サイエンスシリーズ「オーロラから宇宙環境を知る」第2回
宇宙から見たオーロラと地上から見たオーロラ
福西 浩(東北大学名誉教授)
宇宙からみたオーロラ
オーロラは高度約100~500kmの非常に希薄な大気が発光する現象です。最もよく見られるオーロラは、酸素原子が発光する緑色のオーロラと赤色のオーロラです。緑色オーロラの発光領域は高度約100~250kmで、それより高い高度は赤色オーロラの発光領域です。国際宇宙ステーション(ISS)の高度は約400kmなので、ISSに搭乗した宇宙飛行士はオーロラを下方に見ることになります。地上と違ってISSは雲の上を飛行していますので、雲にさえぎられることなく、オーロラをはっきりと見ることができます。
図1の動画は2011年9月17日にISSから撮影されたオーロラです。下部が緑色、上部が赤色のカーテン状のオーロラやその中に現れる渦の列、また雲のような形をした点滅するオーロラが印象的です。
図2はISSから見たオーロラの発光高度を示した図で、高度250km付近で緑から赤に色が変わることが分かります。この色の変化は酸素原子を発光させる電子のエネルギーの違いによりますが、そのことはこのシリーズの先でお話します「オーロラの発光のしくみ」のところで説明します。
地上から見たオーロラ
図3は地上から見たオーロラの発光高度を示した図で、やはり高度250km付近で緑から赤に色が変わることが分かります。ISSからは数千キロにわたるオーロラ発光域の全体を見ることができますが、地上からはその一部しか見ることができません。でも地上でのオーロラ観測の利点はオーロラの細かい構造や早い時間変化をとらえることができることです。
図4の動画はアラスカオーロラ観光ツアーの記録で、2014年2月18~19日に見られたオーロラ嵐です。オーロラのカーテンの中にたくさんの光の筋(レイ)が現れ、それらが激しく動く様子が見られますが、この光の筋は磁力線の形を表しています。オーロラを発光させる高エネルギー電子はオーロラ発光高度よりもずっと高い地上3,000~12,000kmの宇宙空間でつくり出され、磁力線に沿って大気圏に向かって降下します。降り注ぐ電子の数が多い所ほどオーロラは明るく輝くので、降下する電子の量の濃淡がオーロラの光の筋となって現れます。オーロラは目には見えない磁力線の形を可視化してくれるわけです。
また、この動画の後半では画面の左側から明るいオーロラが渦を巻きながら明るさを増し、右側に拡大していく様子が見られますが、こうしたオーロラの動きはオーロラ嵐の典型です。
国立極地研究所(東京都立川市)は、南極・北極域での研究から得られた成果を広く社会に知ってもらうために南極・北極科学館を2010年に開館しましたが、その中に直径4mの全天ドームスクリーンをもつTACHIHIオーロラシアターがあり、フルカラーのオーロラ動画を見ることができます。現在は新型コロナウイルス感染症対策のために一時休館中ですが、上映した番組をYoutubeで公開しています。
図5の動画は、第56次南極地域観測隊が昭和基地で越冬観測した2015年のオーロラ嵐の記録です。実際のオーロラの変化を10倍速で編集したものです。映像の前半は夕方19時頃の時間帯に出現したカーテン状オーロラの例で、カーテンの中を動くレイ構造(光の筋)が見事です。後半は午前6時頃の時間に出現したパルセーティングオーロラ(脈動オーロラ)の例で、オーロラのカーテンが崩れ、オーロラの明るさが周期的に変動する様子が見られます。
【覚えておこう】
地上観測では極域全体にわたって出現するオーロラの一部しかとらえることができません。宇宙からのオーロラ観測は研究者の長年の夢でした。初めてオーロラの発光領域全体をとらえたのは1971年に打ち上げられたカナダの電離層観測衛星ISIS-2(高度1400kmの極軌道衛星)でした。1972年からはより空間分解能の高いオーロラ画像がアメリカのDMSP衛星(高度800kmの極軌道衛星)でとらえられましたが、これらの衛星は1軌道で1枚の画像しか得られず、オーロラの時間変化をとらえることができませんでした。初めて宇宙からオーロラ発光領域の瞬時の画像を得たのは1978年に日本が打ち上げた「きょっこう衛星(EXOS-A)」でした。きょっこう衛星は近地点630km、遠地点4000㎞の準極軌道衛星で、オーロラ画像だけでなく、オーロラ発光の原因となるオーロラ粒子やプラズマ波動を観測しました。その後、オーロラ観測のために多数の衛星が米国、ヨーロッパ、日本から打ち上げられ、オーロラの科学は急速に発展しました。
福西 浩(ふくにし ひろし)プロフィール公益財団法人日本極地研究振興会理事長、東北大学名誉教授、日本地球惑星科学連合フェロー。東京大学理学系大学院地球物理学専攻博士課程修了、理学博士。南極観測隊に4度参加し、第22次隊夏隊長、第26次隊越冬隊長を務める。1986年より2007年まで東北大学理学研究科地球物理学専攻の教授として惑星大気物理学分野の発展に努める。2007年より日本学術振興会北京センター長として4年間北京に滞在し、日中学術交流の発展に尽力する。専門は宇宙空間物理学で、地球および惑星のオーロラ現象や雷放電発光現象等を研究している。 |