シリーズ「極地を科学教育とキャリア教育に生かす」第4回

第60次南極地域観測隊の南極授業

高橋和代(東京都調布市立第七中学校 教諭)

この度わたしが第60次南極地域観測隊に同行させていただき、昭和基地から中継授業をしたのは、勤務校である東京都調布市立第七中学校と、神奈川県逗子市にある科学館「理科ハウス」でした。教員人生において二度とない貴重な経験をさせていただきましたことを、みなさまに心より感謝申し上げます。教員派遣プログラムの大きなミッションのひとつである、南極授業のご報告をさせていただきます。

【調布市立第七中学校】
 南極授業は1、2年生の生徒およそ250名を対象に行うことになりました。出国前に、南極についての予備知識を共有するプレ授業を行いました。1年生は社会科で世界各地の気候を学びます。また、2年生の国語の教科書には、極地の海氷やバイオロギングについての論説文が出てきます。将来へ向けてのキャリア教育も始まる中学生にとって、南極授業は教科を横断して学ぶのにとても有効であると感じました。

出国まで発行していたお便り

プレ授業で使ったスライドの一部

国立極地研究所 真壁竜介先生よりお借りした海洋動物プランクトンのスライド。このほかにも、樹脂包埋標本をナンキョクオキアミが南極の動物たちの食を支えていることを理解するのに使わせていただいた。

南極授業本番では、代表の生徒たちに氷山の氷を観察して感想を話してもらったあと、海の水も凍ることを伝えました。氷は実物を見せたほか、偏光板を使って撮影した氷の結晶がわかる写真を提示して、凍る過程が推測できることなどを話しました。

氷山の氷を偏光板を通して撮影。結晶の境目が見えるほか、気泡もよく見える。

海氷も偏光板を通して撮影。縦に結晶が成長していることがわかるだけでなく、ブラインらしき水滴も見える。

また、夏の南極観測のようすや、設営の夏作業のシーンを動画やスライドショーにして紹介しました。

事後に行ったアンケートでは、南極の氷についての興味がわいた、氷山と海氷の違いが分かった、などの記述がたくさんありました。この授業だけで理解できたとは思いませんが、子どもたちが地球環境を考えるきっかけになり、極地や地球全体の環境を身近に感じ、より自分ごととして考えられるようになっていたらよいと思っています。

【理科ハウス】

昭和基地との中継では、「南極の地磁気の値は大きそうだから、電磁誘導を使って発電した時の値も大きくなるのではないか」という仮説のもと、実験授業を行いました。内容については、理科ハウスの森由美子さん、山浦安曇さんとわたしの3人で半年間考えたうえで出国しました。理科ハウスは体験・思考型の大変面白い科学館なので、展示物も南極授業が盛り上がり、より深く理解できるよう工夫を凝らしてくださいました。

また、昭和側では夏作業のお忙しい中で打ち合わせや準備を重ね、みなさんが最高のパフォーマンスをしてくださいました。

実験結果から生じる疑問に国立極地研究所の金尾政紀先生やモニタリング隊員で大学院生の二村有希さんがその場で解説してくださったほか、南極に関する質問に隊員のみなさんが楽しそうに話してくださるなど、昭和基地をとても近く感じる、和やかな時間となりました。

 

【帰国後のわたしの活動】

6月2日に、理科ハウスで帰国報告会を催していただきました。中継では伝えきれなかったことを、たくさんの写真や動画とともに対面で話すことができました。

また、往復のしらせで少しお手伝いさせていただいた海洋観測については、もっとも心惹かれ、今も興味がひろがっています。この時に撮った写真をお見せした際には参加者からも歓声が上がり、わたしも再び感動を思い出す、楽しい時間でした。

さらに、しらせで同室だった丸尾文乃さんにもきていただき、しらせの生活やコケの研究についての話をしていただき、よりひろがりのある催しになりました。

調布七中では、6月15日に保護者も参加できる形での報告会を行いました。理科ハウスでも行ったように、観測隊のヘルメットやユニフォーム、わたしの使った装備品、南極の氷山氷、そして前出の樹脂包埋標本を展示し、どれも手に取って見られるようにしました。また、今度は中継ではないので、子どもたちの中に入って行ってやりとりをし、子どもたちの理解や興味を確認しながら話しができました。

この後も、希望者を募って2回ミニ講座を開催しています。

今後は、理科の授業を通して生徒たちにいかに地球環境を考えさせられるか、自分ごとにさせられるかがわたしの課題です。人間生活からは遠く離れた特別な場所であるはずの極地でも、その影響がいくつも確認されています。中継や報告会のあの生き物たちや景色がわたしたちの生活とつながっていることを、日ごろの学習の中で意識させ、考える人たちを育てる手立てを模索しています。

※理科ハウス

 神奈川県逗子市にある体験型の私設科学館。対象年齢は13歳以上の、ちょっと大人向けの内容です。たくさんある展示物やしかけを手に取り、試行錯誤を楽しみながら科学を学ぶことができます。森裕美子さんと山浦安曇さんのファシリテートに導かれ、のめりこんでいくことうけあい。疑問にはスタッフが答えてくれるだけでなく、理科好きな来館者との会話が生まれ、立場や年齢を超えた熱い議論に発展することも。時刻が決まっている実験ショータイムは絶対に参加をお勧めします。詳しくは、http://licahouse.com/ 

高橋和代(たかはし かずよ)プロフィール

現在、調布市立第七中学校ほか、東京都時間講師として都内の小・中学校で理科を担当している。南極観測隊での体験をSDGsを取り入れた授業として活用しようと奮闘中。

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