加してペンギンも見たいですね。水族館にいるペンギンしか見たことないので。 |
福西 | アデリーペンギンの繁殖地があちこちにありますのでゆっくりと観察してください。私の経験ですが、ペンギンの動作は一日中見ていても飽きません。ところで趣味は何ですか。 |
小島 | 結婚する前までは山登りが趣味でした。普通のハイキング程度ですけど。それに釣りも趣味の一つです。 |
福西 | 昭和基地には釣りの道具が置いてありますからぜひ釣りを楽しんでください。魚は簡単に釣れますが、海氷に穴を開ける作業が一番大変です。 |
家族のこと
福西 | 最後にお伺いしたいのですが、越冬隊は1年4か月も家族に会うことができませんが、今度南極行くことになって、ご家族の皆さんは応援してくれていますか。 |
小島 | 結婚して3年目になるのですが、お付き合いしている段階で、「南極に行くかも知れないから、行ったら1年半くらい帰って来られないよ」と言って、承諾済みで結婚したのです。でも南極に出発する日が迫ってくると、子供も小さいので少し寂しいですね。でも行くしかないです。両親には前から南極に行きたいと言ってますので応援してくれています。 |
福西 | 非常にご理解のあるご家族ですね。 |
小島 | はい、とても助かります。 |
福西 | 本日はお忙しい中でインタビューの時間を作ってくださりありがとうございました。南極での活躍をお祈りいたしております。 |
小島裕章(こじま ひろあき)プロフィール1984年生まれの34歳で、新潟県長岡市在住。妻と2歳の息子の3人家族。2005年に㈱大原鉄工所に入社する。2017年に第59次南極地域観測隊の機械(雪上車)担当隊員となり、現在は南極昭和基地に滞在中。 |
インタビュアー:福西 浩(ふくにし ひろし)プロフィール公益財団法人日本極地研究振興会常務理事、東北大学名誉教授。東京大学理学部卒、同理学系大学院博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。専門は地球惑星科学で、地球や惑星のオーロラ現象を研究している。 |
南極と株式会社大原鉄工所
新潟県長岡市に1907年(明治40年)に石油削井機の機械部品製造会社として設立され、2017年に創業110周年を迎えた。1952年にわが国初の雪上車を開発し、現在では唯一の国産メーカーとして南極観測用雪上車、自衛隊用雪上車、スキーリゾートで活躍するゲレンデ整備車を製造している。さらに、下水処理プラント、リサイクル機器及びプラント、バイオガス発電等の分野でも事業を展開している。南極地域観測隊に毎年社員を派遣し、昭和基地や内陸で使用する雪上車の整備を担っている。
内陸旅行用のSM100S雪上車 |