サイエンスシリーズ「オーロラから宇宙環境を知る」第3回

地磁気の永年変化と南北磁極の移動
福西 浩(東北大学名誉教授)

太陽風から地球を守る磁気圏

 地球は巨大な磁石になっており、この磁石が太陽コロナから吹き出す太陽風 (超音速のプラズマの流れ)を守る磁気シールドになっています。太陽風は地球の磁場を閉じ込めて磁気圏を作り出します。磁気圏は、太陽方向は圧縮された形になり、反対側は尾を引いた形になっています(図1)。

図1.地球の磁気圏の形

この磁気圏の中でオーロラ粒子(主に高エネルギーの電子)が作り出され、この粒子が磁力線に沿って北極・南極上空に降下し、高度100~500km付近の希薄な大気と衝突し、発光させたのがオーロラです。オーロラを発光させるエネルギーは太陽風から供給されます。

急激に弱まってきた地球の磁場

 地球の磁場を地磁気といいますが、地磁気の形は地球の中心に棒磁石を置いた双極磁場モデルで近似されます(図2)。棒磁石の軸は地球の自転軸と約9°ずれています(2020年現在)。この棒磁石の軸が地表面と交わる点を、北半球側は地磁気北極(北磁軸極)、南半球側は地磁気南極(南磁軸極)といいます。しかし、実際の地磁気の形は双極磁場モデルよりももっと複雑な形をしています。そこで実際の磁場に近い磁場モデルが開発されており、これをIGRFモデルといいます。

図2.地球の双極磁場モデル

 地磁気は地下約2900~5100kmにある外核(液体のニッケルと鉄が主成分)での熱対流と地球の自転運動によって作り出されています。対流の形は絶えず変化しており、その変化によって磁場の強さや形が変わり、磁極の位置も移動します。北磁極と南磁極が入れ替わる地磁気の逆転も数十万年ごとに起こっています。一番新しい地磁気逆転は約77万年前で、この時の地質時代は日本が提案した「チバニアン」と命名されました。

 地磁気が逆転する前は地磁気の強さが急激に減少することが分かっていますが、最近、地磁気の強度が急激に減少し始めており、地磁気の逆転にまで進んでいくのか注目されています(図3)。

図3.地磁気強度(地磁気ダイポールモーメントで表す)の急激な減少が進行中(京都大学地磁気世界資料解析センター)

加速する磁極の移動速度

 双極磁場モデルやIGRFモデルで決めた北磁軸極や南磁軸極とは別に、磁力線が地面と垂直に交わる点を、北半球側は北磁極、南半球側は南磁極といいます(図4)。地磁気の磁場強度の減少にともなって北磁極と南磁極の移動速度も速まっています。

図4.北磁極と南磁極の定義

 図5は西暦1590年から2020年までの北磁極の移動軌跡を示します。北磁軸極の移動に比べて北磁極の移動が大きく、特に1950年以降に移動速度が加速していることがわかります。図6は1900年から2020年までの南磁極の移動軌跡を示します。始めは南極大陸の中にありましたが、1960年以降は南極大陸を飛び出して南極海まで移動しました。移動距離は北半球よりもかなり短いですが、この磁極移動の南北非対称な振る舞いは、地磁気を作り出す外核での熱対流が南半球と北半球で対象でないことによります。

図5.1590年から2020年までの北磁極の移動軌跡
((公財)日本極地研究振興会2018年発行の北極域地図の一部を表示)
図6.1900年から2020年までの南磁極の移動軌跡
((公財)日本極地研究振興会2018年発行の南極大陸地図の一部を表示)

磁極の移動とオーロラ帯の移動

 オーロラが最もよく現れる地域をオーロラ帯と呼びます。北磁軸極または南磁軸極を中心に磁気緯度で約60°~ 70°の範囲がオーロラ帯です。磁極の移動に伴ってオーロラ帯も移動します。図7は西暦850~1700年の期間の北半球のオーロラ帯の位置を示します。西暦1200年頃のオーロラ帯の位置は現在よりも日本側によっており、大きな磁気嵐が起こった時には日本からもオーロラを見ることができたと思われます。

図7.西暦850年から1700年までのオーロラ帯の移動(小口、1993)