第62次南極観測隊長のミニレポート①「コロナ渦に南極大陸にむけて出発!しらせの中での生活はなんと1か月!」

 橋田 元

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橋田隊長プロフィール

2020年11月に日本を出発し、2021年2月に南極から帰国した
第62次日本南極地域観測隊・夏隊(JARE62)の橋田隊長のミニレポートです。
コロナウィルス感染拡大のなかの出発となり、感染予防をしながらの出航となりました。
レポート期間は2020/11/29~2021/02/21です。
【 記事・写真提供:国立極地研究所(@kyokuchiken)】

今回は第弾!
「コロナ渦に南極大陸にむけて出発!しらせの中での生活はなんと1か月!」

2020年11月29日 ~ロンボク海峡を抜けてインド洋へ~

“しらせ” に乗船までの2週間、隔離の最中に季節は足早に冬に向かっていた。

出発後は一路南下し、セレベス海に入ると気温、水温とも30度近くまで上がり、巨大な積乱雲やスコールが間近に見える。間もなくロンボク海峡を抜けてインド洋に入る。
北半球から南極への“しらせ”での移動は、ダイナミックな気候の変化を比較的ゆっくりと感じることができそうだ。

ロンボク海峡を抜けた11月29日、インド洋の波高はそれほど高くはないが、長い周期の揺れを感じた。遠く、暴風圏からのうねりの名残だろうか。太陽は南回帰線に近く、正午頃には天頂付近まで昇り、空には僅かに彩雲も見えていた。 

通常“しらせ”はフリーマントル出航後、東経110度に沿って真南に進み、南緯60度付近から西に転じて昭和基地に向かうため、南下の5日程度で暴風圏を通過する。
今回はインド洋に入ると昭和基地に最短の南西に進路をとるため、暴風圏通過にはいつもの倍以上を要する。どうなることやら。 

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2020年12月上旬 ~昭和基地まで1か月間「しらせ」で生活する~

国内準備段階では、感染防止のために、隊員が集合して行う訓練や打ち合わせは思うようにできず、それを補うべくオンラインの打合せは頻繁に行った。
隊全体あるいはチーム毎に、お互いの考え方や行動の特徴を理解し合うことは、チームとして活動する上で欠かせないが、対面で行うそのような機会は僅かであった。

外国の研究船による観測航海に参加したことは何度もあるが、初めて会う乗員や研究者ばかりであっても、大概の場合は計画通りの観測はできる。できるように事前に十分やり取りしているから当然なのだ。

まして、日本人ばかりの観測隊であれば、オンラインで打合せをしっかり行えば、現地で初めて顔を合わせても、観測隊はその道ではプロの集団なのだから計画通りできるだろうだと言われれば、その通りだと思う。

だが、南極で一緒に活動するのは第61次越冬隊や“しらせ”乗員、プロ中のプロで構成されるチームであり、第62次隊も同じ程度の力量のチームになっていないと、1か月という短い期間で昭和基地での活動を予定通りに完了させることは困難かもしれない。

しかし、幸いにして、昭和基地までの航海は1か月と例年よりも長い。“しらせ”で共に生活しながら各チームが準備を行う機会は多いので、意欲を持って集まったメンバーなら自然とチーム力は高まるに違いない。

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2020年12月7日 ~波高8m!?海鳥とともに 「しらせ」 は走る~

Roaring forties, Furious fifties, Screaming Sixties 

天気図には台風のような低気圧がところ狭しと並び、予報では中心近くの波高は8m!

4mほどのうねりに揉まれ始めた“しらせ”を、数羽の海鳥が大波の山谷を縫って伴走している。

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2020年12月9日 ~ ケルゲレン海台に 差し掛かる ~

ケルゲレン海台に差し掛かるとBloomingを迎えた海は緑色を帯びていた。ここに留まり海洋観測を行うことが出来ればとても面白かったに違いない。

ケルゲレン諸島(仏領)とハード島(豪州領)の間を一路南西に抜ける時には、数十羽の海鳥が“しらせ”の航跡で時折羽を休めながら伴走してくれた。

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2020年12月10日 ~ いよいよ南極圏へ!3時54分、21時39分…これは何の時間?~

海鳥はほとんど見当たらない。水温、気温ともに2℃程度、風速18m/s、うねりの山を越える度に船体は海面に打ち付けられて小刻みに震える。最も波高の高い海域は避けられたものの、ピッチングと呼ばれる船体動揺で、“しらせ”がまるでバタフライで泳いでいるようだ。

甲板に出る時には防寒服が欠かせなくなり、南極圏を実感する。赤道を超えて来たので日を追うごとに気温は下がり、一方、夜が短くなる。今日の日の出は3時54時、日の入りは21時39分で、白夜を迎える日も近い。季節感が混乱してきた。

2020年12月11日 ~ 金曜日の昼食の定番はカレー🍛✨~

金曜日の昼食メニューはカレーが定番で、乗船した日の昼食から数えて今日は4回目、つまり3週間が経った。

海水温はマイナス1℃まで下がり、塩分も低く、しばらく前まで海氷に覆われていたが、夏に向かって融解が進んだことを伺わせる。海氷域はそう遠くなさそうだ。

2020年12月12日 ~ 今回の航海で初めて氷山を確認!~

船体の揺れはピッチングからローリングに変化し徐々に感じなくなった。

この日、今航海で初めて視認された氷山は、高さは数十mほどか。形はとても複雑で、数週間後には、細かく割れて形を留めていないかもしれない。

大陸氷床から流れ出てから、どれくらいの月日が経ったのだろう。

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しらせではイベントがたくさん行われます🎍

“しらせ”では正月準備の餅つきが行われ、搗き立てのお餅を頂いた。お雑煮、餡、ずんだ、きなこ、大根おろし、海苔などなど。このような手の込んだイベントが多く企画され“しらせ”のみなさんの心遣いが身に染みる。

杵を握る手からは握力が失われたが、箸を持つ力は残っていた。

ごちそうさまでした🥢

※2022年8月22日(月)公開予定です!


執筆者紹介

橋田 元

南極観測センター副センター長(観測担当)、国際・研究企画室副室長、COMNAP(南極観測実施責任者評議会)副議長

第62次南極地域観測隊では隊長(兼夏隊長)をつとめた。