ご挨拶
- 2022.01.30
- 極地研究振興会 Webマガジン
- ご挨拶
このたび、日本極地研究振興会による新しいwebマガジンがスタートします。私は、編集長を仰せ付かりました、日本極地研究振興会理事で北極冒険家の荻田泰永です。
みなさんが極地に抱くイメージはどんなものでしょうか?寒いところ、ペンギンや白熊が棲んでいる、温暖化の影響が顕著、何にもなさそう、人間って住んでるの?様々だと思います。
なぜこのwebマガジンが始まるか、その理由の一つとして、断片的にみなさんが抱いているそれらのイメージを整理し、楽しみながら理解を深めていただくことを目指しています。
極地は遠いところでしょうか?確かに遠いイメージはありますが、実は北海道から2500km北上するとそこはもう北極圏です。東京から台湾くらいの距離しか離れていません。遠いのは、地理的な距離ではなく、心理的なイメージです。どこか遠い世界で我々の生活とは無縁に感じられる極地は、地理的に実は密接な場所であることから、我々の生活にも大きな影響を及ぼしています。
時々起きる冬の豪雪や、米の不作を招く冷夏など、北極圏の気候の影響を多大に受けています。これから先、北極海の海氷減少が進行すれば北極海航路が当たり前の事になるかもしれません。そうなれば、輸入に頼る日本の生活にとって輸送コストが変わり、物価に直接の影響があります。温暖化をはじめとした気候変動は、人類全体の喫緊の課題です。極地を正しく見つめることで、実は私たちの生活と繋がっていることを知るでしょう。
私は冒険という手段で20年以上にわたって極地に関わってきました。この20年の北極の変化は著しいものがあります。2007年と2012年の2度、夏季の海氷の大幅な減少は、世界に衝撃を与えました。私も、このまま北極海での冒険は不可能になるのではないかという危惧を抱きました。
北極や南極の極地では、今日も研究者が様々な観測を続けています。技術の発達や多くの研究によって今後の予測を立て、社会生活を振り返るきっかけとし、人間だけに限らない地球全体の命すべてに対して、我々人類の生き方を考えることが、科学技術向上の目的でしょう。
科学とは、数字の話ではありません。極めて、命の話です。極地にも命があります。そんな命の営みは、日本社会とも密接に繋がっていることを、このwebマガジンから感じていただけたら幸いです。
編集長 荻田泰永