理事長就任のご挨拶

 このたび、理事長に就任いたしました福西浩です。就任にあたり一言ご挨拶申し上げます。
 日本極地研究振興会は、1964年の創立以来、半世紀を超えて南極・北極地域での研究・教育活動を支援し、それらの活動から得られる成果を社会に普及啓発し、青少年教育に役立てるための様々な取り組みを行ってきました。2013年4月の公益財団法人への移行を機に、その事業内容を大幅に拡充し、新たにフルカラー印刷の南極と北極の総合誌「極地」の刊行、最新のデジタル地形データを用いた各種の南極・北極地図の刊行、教員南極派遣プログラムの支援、国立極地研究所南極・北極科学館ミュージアムショップの管理運営、南極&北極の魅力講演会シリーズの開催など多彩な事業を展開してきました。
 現在、地球上で最も原生的な自然環境が残された南極・北極域は、科学のフロンティアとして研究者を惹きつけ、新しい発見が続いていますが、人為起源の南極オゾンホールの発見など、極地が地球規模の環境変動の兆しを捉える敏感なセンサーの役割を担っていることが注目されています。また雪氷圏と呼ばれる南極・北極域では、大陸氷床や海氷の融解によって温暖化が他の地域よりも2~3倍の速度で進行していることも明らかになり、地球温暖化を加速する極地の役割が注目されています。加えて、北極域では北極海の海氷の急激な減少によって北極航路の利用や資源開発などの経済活動も活発になってきており、また地球上に残された最後の秘境として南極・北極観光も盛んになってきました。
 このように、南極・北極域は地球の未来にとって新たな意味を持ってきました。2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、持続可能な社会を創り出すために経済、環境、社会、教育などのあらゆる課題の解決を目指しており、我が国でも経済界や地域社会など、ほぼすべての分野でSDGsへの取り組みが始まっています。持続可能な社会を創り出すという困難な仕事の担い手には地球環境の未来像を予測して未解明の問題に果敢に挑戦する行動力が必要になります。温暖化が先行する極地は、地球環境の未来像を考える教材として最適な場所です。また、極地の厳しい自然環境下で未知の世界に果敢に挑戦する極地専門家の行動力とチームワークはSDGs達成の担い手が必要とするものです。そこで、「南極・北極から地球の未来を考える」を当財団のこれからのミッションステートメントとし、SDGs達成の担い手を育成する活動を推進していきたいと考えています。
 今後とも皆様方と連携しながら、極地での研究・教育活動の支援とその成果の社会への普及啓発活動に全身全霊で取り組んで参りたいと思います。より一層のご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

2020年7月15日

公益財団法人日本極地研究振興会

理事長  福西 浩